第13話:敵対的M&Aの前に、まずは『モフモフの補給』から
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「……お姉ちゃん。私、もう限界」
昨夜の「アーケディア」からの脅迫電話から明けた、翌朝。
リビングのソファで、容子がげっそりとした顔で撃沈していた。
「どうしたの容子。昨日の今日で、もう敵対的M&Aのプレッシャーに負けたの?」
「違うよ! お姉ちゃんが朝から『世界中のGoogleストリートビューを脳に叩き込んで全自動テレポートの精度を上げろ』とかスパルタ特訓させてくるからでしょ!? 脳みそが知恵熱で知恵の輪になっちゃうよ!」
「うーん、たしかに特訓の効率を上げるには、適度な『ストレスケア』が必要かもしれないわね……」
私は顎に手を当てて思案した。
敵は世界規模の異能者組織。これから始まるのは、富と知略を巡る血みどろの経済戦争だ。
だが、戦う前にメンタルが擦り切れてしまっては元も子もない。
「決めたわ。容子、今すぐ出かけるわよ」
「えっ、どこに!? アメリカのサイバー基地!?」
「いいえ。都内の保護ペットシェルターよ」
「……はい?」
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「「キャアアアアア(カワイイイイイ)!!!!」」
数時間後。都内にある静かな保護ペットカフェ兼シェルターで、私と容子は完全に語彙力を失っていた。
足元にすり寄ってくる、フワフワのスコティッシュフォールド(茶トラ)。
そして、短い尻尾をちぎれんばかりに振って出迎えてくれる、つぶらな瞳の柴犬(黒柴)。
「見てお姉ちゃん! この猫ちゃん、私の膝の上に乗ってゴロゴロ言ってる! 喉の振動が【転移】の空間歪みより心地いい……!」
「容子、この柴犬の『まろ眉』を見なさい……! 私の手をアゴに乗せて『撫でろ』と催促してくるわ。社畜時代には存在しなかった『無償の愛』がここにある……!」
二重ロックのセキュリティ空間で、殺伐としたビジネスばかりをしてきた私たちの心が、音を立てて洗われていく。
「お客様、その子たちはどちらも元の飼い主さんの事情で保護された子たちでして……すごく人懐っこいんですよ」
店員さんが優しく微笑む。
私と容子は顔を見合わせた。言葉など要らなかった。
「決めたわ。二人とも、うちの子にする」
「賛成! 即採用! 年俸(高級フード)永久保証!」
「えっ!? お、お二人とも引き取られるんですか!?」
驚く店員さんを前に、私たちは手慣れた手つきで書類の記入と譲渡手続きを済ませた。
もちろん、タワマンのペット飼育許可と最高級の飼育環境のセットアップは、お金の力(と電話一本)で一瞬で完了させた。
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「ただいま〜〜! 新居だよ〜〜!」
タワマンの広大なリビングに、猫の『たま』と、柴犬の『ポチ』(※容子が命名)が足を踏み入れた。
広々としたキャットタワー、ふかふかのクッション、自動給餌器に最高の室内ドッグランエリア。
贅の限りを尽くした空間で、たまはソファーの特等席を陣取り、ポチはフローリングを嬉しそうに駆け回っている。
「はぁ〜……癒やされる……。画面越しに脅迫してきたボイスチェンジャーのオジサンの声が、全部吹き飛ぶ……」
容子がポチのお腹に顔をうずめてスリスリしている。
「フフ、容子。実はこの子たちを飼うことには、心の癒やし以外にも『絶大なビジネス的メリット』があるのよ」
「えっ、また悪徳実業家の顔になってるよ!? こんな可愛い子たちをビジネスに利用するの!?」
「利用じゃないわ、シナジー(相乗効果)よ」
私は優しくたまを抱き上げ、顎の下を撫でてゴロゴロと鳴かせた。
(チャリン、チャリン、チャリン……!)
「見てみなさい、この心拍数メーターを」
私のスマホアプリに表示されている、心拍数ボーナスのリアルタイム加算画面。
『現在心拍数:88 bpm(超リラックス&幸福状態)』
『1秒ごとの加算額:100円(※安定して高水準を維持)』
「……あ!」
容子が目を見開いた。
「緊張や興奮で心拍数を上げると、身体に負担がかかるし長続きしないわ。でも、動物と触れ合って『幸福感』で適度に脈拍が安定して高まると、疲弊することなく24時間ずっと高効率でキャッシュを生み出し続けられるのよ!」
「モフモフして『可愛い〜!』ってキュンキュンするだけで、チャリンチャリンお金が入ってくるってこと!?」
「そう! 癒やされながら稼ぐ。これぞ究極の『放置型・錬金術』よ!」
『ワンッ!』
『ニャ〜ン』
まるで「まかせろ」と言わんばかりに、ポチとたまが声を揃えた。
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その日の夜。
フカフカのソファで、膝の上にたまを乗せ、足元でポチを寝かせながら、私はiPadで「アーケディア」に関する情報を整理していた。
「お姉ちゃん、特訓の続きやるよ。ストリートビューの画像、だいぶ暗記できた」
「ええ。準備は万全ね」
敵は「行ったことがない場所へは跳べない」という私たちの弱点を突いてくるつもりだろう。
だが、今の私たちには覚醒しつつあるスキルと、無限の資金力、そして何より——
「家に帰れば可愛い愛犬と愛猫が待っている」という最強のメンタルアドバンテージがある。
「アーケディアの皆さん。私たちの平穏なモフモフ生活を邪魔しようとしたこと、後悔させてあげるわ」
私が不敵に微笑むと、膝の上のたまが『ニャ」と小さく同意するように鳴いた。
現代社会の裏に潜む異能者組織 vs 癒ややしを得て無敵となった双子姉妹。
『敵対的M&A』の第一弾ターゲットを決定する時が、刻一刻と近づいていた。




