ジェイン・オースティン略年譜+おまけ
=ジェイン・オースティン略年譜=
【誕生から前期3作執筆】
1775年:スティーブントンの牧師館でジェイン誕生
※十代なかばから小説を書き始める。のちの『分別と多感』の原型など。
1795年(20歳):トム・ルフロイとの婚約未遂
1795年(21歳):のちの『高慢と偏見』執筆開始
1797年(22歳):のちの『高慢と偏見』初稿完成/のちの『分別と多感』改稿開始
1798年(23歳):『ノーサンガー・アビー』執筆(〜99年)
【バースと父の死】
1801年(26歳):父の引退に伴い、バースに転居
1802年(27歳):ハリス・ビッグ=ウィザー(6歳下の友人の弟)からの求婚を断る
1803年(28歳):のちの『ノーサンガー・アビー』を出版社に10ポンドで売る ※出版はされず
1805年(30歳):父死去。兄弟の援助を受けながら、チョートン・コテージに移るまでサウサンプトンの貸家などで母や姉、友人などと暮らす
※1805年10月:トラファルガーの海戦
※1805年冬:ワージング滞在。未完の遺作『サンディトン』はワージングが舞台
【チョートン時代】
1809年(34歳):兄エドワードの所有するチョートン・コテージに移る
※チョートン・コテージはチョートンのカントリーハウスの近くにあるコテージ。もともとは執事の家。
1811年(36歳):『分別と多感』出版/『マンスフィールド・パーク』執筆開始
1813年(38歳):『高慢と偏見』出版/『マンスフィールド・パーク』脱稿
1814年(39歳):『マンスフィールド・パーク』出版/『エマ』執筆開始
※この頃、姪のファニーの恋愛相談に答える手紙が遺っている
1815年(40歳):『エマ』出版/『説き伏せられて』執筆開始
※1815年6月:ワーテルローの戦い
1816年(41歳):『説き伏せられて』脱稿
1817年:ジェイン没(誕生日前なので41歳)
※同年末の日付で、 『ノーサンガー・アビー』『説き伏せられて』に兄ヘンリーが著者略伝をつけて合本として出版。18年出版とされることもある
=使用した資料について(2022/9/24活動報告に加筆)=
■『ジェイン・オースティンの手紙』(岩波文庫)
タイトル通り、主に家族宛てのジェインの手紙の抜粋です。
姉カサンドラへの手紙が一番多いですが、まあまあ毒吐いてます。案の定。
あと、案外パリピ気質だったらしく、20代の頃の手紙は、舞踏会に何人来てて何人踊ったとか、よーわからん男子に絡まれたけどあいつなんなん?とかわりとそんな話が多くて、こういうキャラだったの!?ってなりました。
あと、手紙の文章がすごい短文なんですね。ごちゃごちゃ節を入れたり、修飾したりしていない。
当時の手紙文ってこんな感じだったの?と思ったら、姉のカサンドラが書いた手紙とかを見ると、そっちはそこそこ長い。
短文で明快に書くというのが、ジェインの個性だったようです。
小説はそこまで短文でもないんですが、短文で書く癖がわかりやすさにつながっているのかもしれません。
最初、本作のヒロイン・セシーリアは、レイチェルという名前にしていたんですが、ジェインが小説を書いている姪に、「ヒロインの名前がレイチェルいうのはようない、セシーリアくらいにしとけ」と書いていたので、急遽セシーリアに変更しました。小説に関するアドバイス、恋愛観などはほぼここから取ってきています。
■J・E・オースティン=リー『ジェイン・オースティンの思い出』(みすず書房)
牧師を継いだ長兄ジェームズの息子(ジェイン死亡時19歳)のエッセイ。
70歳くらいになってから書かれたもので、オースティンの評価の変遷などにも触れてあり(当時の大文豪ウォルター・スコットの激賞とか)、これも面白いです。
ジェインの作品は、家族を除くと、周囲の人たちの評判はそんなに良くなかったらしく(地味だと思われた模様)、ある程度読書好きで目が肥えている人の方が評価が高かったようです。
ちょっとびっくりしたのが、この本に収録されている『説得』の初稿の終盤。
ヒロインのアンと従兄弟のウォルターがくっつくんじゃないかという噂を、元カレ・ウェントワースが確認しなきゃいけない流れになって、誤解が解けて再プロポーズという流れになっていて、別に悪くはない展開ではありました。
ですが、やっぱりね、最終稿のもだもだがMAXなあの場面の方が桁違いに良いんですよ。
逆に言うたら、ここまで初稿で書いて綺麗に着地させておいて、それをまるっと捨てて書き直して、あの名場面ひねり出したっていうのすげーな…マジですげーな…(腰が抜けた)となりました。
この本の著者が若い頃、ジェインのファンの知人(あとでエラい学者になる人)に、『説得』はちょっと退屈やよねってポロッと言ったら、「何を言うとるんや、『説得』がジェインの作品で一番美しい作品やろが!」ってめちゃめちゃ怒られたというエピがあって笑ったんですが、そこまで評価されたのは終盤まるっと一度捨てたからこそやな……となりました。
良いシーンを書くためには、最後まであがかないとあかんのね…
いやー、ええもん読ませていただきました…
ジェイン・オースティンへの同時代の評価等はこの本を下敷きにしています。容貌や性格もここから。カサンドラが描いた唯一のジェインの肖像画はぶっちゃけ似てないと、一族皆さんのコメントも。
あと、カサンドラもジェインも、服がおばさんみたいでダサい、いつも帽子かぶっていた、という証言もありました。もしかしたら、母親が娘を離したがらない系の人だったんじゃないかという厭な予感もしています。
■ル・フェイ『ジェイン・オースティン 家族の記録』(彩流社)
『ジェイン・オースティンの手紙』の元ネタというか、全部入っている版。
地元の図書館から借りてきたのですが、貸し出しためらうほど重かったです。
ガチ専門書なので、ほんと資料も脚注も細かい…めっちゃ細かい…
ジェイン当人だけでなく、その係累のプライベートが相当掘り起こされています。ジェインがもっとも愛した姪と言われているファニー・ナイトなんかはうっかり日記や手紙を遺してしまったために、ファニーと結婚した、エドワード・ナッチブル准男爵(本作のサー・ウィリアムのモデル)のプロポーズの言葉まで読めてしまうという…
「こんなことを言うのを赦していただきたいのですが、私にとって、あなたは一緒にいると幸せになれる唯一の人ですし、子どもたちもあなたをお手本にあなたに守られてはじめて幸福になれるでしょう」
「ちょっと朴訥な感じがええやん…ええやん…」と思いますが、まさか200年後に、極東の異世界恋愛読みに、勝手に「ええやん」言われるとか、なんかすみませんという気もします。
ちなみにこの結婚に関するファニーの友人への手紙が、①家族が満足する結婚である②エドワードが人格的な面も含めてハイスペである③経済的安定ゲットォオオオ!という感じで、こちらとしては無の表情にならざるをえず、当初はファニーをヒロインとしてこの作品を書き始めたのですが、これ、ちょっとやだなとなって、ファニーに限りなく似た立場だけれど、ファニーではないというつもりで、別名としました。
ジェインが若い頃のファニーに出した手紙とかめっちゃ良くて、男子からアプローチされとるけどどないしよってもだもだしているファニーに、「自分が初めて女性として扱われて舞い上がってるだけ説あるから、ちゃんと相手をほんまに好きかどうかよう考えんさい」とか言ってて、おそらく当時はファニーもジェインを頼りにしていたんだろうと思われるんですが、後年、ジェインのことを「(自分の母親の出身である)ブリッジズ家とつきあってマシにはなったけど、全然淑女ではなかったよねwww」みたいなことを言ってて、一体なにが起きたんだろうってなっています。
いうて、カサンドラはジェインの手紙の多くをファニーに相続させてるんですがね。
ちなみにファニーの息子エドワード・ナッチブル=ヒューゲッセン(初代ブラボーン男爵・政治家&童話作家)は、ジェインのファンで、一族に伝わるジェインの手紙を集めて1884年に出版しています。
=おまけ=
※サロンの質疑応答のシーンに入れようと書いたけれど、独自解釈な上、『分別と多感』読んだ人しかわからんぞと本編から削除したやりとり。
「では、次の方の質問を最後とさせていただきます」
司会のマデレインの言葉に、まだ十代後半と見える少女がおずおずと手を挙げた。
「あの、すごく馬鹿な質問かもしれませんが……
どうして、『分別と多感』のエリナーは、エドワードと結婚することにこだわったんですか?
エドワードはぐだぐだずるずるしてるだけの人で、美人で賢いエリナーにはふさわしくないと思うんです。
はっきり求婚されたわけじゃないし、さりげなく距離をとって、なかったことにしたって全然いいじゃないですか」
「そこよね!
わたくしも、そこは納得いかなかったわ!」
マデレインが前のめりに同意し、セシーリアも笑ってしまった。
「そのあたりのことは、はっきり叔母に聞いたわけではないので、私個人の解釈ですけれど。
エリナーは理性的、妹のマリアンは情熱的という対比が最初からありますよね
序盤では、マリアンは生涯に恋をするのは一度だけだとか、35歳の男性は、今から結婚するには年を取りすぎているとか、若い人らしく思い込みだけで極端なことを言っています。
でも結局、マリアンは初恋が破れてしまった後、周りの人達を満足させる結婚をする。
情熱にまかせた結婚ではなく、理性的な結婚をするわけです」
「はい」
「一方、理性的なはずのエリナーは、望めばもっと有利な結婚ができそうなのに、ずっとエドワードと結婚できる日を待ち続けます。
一度愛したら、もうほかの人との可能性は一切考えない。
結婚については、エリナーはとても……情熱的すぎるほど情熱的なんです」
「あああああ……」
腑に落ちたのか、少女は幾度も頷いた。
「『分別と多感』は、ちょうどあなたくらいの年の頃に書いた作品を元にしたのだと聞いています。
初稿は残っていないのですけれど、最初の構想は『仲が良いけれど性質が真逆の姉妹が、互いの性質を取り替えたような結婚をする』といったものだったんじゃないかな……と。
例によってアクの強い人たちを描きこんでいくうちに、もともとのプロットが後景に退いてしまったのだと思います」
※いやほんと、最初に『分別と多感』を読んだ時、なんでエリナーはエドワードみたいな自堕落クズとくっつくの!?てマジで驚いたのです。
※この作品を書きながら、あれこれ思い巡らすうちに、こういうコンセプトだったのかなと思いあたりました。
 




