第22話
「あ、アンタ、どうして――」
そう言った途端、『聖女』の顔色が見る見るうちに変わっていく。
「彼女にかけた呪い、あれは――俺が作ったんだろう?」
カリスタへの感情の大きさ、危うさは自分自身が理解している。
この感情の扱い方を間違えた先、制御できなくなった執着は『愛する人の存在を自分以外の目に映したくない』という考えを呼び寄せる可能性だってある。
現に彼女が呪いに掛かる前の自分は、他の者が彼女に魅入る度に心を乱し、どす黒い感情に見舞われていた。
何故、と言わんばかりの相手の顔に、思わず乾いた笑いが漏れる。
「カリスタから話を聞いた時、どうせそんな事だろうと思ったさ。俺の事は俺自身が良く分かっているから」
才能を誤った方向に使った結果。
それを『聖女』が先んじて示してくれたのはよかった。
お陰で苦しむ彼女を見て、当時の感情が正しくないものだったと我に返ることが出来たし……彼女を笑顔にする事こそが本当に望む事だと分かった。
「どうせ君が『女神の祝福』を使わずとも、どのみち時間を掛ければ俺が見つけられるという訳だ。……残念だったな? 他人のせいかを横取りした挙句、全部見透かされるなんて。……ちんけなままごとは楽しかったか?」
嘲笑と共に嘲れば、醜く顔を歪ませた『聖女』が叫ぶ。
「ッ、ただのゲームのキャラクターの癖にっ!!」
そんな言葉は、一切心に響かなかった。
自分という存在がただの作り物ではない事は、既に彼女が証明してくれていたのだから。
自分が何者であろう、本質がどれだけ醜かろうと、そんな事はどうでもいい。
カリスタ・エイミスという少女が傍で笑い続けてくれる……その光景の全てを記憶に刻める世界が手に入るなら、それだけで充分だ。
心の底から、そう思った。
***
私達は同じ馬車に乗る。
狭い馬車の座席に並んで座る間も、アルバートは私を腕の中に閉じ込めたまま離れなかった。
中庭の時と違うのは、彼がチラチラと私を見つめては満足そうに目を閉じてすり寄って来るといった動きを何度も繰り返している事だろう。
「あの、アルバート……」
「ん?」
「流石に、恥ずかしいわ」
「恥ずかしがっていればいいさ」
何度目かのチラ見の後、自分の心を打ち明けるも、彼はより満足そうに笑みを深めているだけだ。
「恥ずかしがっている君の顔も可愛らしいからな」
「……もう」
暫くはどんな顔をしても彼はご満悦なのだろう。
呪いが消えた事に喜んでくれるのは嬉しいが、表情が変わる度にまるで赤子が初めて立った時のように喜ぶのは、流石に気まずいものがある。
居心地の悪さを感じずにはいられない状況だが、それはそれとして、彼が私の事をそれだけ愛してくれているのだという事実は、私の胸を温かくさせた。
「アルバート。本当にありがとう」
「それはさっきも聞いたよ」
「何度言ったって言い足りないもの。……それから」
私は彼の胸にすり寄りながら囁く。
「――愛してる」
暫しの間があって。
気恥ずかしさが勝って離れようとした私を逃がさないと言わんばかりに彼に抱き寄せられて、私は唇を塞がれる。
柔らかい感触が重なり合った。
酸欠で頭が回らなくなってきた頃、漸く解放された私の目と鼻の先で、少し頬を赤らめたアルバートが柔く微笑む。
「俺も愛してるよ、カリスタ」
最早疑いようもない言葉。
けれど何度告げられようともきっと薄れる事はない幸福を感じるのだろう、甘い言葉に、私は笑みを返した。
「君の為なら何だって捧げられる。この瞳だって」
「何それ」
アルバートに手を取られ、導かれるように彼の目元に触れる。
その時呟かれた彼の言葉の意図が分からず、不思議に思った私はくすくすと笑った。
「何でもないさ」
それにつられるようにアルバートも笑って。
私達は熱いまなざしを交わしてからどちらともなく――再び、唇を重ね合わせるのだった。
***
これから先で起こる事なんて、全く予想も出来ないけれど、そんなのはもう今更だろう。
この世界の大本がゲームだろうが、定められた筋書きを知っていようが、そんな全てがひっくり返されてしまう事も、簡単に変えられる事も知っている。
結局大切なのは、自分達が何を選択し、どう生きていくか。
そして――
――誰と生きていくか。
それだけ。
彼と共にいれば、この先もどんな未来が待っていようと、きっと乗り越えていける。
そう心から思うのだった。
ここまで読んでいただきありがとうございました!
これにて完結になります!
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それではまたどこかで! ありがとうございました!




