後編
後編は長くなってしまいました。
「ねえ、咲良ちゃん」
「なんですか?巫女様」
お茶の支給をしていると『巫女様』こと『鈴陸琴美』がモジモジしている。
私は一応王宮内では『巫女様の世話係』という立場だ。
だから彼女の名前を呼ぶこともタメ口で話すことも禁止されている。
最初は嫌がった『巫女』もコレが守れないなら修道院で過ごしてもらうと告げたらあっさりと了承したから私としては助かった。
ちなみに修道院で過ごす場合は朝から晩までご奉仕活動である。
王宮でのお姫様同様の暮らしかご奉仕活動か…
彼女は前者を取ったのである。
一応『巫女』という立場なので朝夕のお祈りを神殿で行っている。
「トイレならそちらの部屋……」
「違うわよ!」
顔を真っ赤にして声を荒げる琴美に小さくため息をつくと持っていたティーポットをテーブルの上に置く。
「近衛騎士のレイン様ならあと少しで参られます」
「……なんで分かったの?」
最近の彼女のお気に入りは王太子付きの近衛騎士のレイン・ハザード・クロード。
私の幼馴染の一人だ。
もっとも、琴美の前ではそのことを隠しているけどね。
国王陛下が私がこちらの世界の人間であることは琴美が元の世界に戻るまで『内密に』という厳令を下したのだ。
無駄に琴美の知人はやっていない。
友人じゃないぞ。
ただの知人だ。
私は琴美を友人だと思ったことは一度もない。
学校で琴美は『親友』だと言いふらしていたが、私ははっきり言って琴美は苦手だ。
むしろ一番遠ざけたいタイプだ。
人の話を聞かない、自分の思い通りにならないと癇癪を起こす。
どこぞのお姫様だと思うくらいに我侭お嬢様なのだ。
そして無類の男好きだ。
男は皆、自分に惚れると本気で思っているから怖い。
私のどこを気に入ったのか、転入初日からやたら懐かれた。
クラスメートたちは哀れみの視線を送るだけで積極的には助けてくれなかった。
転入して数日後に気づいたことだが、琴美はクラスメート…というより同学年の女子生徒から嫌われていた。
そこに転入してきた私を自分の味方にしようとやたらと声を掛けて来たのだろう。
琴美が側にいない時は普通に声をかけてくれる友人達はいた。
だが、いつも彼女たちと話していると琴美が邪魔してくるのだ。
「悪いけど、しばらく鈴陸の相手をして…お願い」
と友人達に懇願されたのも今ではよい思い出だ。
おかげで知りたくもない知識を植えつけられたのだ。
だが、今はそれが役になっているから人生何が起こるかわからないな。
琴美の好みは把握済みだ。
琴美は少女マンガや乙女ゲームなどが好きなんだよ。
オタクじゃないと本人は言っているが、立派なオタクだよ…
作品のキャラ一人について延々と語れる琴美は立派なオタクだよ。
琴美の側に配置したイケメンは琴美が好きなタイプを数種類揃えた結果だ。
正直に言おう。
過去、琴美が嵌ったゲームやマンガにそっくりの人物や学校で侍らせていた男共に似た者を集めたのだ。
正統派の金髪碧眼王子である王太子『ロバート・サルト・アージリア』
黒髪に金色の瞳で無口な近衛騎士『レイン・ハザード・クロード』
チャラ男に見えるが、魔道士としては超一流の宮廷魔道士『カルロス・ファイ・ミューランド』
爽やか青年だけどどこか抜けている宮廷文官『リューシス・スカイ』
イヌ属性の庭師『キルヴィヴァ・ウィーリー』
全員、私の幼馴染・友人なので『巫女』の相手を頼むのを楽だった。
いろいろと条件を付けられたけど…
『巫女』が帰る頃には無効になるだろう。
なんだかんだと文句を言いつつもすっかり『巫女』の虜になっているんだからな。
最近の彼らの会話は常に『巫女』が中心だ。
水面下では牽制が始まっているみたいだ。
門の復旧が終わったら、みんなまとめて異世界に送ってさしあげましょう。
これで、煩わしい『婚約者候補』を排除できますわ。
そう、今回『巫女』に紹介したのは私の幼馴染・友人であり『婚約者候補』だったのです。
すでに私には正式な婚約者が決まっておりますが、公にしていないため、彼らがいろいろと多方面でトラブルを起こしてくれていたのです。
そこで、父上や国王陛下達と相談して『巫女』が持つ『魅惑』という魔法を彼らだけに発揮できるよう『巫女』を上手く誘導したのです。
私たちの計画通りにトントン拍子に進んでちょっと拍子抜けですが、まあいいでしょう。
数日後
門の復旧が終わり、無事に彼女たちをあちらの世界に送り届けることが出来ました。
こちらの公式文章では
「ロバート殿下達は『巫女』帰還の儀の時に起きた、魔力の暴走に巻き込まれて『巫女』と共に異世界に旅立った。なお、魔力の暴走により時空の歪みが生じ、門を開いてもロバート殿下たちの帰還は絶望的と神官長が判断。以後、捜索を断念」
ということになっております。
ロバート殿下は廃太子となり、ロバート殿下の双子の弟・ジェイド殿下が新しい王太子殿下となった。
そして、私はジェイド殿下の妃として真っ白なウェディングドレスを着てジェイド殿下の隣にいる。
「兄上達からの求婚を逃れるために『魅惑』の魔力を持つ異世界人を連れてくるとは…貴方はどこまで計算していたんですか?」
「初めて彼女と出会った時です。ロバート殿下たちから逃れるための異世界への留学でしたが、いい拾い者が出来ました。彼女にはいろいろと迷惑をかけられましたが、これで帳消しですわ」
お読みいただきありがとうございます。
未熟なりに頑張りました。
誤字脱字は多々あると思いますが見つけ次第訂正していきます。