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騙る世界のフィリアリア  作者: 絢無晴蘿
第二章 -神騙り-
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02-10-02 全容視えぬオベロン 


ファントムによってアーヴェ本部に連れてこられたアルト達は、二日目を迎えようとしていた。

夜勤の者達が使うと言う部屋で泊らせてもらっている。

上層部ではアルトとテイルについて話し合っているらしい。星原所属である彼等は、今日の午後にも陸夜か守が迎えに来る予定だが、話し合いが長引くかもしれないと言われている。

朝から会議室らしき一室に閉じ込められるように待機させられていた彼等は、暇を持て余していた。が、そんななか、アイリが口を開いた。

「……もしマコトと会ったら、みなはどうする?」

ぼそりと小さく呟いた問いだったが、静かな室内にはよく響く。

「とりあえず、ぶんなぐるわ」

間髪いれず答えたのは、ティアラだった。

にっこりと笑っているが、その目は笑っていない。

握りしめた手はいつもより力が入っている。

「ちょっと、許せそうにないから」

マコトが裏切って玻璃を殺したと聞いてから、ティアラの思いは変わっていない。

ティアラは許せない。裏切った、ということよりも、玻璃を殺したと言う事に腹を立てている。

「オレもだいたいおんなじ感じかな」

カリスはそう言ってアイリの様子を見た。

「そうか……」

小さく答える様子は何時ものアイリとはかけ離れている。

「僕は……分からない」

テイルは悩んだ後に、そう答えた。

未だにマコトが裏切り者だったことに実感が持てないのかもしれない。

そして、みなの視線はアルトに向かった。

「わたし……わたしは……この前、マコトに会ったばかりだけど、何もできなかった……」

アルトと神楽崎の話は、皆聞いていた。その時にマコトと会ったことも。

目の前で玻璃を殺された。二度目は、神楽崎を。もう、そんな所を見たくはない。だから、アルトは決意していたことを言う。

「今度会った時は……今度こそ……戦う」

「……」

「マコトだけじゃない。私は、セレスティンを許せない。だから、戦う」

皇の館の時はなにも出来なかった。今度は、今度こそは。

「あたしもセレスティンと戦うよ」

「ティアラ……?」

いつもと様子が違うティアラに、アルトは不思議そうに首を傾げた。

「ちょっと、セレスティンとはいろいろ因縁があるみたいでね……」

そう言って、ティアラは持っている槍を見る。

魔槍はいつもと変わらない様子でそこにあるが、ティアラにだけ視えるソードは苦い顔をしていた。

「なら、オレもだな」

十二神将達はなにも言ってはいない。だが、彼らとセレスティンと因縁があるのは確かだ。おそらく、カリスが彼らと契約を交わす事になってしまったあの事件と関わりがある。

それを知りたい訳ではない。いつか、十二神将達はきっと教えてくれるだろうから。

それよりも、アルトやティアラが心配だった。

「そうか」

アイリは、静かに言った。

「そうだよな」

一人、納得して頷く。

「アイリ……?」

カリスが名を呼ぶと、アイリは笑った。

「すまない。変なことを聞いたな」

それっきり、アイリはなにも言わなかった。

何とも言えない時間が過ぎる。

そんな時間が終わったのは、そろそろ昼時の頃のことだった。

アルトは暇つぶしに風で部屋の外の様子を覗いていた。

「……?」

なにやら武装している裁き司の人達が外に出て行くのだ。

なんだろうかと首を傾げるが、ドアの外には護衛とは名ばかりの見張りがいる。

「アルト、どうした?」

うーんと悩んでいたアルトに声をかけたのは潤だった。

別に来なくてもよかったのに、潤はわざわざアルトが心配だからとついて来ている。

何もすることが無く暇だが、慣れているようで飽きた様子は無い。暇は慣れている、と本人は言っていた。

「なんか外が騒がしくて」

「ん?」

そう言った直後、なぜか部屋のドアが開いた。

「なにかあったんですか?」

ちょうどすぐそばにいたアルトはドアの外を覗き込むが、なぜか先ほどまでいたはずの見張りが居なくなっている。風のいたずらだとしたらアルトなら分かるはずだが、特にそのような様子は無い。

「どうしたー?」

「あ、カリス……なんか外の人が居なくなってて。それに、外の様子がおかしいし」

「あ、まじだ」

外を確認したカリスは、後ろを見る。

部屋では、ティアラがカリス達には見えないソードとなにやら話し合い、アイリは沈んだ様子で座りこみ部屋の端で暗い顔をしている。

「……あんまし動かねぇほうがいいかもな」

確かに外に見張りは居なくなったが、別に逃げ出さなければいけないような状況ではないし、他の仲間たちの様子からいって、動き回ったら動き回ったで大変だろう。ただ、外の様子は気になるので、カリスは懐に何時もしまってある式を飛ばす。

近くならば式を通して何が起こっているのかカリスは見ることができる。

同じく、アルトも何が起こっているのかだけでも知ろうと風を操った。

そして、すぐにその成果はあった。なにしろ、入口近くで派手に盛り上がっていたので、すぐに気付く事が出来た。

アルトは風を通じて聞こえて来る声に耳を傾け、カリスは眉をひそめた。

裁き司の武装した集団が取り囲んでいるのは、セレスティンの者だという。そして、その姿を見たカリスは思わず呟いていた。

「襲撃……? って、マコトっ?!」

「えっ?」

「マコト?」

カリスの声に、アイリとティアラがそれぞれ反応した。

「襲撃って、カリス、一体全体どうしたのよ!」

「まさか……マコトがきたのか?」

「……あ、あぁ」

「とにかく、外に――」

出ようとしたカリスの前で、扉が開かれる。

部屋の前にいたのは、アルト達を本部につれて来てからすぐに行方をくらませたファントムだった。

「てめっ」

「どうどう、カリス君。どうやらセレスティンの者達が来たことはすでに知っているようですね? これから少々やり合うことになると思うので、少しばかりこの部屋にいてくださいね」

そう言うと、また扉を閉めてしまう。ファントムが扉の外から声をかけて来る。

「まだ、外には出ないでくださいよ?」

「まだ?」

「はい、まだ」

「おい、それどういう――」

含みのある言い方に、カリスは扉を勢いよく開けるが、そこにはもう誰もいなかった。

なにか、ファントムにいいように操られているように感じるが、だがここから出る事は得策ではないだろう。式からよく観察すれば、外にはマコトだけでなく星原本部襲撃の際にも居た青年までいる。セレスティンが何をしようとしているのか分からないが、アルトもテイルもいる以上、動くのは危険だ。なにしろ、テイルは命を狙われたこともあるのだから。

「ったく、……とりあえず、ここで待機、でいいよな?」

カリスの言葉に、難しそうな顔で考え事をしている様子のアルトやアイリ以外が頷いた。

部屋は静かになる。これからどうなるのかと、そわそわとするティアラは、たびたび扉を見てはため息をつく。


やがて、声が聞こえてきた。

ざわざわと多くの人が周囲を歩いている。式で外を見れば、そこには大勢の裁き司の職員とファントム――そして、マコト達が居た。

どうやら、少し開けたところにあるソファに座って話し合うらしい。一体どうしてこうなったのか分からないが、カリスがアルト達に伝えると、皆入口の近くに集まった。小さく、扉を開ければ、人ごみが前を塞いでいる。

『でしょうね。で、さっそく要件は?』

『交渉をしに来た』

ファントムとマコトの声が聞こえてきた。

久しぶりに聞くマコトの声に、アイリはなぜかつらそうに目を伏せる。

『日野出流の……』

声が良く聞こえない。だが、友人の名が出た事にみな気付いていた。

『数人、いるはずだが?』

何を話しているのか分からない。アルトが風を操り声を聞こうとするが、なにかしらの術で防がれていた。

が、カリス達の頭上から、声が聞こえてきた。

「どうやら、出流と罪人の交換を提案しに来たようだな」

潤だった。

どうやら、三人の話が聞こえているようで、彼はファントム達のほうを見たまま、聞こえてきた声を伝えていく。

「な……」

「いづる……は……無事なんだね」

「今のところは、みたいだな」

『無理です』

ファントムが、鋭く応えた。

「え?」

思わず、ティアラが目を丸くする。

「出流のこと、たすけ、ないの?」

『価値がまったく吊りあわない。なんて言ったらきっと怒りますよね?』

カリスが止める暇もなく、ティアラが扉を開け放つ。

ファントムが、全てわかってるとばかりにカリス達を見ていた。

裁き司の人々が扉が開いたことに気付いて道を開けたので、ファントム達の姿がよく見えた。そこにはもちろん、彼の姿がある。

「マコ、トっ!!」

アルトが、苦々しげに手を握りしめながら叫ぶ。そんな彼女を、潤はマコト達を見て、慌てて自分の下に引き寄せる。

「あいつらも、セレスティンなのか」

潤が、独り言のように小さく呟いた。

その横を、すっと通り過ぎる少女が居た。

あまりにも早く、そしてみなマコト達に注意していたために気付くのが遅れてしまった。


「マコト……なぜだ。なぜっ!!」


カリス達が止める暇もなく、マコトのすぐそばまでアイリが近づいていた。

裁き司の者達もふいの事だったので止めきれない。

「なぜ、なんだ……マコト」

なぜ? その問いかけに、マコトは何も反応しない。ただ、無表情に答えた。

「なぜ裏切ったか? 最初から、裏切ってなどいない。裏切るも何も、元から仲間などと思っていない」

ティアラとテイルが息を飲む。

「そういう意味じゃ――」

アイリがなにかを言おうとするが、声が出ないように口を開くだけだった。

「てめぇっ!!」

マコトの言葉に、カリスが叫ぶ。

カリスは、今までずっと我慢していた。

年長者のテイルは人形遣いと会ってから精神状態がよろしくない、アイリもやはり白蓮の都からここにきてからおかしい、ティアラは大怪我をしたばかりだし、アルトはきっとセレスティンに関わることに冷静ではいられないだろう。潤がいるが、カリスは潤の事をまったく知らないし、ああいう存在はあまり信用しないようしている。

だから、今一番まともなカリスが、必死になってまとめて来た。なるべく、一人でやらないように、暴走しないように自制して来た。

それでも、限界はある。

そして、マコトの一言で、ついにキレた。

拳を握りしめ、マコトに殴りかかろうとし――すぐ近くの青年に止められる。

「放せっ!!」

「放したら殴りに行くんでしょう?」

そう言ったのは、裁き司のクリーだ。

カリスも何度か会ったことがある。つい最近だと、サイの事でアーヴェ本部に来た時に少しばかり話していた。

裁き司の人達とはあまり関わったことが無いが、クリーとシヴァだけはよく星原に来るのでみな知っている。

「だって、あいつはっ」

「落ち着け、少年」

そして、クリーといつも共にいる少女、シヴァがカリスの頭に手刀を落した。

「今、ファントムが交渉をしている。日野出流がどうなってもいいのか?」

痛みに思わず頭を押さえるカリスに、シヴァは淡々と伝えた。

「……くそっ」

「君もだ、朱炎アイリ」

「……」

シヴァに引っ張られて連れ戻されたアイリは、酷く顔色が悪い。

何度か口を開こうとして、なにも言わずに閉じてしまう。皆、アイリがなにかを言いたいのは分かっているが、結局何も言わないので彼女の真意が分からない。

張り詰めた空気の中、ファントム達の話し合いは続く。が、それは長く続かなかった。

月剣襲撃とアイリが関わっていたグランドアースの森の襲撃、さらに気付かないうちに襲撃されていた本部。次々と報告がもたらされていく。

喧騒、混乱、ファントムの命令が響き渡ると共に、人々が動きはじめる。

「避難するぞ」

シヴァがこれ以上暴走しないようにだろうアイリの手をとるとファントム達から背を向ける。

「これより、星原の諸君には安全を確認するまで私の管理下に入ってもらう。異論は認めない」




立ちあがり、机を挟んで向かいあう三人――ファントム、マコト、タツヤ。三人は、睨みあったままなかなか動こうとはしなかった。

が、動こうとしなかっただけで、すでに戦いは始まっていた。


マコトの周りで、ゆらりと空間が揺れる。どこからともなく空間を裂くように現れたのは、死人だった。色の失った肌、剣で斬られた痕、流れた血の跡、落ちくぼんだ目、動く死体(リビングデット)とでも呼ぶだろうか。地面を這い、マコトとタツヤの周りに現れ、退路を断つかの様に道を塞いでいく。

タツヤがびくりと動こうとした。

「動くな、幻だ」

そんな死体に目もくれず、マコトはファントムを睨みつけながら言った。

「まあ、それくらい分かりますか」

そう、これはファントムの術だ。実態のない、紛い物……のはずだった。

死体がマコトの足に触れる。爪を立て、唸り声をあげながらマコトの体にすがりつき、絞め殺そうとする。――爪を立てられた肌から、血が流れた。

「おい、血がっ」

タツヤはすがり寄って来る死体を足で払い、まったく動かないマコトから血が流れているのを見て叫んだ。

これは幻。ならば、血なんて流れない。傷つくことなどない、はずだと言うのにマコトは傷をつけられている。だというのに、彼は動かない。

『ネェ』

死体達の中でも小さな子どもが、マコトの前で笑いながらしゃがれた声を出す。

『ナンデ、ボクノオニィチャンヲ、コロシタノ?』

真っ赤に染まった服には、腹部に大きな穴が開いていた。

後ろに、その子どもとよく似た少年が両足を引き摺りながら笑う。

『シッテタクセニ。アイツノコト、ウソツキダッテ、シッテタクセニ』

指をさして笑う彼は、背中を切り裂かれていた。

「コレがあなたの恐れるモノ、ですか?」

死者たちに囲まれるマコトとタツヤに、離れた場所から涼しい顔をしてファントムが言った。

「ったく、オレ、こう言うの嫌いなんだよ!!」

しびれを切らしたタツヤが槍を振るった。

まるで本物の人間を斬ったような感触、そして飛び散る血に顔をしかめる。所詮は死体である彼等は簡単に倒されていく。断末魔もあいまって、地獄絵図のような状態だ。

「とりあえず、頭を押さえればいいんだろ? こう言うのは」

斬り倒しながら道を開くと、一気にファントムの前まで躍り出て、槍を振るった。が、ファントムのその姿は掻き消える。

「幻かよっ」

「その通りっ!」

一瞬にして後ろに現れたファントムは、立ちつくすタツヤに向かって魔術を放とうとした。

伸ばした右手に集まる光。が、ぐるりと振り向いたタツヤによって右手首から切り落とされる。噴き出した血を浴びるタツヤの前で、ファントムは霧のように姿が薄れていく。

「これも、幻?」

「さあ、どうでしょう?」

すぐ右隣で声がして、タツヤは慌てて左に逃げる。が、背になにかがあたる。

「さて、どうしましょうか?」

またしても、今度はすぐ後ろから声が聞こえて来る。

振り返り一閃。確かな手ごたえと共に倒れたのは、呻き声をあげる死体だけだった。

「ったく、むなくそわりぃな」

見れば、槍の届かない位置に無傷の姿のファントムがいる。

すべて、幻だったのだ。

「紫の悪魔。らちが明かないが、どうすればいいと思う?」

「……そろそろ来るはずだ」

「あぁ、なるほど」

タツヤが頷くと共に、世界が一変した。

目の前の霧が晴れていくかのように、全てが元に戻る。

「おっ、幻術が解けたのか」

タツヤが見ると、先ほどとまったく変わらない風景だった。

マコトもタツヤもファントムも、席を立っていない。座ったまま、タツヤ達はファントムの幻術に巻き込まれたのだ。

だが、周囲は一変している。

マコト達を取り囲むのは――各組織のエースやクイーン、キングの称号持ちだった。

「って、おいおい……」

勘弁してくれよ……とすでに臨戦態勢の彼等を見て、タツヤがため息をつく。

語部のエース、アダマスト。クイーン、ノイン・ノイン。星原のクイーン、ラピス・カリオン。四葉のエース、レナ・オーギュスト。キング、キセキ。月剣の称号付きは居ない。おそらく、月剣本部の襲撃を聞き、本部に急ぎ戻ったのだろう。

「豪勢なことで……」

大物大集合な状態に、タツヤは笑いながら言う。

タツヤもマコトも、彼等を恐れてなどいなかった。称号付き達は――戦闘が強いから称号付きになった訳ではない。エースは組織の総指揮、クイーンとキングはエースの手の回らない仕事全般、そして次代のエースとしての仕事を覚えるためにエースの補佐をしている。ジャックのみ組織の守護役という役割があるが、今回はどの組織もジャックの称号付きを連れて来てはいない。

彼等は、戦闘を想定した人員ではない。

中には実力でエースとなった者もいるし、特異な能力を持つ者もいる、だが、タツヤ達の敵ではない。

そして、ファントムの首に、短剣が添えられている。

「おやおや。他にも侵入者がいるとは分かっていたのですが、甘く見過ぎていたようですね」

首の皮が裂け、血がにじむが、ファントムは気にした様子無く楽しそうに後ろを向いた。ファントムの後ろには、青年がいた。

神殺しの剣を携える、ムラクモ。

彼がファントムの首を今にも切り裂けるようにといた。その為、称号付き達は幻術に囚われていたタツヤたちを攻撃できずにいたのだ。

「……交渉は不成立。これ以上ここに居る意味は無い。……退くぞ」

マコトが、今度こそ現実で立ちあがった。

先ほど傷ついたように見えたが、まったくの無傷だ。あの死体も全部幻だから当たり前だ。

そして、来た道を戻る。律義に、出入り口から帰ろうというのだ。

ファントムの命を盾にされ、みな動けず、見送ろうとした。


「待ちなさい!!」


なにかが走り抜ける音。それと共に、ファントムの首に押し付けられていた短剣が割れ、はじけ飛んだ。

「っ?」

驚き、しかしすぐにファントムから離れると、距離を置いて黒い刀を抜いたムラクモは、辺りを警戒する。

先ほどの声は少女のものだった。

しかし、称号付きのものとは思えない。

「……まったく」

マコトがため息をついて、無表情に言った。

「音川の姫、そこをどいてもらおうか」

そこには、出入り口を塞ぐように、アルトがいた。

いや、アルトだけではない。カリス、ティアラ、テイル、そして、離れた場所にアイリとなぜかクリーとシヴァを抱えた青年がいる。

「って、なんで避難していないんですかっ」

助けられたファントムだが、怒りがこもった声で叫ぶ。

クリーとシヴァに星原の子どもらの事を頼んでいたと言うのに、一体どうして彼等がまだここにいるのか。ふと、見ると、ごめんと書かれた紙を持ったクリーがアルト達と一緒にアーヴェ本部にやってきた潤と名乗る青年に抱えられていた。シヴァもいっしょくたにされて抱えられている。

そんな中、アルトは決意をこめてマコトに叫ぶ。

「私は、もう逃げない……!!」

今まで、マコトと、戦えなかった。怖かった。

でも、今度こそ逃げない。

玻璃を殺した彼を、許せない。セレスティンでいったい何をしているのか、なんで玻璃を殺したのか、なにがなんでも白状させる。させてみせる。

アルトだけではない。カリスもテイルもマコトが裏切った理由を知りたかった。元々セレスティンのスパイだったと言うのならば、二年間どういうつもりだったのか問い詰めるつもりだった。そして、ティアラはなにより友達を殺されたことにかなり頭にきていた。それこそ、ぶちのめして一生姿を現わせられないような姿にでもしなければと思うぐらいには。

「いや、この状況見て。逃げて。いくら私でもみなさんの子守しながらとか無理ですから」

若干涙声でファントムが言うが、もちろん彼等は聞かない。

「ごめんなさい、ファントムさん! あとで怒られるから!」

「いや、私が怒る前に殺されてる落ちになりそうな一歩手前ですから!」

マコトとアルト達の事を少しばかり知っていたタツヤは辺りを見回して、なんとなく状況を把握するとマコトに握りこぶしを作ると親指を立てた。

「あんたが今回のリーダーだ。好きなようにやってくれ。あとファントム。子ども達が成長しようとしているんだ。こう言う時は大人は黙って成長を見守ってやるべきだと思うぞ、オレは」

「成長するのは大事なこと。たしかにです、うん。でもね、タツヤくん。へたしたら私の首が飛ぶんです!」

状況が変わる中、ムラクモは称号付き達を睨み、動きを止めていた。しかし、そろそろ称号付き達が動きだしてしまう。どんな判断をするにしても早いに越したことは無い。

ムラクモは、どうするのかとマコトを見た。

「……すまない。たのむ」

「いいぜ。露払いは任せてくれ。過去との決着は、大切だからな」

子どもを見守るかのように、タツヤは笑って頷くと、マコトを押しだした。アルト達の元へ。

そして、彼は反対方向を向く。

「ファントムに称号付きのやつら、まとめてかかってきな」




トラウマ再生機ファントムさん。彼の特技は夢を操りその人にとっての悪夢を見せる事。幻術っぽいけど若干違います。が、説明が面倒なので幻術ですーって毎回答えているファントム。

ファントムは星原のラピスさんや陸夜くん、セレスティンの清蓮ちゃんたちの事を知っていますが、他の人達はファントムをよく知らない模様。ファントムが一方的に知っているだけという。


本当は二回で終わらせる予定だった今回の話。なんだかんだで長くなりました。


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