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騙る世界のフィリアリア  作者: 絢無晴蘿
第二章 -神騙り-
80/154

02-07-02 黒の騎士団の暗殺者たち



黒の騎士団の本部。

蘇芳は独りそこに戻ってきていた。

竜胆とは別行動だ。そもそも、今回は蘇芳だけで星原の二人と情報交換をしに行く事になっていたのだ。竜胆が居た事は秘密なのだ。

「蘇芳。帰ってきたのか」

出迎えたのは、必死に平静を装っているがどこかそわそわと壁に寄り掛かっていた少年、(とむら)だ。

その先に在る待合室の様な場所には、やはり数人の暗殺者がいる。

ソファには、まだ十歳にもならない双子の少女がいる。が、どちらも疲れた様子で眠っている。樹の愛し児である戦災孤児、萌葱と浅葱だ。彼女らと一緒に寝てしまっている、剣を幾つもぶら下げた少女は暗殺者ではなく、武器を提供している鍛冶屋の娘、樹里咲(きりさき)凛莉霞(りりか)。そして、そんな三人を、もうすぐ二十歳になる少女、桜桃(ゆすら)が見守っていた。

さらに、弔とよく組んでいる青年、(はやて)と灰かぶりと同い年だった燈矢(とうや)もいる。

ほとんどの者達は灰かぶりの友人であった保守派の人間だ。どうやら、みな蘇芳の話が聞きたくて待っていたようだ。

「それで、どうだったんだ」

待ちきれないとばかりに弔が聞く。誰もが、その返答に耳をそばだてていた。

黒の騎士団は仲間意識が強い。そして、灰かぶりは……あまりにも彼等にとってかけがえのない人物だった。彼が行方不明となって、二年。ようやく彼が死んで星原によって弔われたことが分かったが、誰が殺したのか、どこに埋葬されたのかまったく彼等の元に情報は入ってこなかった。だから、待ち望んでいたのだ。

生死不明だった紫の悪魔の事も、聞きたかった。

「……灰かぶりを殺した人物は分からなかった。ムラサキではない事は確かみたいだ。灰かぶりは星原の皇の館のある場所に埋められたらしい……あとで星原の長と交渉する必要があるかもしれないな」

星原に埋葬されたままでは黒の騎士団としての矜持が許さない。

灰かぶりに家族は、いる。けれど、両親はそもそも灰かぶりを黒の騎士団に売り払った張本人で、妹は灰かぶりが暗殺者であることも死んでいる事も知らない。おそらく、黒の騎士団がその遺骨をもう一度埋葬する事になるだろう。

「なぁ、あいつ……ムラサキは……」

燈矢が小さく問いかける。

「星原で二年、普通に暮らしていたようだぞ」

もう少し、詳しいことを……聞こうとした燈矢だが、何度か口を開いて、結局何も言わずに辞めてしまう。

弔も颯も何も言わない。ただ、顔を伏せている。

沈黙のなか、かさかさと双子の姉妹が動きだし、そして目を開けた。

ぼんやりと寝ぼけ眼で二人は口々に言う。

「……灰かぶりのおにいちゃん、しんじゃったの?」

「さりあさんとおなじところにいっちゃったの?」

「あぁ。そうだよ」

灰かぶりのかつての師匠、そして前灰かぶりの通り名を持っていたサリア。彼女が殺されてから三年。未だに彼女を惨殺し、その赤子も夫をもばらばらにした犯人は見つかっていない。萌葱と浅葱はみるみるうちに目に涙を溜めて、泣きはじめた。

「またあそんでくれるっていったのに!」

「やくそくやぶったっ!!」

二人の泣き声に目が覚めた凛莉霞と桜桃があわてて二人をあやし始める。

「それで、殺した相手については当然見当はついているんだろうな?」

奥から青年が歩いてくる。さらに数人、影に隠れていたらしい男達もいる。

「……」

さらに、人数は増えて行く。どうやら蘇芳が戻ってきたという知らせが出回っているようで、夜の忙しい時間帯であるにもかかわらず、本部に居る人々の多くが集まっていた。

「蘇芳、やはり灰かぶりは、あの子は……セレスティンに殺されたの?」

緑指(りょくし)、一応最後に接触したのがおそらくセレスティンだが、犯人の特定まではいかない」

蘇芳と長年の相棒であった緑手が蘇芳の元に小走りに駆けて来ると彼は首を振った。

「どちらにせよ、あのいけすかねぇ野郎どもの組織が関係してるのはかわりねぇんだ」

「あの灰かぶりを殺しやがったやつを見つけ出してやる」

「そうよ。サリアを殺したのもセレスティンが関係しているのよ? 巧妙に隠されて断定も出きずにここまで来てしまったけど、これ以上あいつらにここをいい様に使われる訳にはいかないっ」

「こうなったら弔い合戦だ」

「今度ばかりは許せねぇ」

いつの間にか何人かが中心になるとセレスティンへの潜入や調査など役割を割り振りはじめる。さらに数人は各自に情報を集めると本部を飛びだし、数人は情報の整理などを勝手に始める。

「黒の騎士団を敵に回したことを、後悔させてやる」

仲間意識が強い彼等だったが、特に灰かぶりは特別だった。彼は、唯一……中立を保つ蘇芳を省けば唯一、保守派も革命派も関係なく人々に接し、おそらく紅破と竜胆を除けば組織の中で最も影響力があった少年だったのだ。そんな彼を、師匠であったサリアを殺したと疑われているセレスティンのうちの誰かが――殺した。黒の騎士団は紅破と竜胆の以前の長の代から細々とした関わりがあり、なおかつセレスティンの影響力に踏み込めずにいたが、灰かぶりを殺したことが分かれば別だ。

彼等は同朋を殺した者達を決して許さない。


そんな彼等の元に、竜胆は手に置手紙を握りしめて現れた。


「姉さんを……紅破を、見ませんでしたか?!」





蘇芳とは別に帰還していた竜胆は、誰にも見つからぬように本部を歩いていた。

今回の灰かぶりと紫の悪魔についての情報収集の為の星原のテイルとカリスとの接触は本来蘇芳だけで行く予定だった。蘇芳は黒の騎士団唯一の中立を保つ暗殺者であり、灰かぶりの理解者であったからだ。革命派と保守派、どちらが行くかでいい争いになり、結局中立の彼が立候補させられたという経緯もある。本来なら竜胆は行く予定では無く、誰かに知られることはあまり好ましくなかった。

彼が向かうのは唯一の肉親である姉、紅破の元だった。

彼女は紫の悪魔をセレスティンと交渉して黒の騎士団に招き入れた張本人。彼を最も買い、自ら暗殺技術を仕込んだのだ。紫の悪魔について話を聞きたいだろうという配慮からだった――が、彼女は自室にいなかった。

ぽつんとテーブルに一枚の紙が置かれてある。

明かりの消えた部屋で、竜胆は紙をそっと手に取った。

明かりを求めて廊下に行くと、ようやくそれを読むことができた。

「……ねえさん?」

少しばかり黒の騎士団から離れると言う置手紙だった。

時折、紅破は突如姿を消す事があった。四年前にあった事件から何度も。だから、今回もそうだと竜胆は考えていた。

だが、最後の文になにか意和感を持つ。


『もしも帰らなかったら、黒の騎士団をお願い。竜胆』


こんな文を、彼女は置手紙のなかに一度だって書いたことは無い。必ず、すぐに帰ると書いてあったのに。

慌てて竜胆は部屋に戻った。明かりをつけて部屋の中を照らす。いくつか彼女が愛用していた武器や服が無くなっている。荒らされた様子は無い。

「姉さんっ」

走りだした竜胆はいつも姉が居る場所へと向かう。訓練所、事務室、お気に入りの風呂場……どこにも、彼女の姿は無い。

そして、彼はざわめき声を聞いた。

本部の出入り口近くで蘇芳や緑手たちの声が聞こえて来る。蘇芳がみなに灰かぶりと紫の悪魔について話したのだろう。もしや、姉を見た人が居ないか、彼は走りだす。

「なんでだ、姉さん……!!」

思い出すのは四年前。

思えば、あれから彼女の様子は少しずつおかしくなっていった。

アレは、事故として処理された。紅破と竜胆、それと数人しかその要請を受けたことを知らない。


四年前、黒の騎士団はセレスティンの要請の元、白蓮の大虐殺のメンバーに数人かりだされた。

そう、白蓮の大虐殺はセレスティンによるものだ。

未だにどの国が何の目的で白蓮の都を襲ったのか知られていないが、それも当然だろう。あれは国ではない。セレスティンによって行われた大虐殺なのだから。

その時、すでに紅破と竜胆にその全責任を預けていた前黒騎士の長、葉澄が死亡した。

彼が誰に殺されたのか、どうこうしていた者達は誰も知らなかった。同行した葉澄の娘である紅破も知らなかった。彼は事故死したとされた。

だから、竜胆は知らない。

紅破と竜胆の父でもある彼が、なぜ死んだのかを。

なぜ紅破が、葉澄が死んだと嗤いながら竜胆に告げたのかを。

狂ったように嗤う彼女は、その時からおかしくなっていったのだろう。


そして――紅破は紫の悪魔(マコト)を連れて来た。








紫の悪魔と呼ばれていたマコトは、セレスティンの本部の中を歩いていた。

迷わぬ足で医務室へと向かう。

ムラクモとともにとある組織を壊滅させてきたのだが、その時に腕を負傷してしまったのだ。手当は自分で出来るが、包帯が無くなってしまったのでそれだけを取りに。

彼が医務室へ赴くと、誰もいなかった。ほとんどの者は自分で勝手に薬品をもらって手当てしていく。時々治癒術の出来る者が数人いる事もあるが、今回は出かけているようだ。

マコトは慣れた様子で包帯を出すとちょうどいいので薬を取り出してその場で手当てを始める。

すぐに終わらせると、彼はいた痕跡を消すように片付ける。

ほんの数分で、彼は医務室を出た。誰かに遭いたくなかったので本当に素早く。

だが、部屋を出た瞬間に彼は知り合いと出逢ってしまった。

「……あ、紫の」

ミスティルとギウスだった。

ミスティルは結局なんと呼べばいいのかと迷った末に紫の……という名前になってしまったようだ。

彼女は最近ようやく復帰したようで、ギウスと共に簡単な仕事をしているらしい。未だ隊長は万全ではないためらしい。

「あ、の。あれからちゃんと話ができなくて、いえなかったけど……あの時、助けてくれてありがとう。右手は無くなっちゃったけど、こうして命があって、ほんとよかったわ」

からりとミスティルは笑って言う。それを見るギウスはかなり不機嫌である。

マコトはこくりと頷く。

そして、そこから去ろうとした。

「……なんだ」

擦れ違い際になぜかギウスがマコトの腕を掴んでいた。

それほど強い訳ではないので振りほどこうと思えば振りほどけるが、とりあえず立ち止まる。

ギウスは、不機嫌そうに、嫌嫌そうに。そこまで嫌ならば言わなければいいのにとも思いながら、マコトは聞く。

「ミスティルのことは、本当に、助かった……」

ギウスはなにか考え込み、それ以上の口を開く様子が無い。だが、腕を離す様子は無い。

「……すまないが」

これからまだやることが……そう言おうとするマコトに、ギウスは慌てて言った。

「この前、倒れただろ。スフィラ様は寝てるだけだって言ってたけど、お前、大丈夫なのか? 魔剣使ったり、無茶なことばっかりして」

「……それよりも、自分たちの心配をした方がいいと思うが」

「は?」

「お前たちはムラクモの枷だ。このままセレスティンにいるつもりなら、覚悟しておくんだな……自分たちの選択を、決して間違えぬように」

ぽかんとした顔のギウスの手を払いのけると、マコトは歩きだす。

振り向きもせず、二人の事など気にせず、彼は行く。

ギウスとミスティルに、伝えなければならないことは伝えた。それに気付くか、気付かないのか、あとはあの二人にかかっている。

不意に目眩がした。今はまだ、あの二人が見ている。

「まだ、大丈夫……まだ、あいつを、殺せていない……まだ……」

ここでまた倒れる訳にはいかない。

アレに気付かれてはいけない。

どうにか気力で持ち直すと、マコトは進む。

ギウスとミスティルが二人で歩いて行くのが気配でわかった。二人とも、何も気づかずに行ってくれたようだ。

ほっとしたところだった。

「紫の悪魔、ね」

ぽつりと呟かれた言葉に、マコトは目を見開いた。

いくら切羽詰まっていたとはいえ、まさか誰かが近くにいるとは思っていなかったのだ。気配が無い。

目の前には誰もいない。ならば、後ろに。振り返ると、何度か資料で見たことがある青年が居た。

だるそうに洋服を着崩してどこか眠そうな眼はどんな感情をもっているのか読めない。

「フェクダのタツヤ……?」

フェクダとも呼ばれる青年は、得体の知れない男だ。普通の人間でありながらなぜセレスティンに所属しているのかまったく不明。マコトですら彼の過去を暴けずにいる。幹部の一人であるため、要注意人物であり、星原襲撃のときに一度だけ肩を並べて戦ったことがある。だが、二人で話しをしたことは無かった。

「へぇ、オレの名前覚えてくれてたんだ。そりゃ光栄だな」

対して感動した様子などなく返しながら、タツヤはマコトに近づいてきた。

一体なんのようなのか、マコトは心の中で身構える。

「まー、なんだ? 一応幹部同士親交を深めようと思ってね」

今は特に任務は無いだろう? そう彼は確認すると、笑ってマコトの腕を掴み歩きだす。

「ちょっくら話そうや」

避けよう、としたのだが無理だった。マコトは得体の知れない青年を睨みつけるように視線を送る。

彼に気配はない。それどころか、動作を始める予兆すら見れなかった。かなり厄介な相手だ。どこに連れて行かれるのかとあたりを見ながら、マコトはただ腕を引かれるままにされていた。


「片付いてなくてすまんな」

そう言ってタツヤがマコトを連れてきたのは、どうやら使われていない実験室らしい。そこにソファやテーブル、私的な物を運んですごしやすい様な空間にしている。

おそらく、タツヤだけが使っている訳ではないのだろう、数人の生活感があった。

「秘密基地みたいでいいだろ。何人かしかしらねぇちょっとした休憩場所なんだよ」

大きめのソファにどかっと座りこんだタツヤは隣に来いとソファを叩く。それを無視して、マコトは近くのテーブルに寄り掛かった。

「それで」

さっさと要件を言えとばかりにマコトは冷たい視線を送る。

正直、タツヤと話す事は無いし、これ以上かかわるつもりも無かった。

「さっさと話をしろって? つまんねぇ奴だな」

そういいながらもタツヤはどこか楽しそうだ。先ほどまでまったく感情が読めなかったというのにどういうことだとマコトは内心考える。

「なぁ、紅茶とコーヒーどっちが好き?」

彼は座ったのにまた立ちあがると近くのポットを持ち上げて魔術で沸かす。一瞬で温まったポットの様子を見ながらタツヤはコップの用意をしている。。

「紅茶で」

「あ、すまん。紅茶切らしてた」

「……」

「すまんって」

そう言ってコーヒーを豆から挽きはじめる。使い込んでいる様子の手挽きミルやサイフォンまで用意してあるこだわりぶりだ。

砂糖や塩まで置いてある。

「お前、言霊使いなんだって?」

それは、今回の要件ではないだろうとばかりにマコトは無言でタツヤを見る。

それにタツヤは苦笑した。

「しょうがねぇな。お前、神楽崎を殺したんだって?」

「それがどうした」

「おなじ釜の飯を食った仲だからさ。まさかあいつを殺すなんて思わなくて。本当に神楽崎を殺したのか? あいつは強いぞ?」

今まで何度も味方同士であるにもかかわらず神楽崎と交戦したことのあるタツヤは言う。

その裏には魔法の使えない暗殺者風情が、どうやって風術師を殺したのかという疑問もあった。

「しかも、スフィラがなんかしてたんだろ?」

神楽崎の魔術は変異していた。風術だけでなく闇術まで使えるようになっていたのは、スフィラの力の影響だ。普通、風術に特化していた神楽崎の様な術者が、他の系統の術をすぐに使えるようになるなんてこと、まずありえないのだ。

ここから先はマコトの想像となるが、おそらくスフィラは負の感情の強い者を惹きつけ、支配する能力の持ち主だ。かつて、スフィラは望まぬ結婚をした姫を操り、自らの自由を取り戻したと言う。そして、操られた姫は狂い、スフィラと同じ力を使って妹を殺そうとしたとか。

操られてこそいないが、神楽崎もまたその影響で異様な力を手に入れたのではないか。

他の者もそれに思い当っていたようだとマコトはタツヤを改めて見かえした。

相変わらず、得体は知れない。

「本当に殺したのか?」

再びタツヤは聞いて来る。

「プルートに聞けば分かるだろう」

「プルートに、ねぇ」

なにか含みを持った言い方に、マコトは眉をひそめる。

ようやくコーヒーが入ったようだ。ちょっと熱いぞ、なんて注意を言いながらタツヤはコーヒーをマコトのすぐ横に置いた。

「そういや、お前さんはなんでセレスティンに入ったんだ?」

突然の話題の変更。タツヤはまた何を考えているのか解らない、眠たそうな顔で問うてきた。またか、とマコトは思いため息をつきながら言う。

「知るか」

「は?」

その答えはさすがに考えていなかったらしい。ぽかんとしたタツヤの顔にマコトはようやく一本とれたとにやりと笑う。

あわてて表情を取り繕うタツヤだが、もう遅い。

「なんでも、スフィラのモノだかららしい」

「そ、う。じゃ、じゃあ、セレスティンに忠誠を誓ってるわけじゃねえのか」

「セレスティンの目的に関わる必要を感じない」

「目的に? スフィラの事はどう思ってるんだ」

「同志」

「へぇ」

「お前たちこそ、なにを思ってセレスティンにはいったんだ」

「べつにどうともおもってねぇけど目的を遂行するために……?」

じっとマコトを見つめるタツヤは、目を見開いていた。

マコトは静かにタツヤの入れたコーヒーを飲んでいた。砂糖も塩も入れずにちびちび飲んでいる。

「お前、紫の悪魔、だっけ? なんて呼べばいいんだ?」

「好きなように呼べばいい」

「あそ。分かった」

それ以上は聞くことが無くなった様で、タツヤはぽつぽつとくだらないことを話し始める。

今日の天気は雨だとか元アーリア皇国領には行きたくないとか、プルートの悪態。

それを右から左に聞き流しながら、マコトはちびちびとコーヒーを飲む。意外と美味しかった。


「すげぇ面白かったよ。じゃあな、むらさきのあくまー」

コーヒーを飲み終わった所で、二人の話は終わった。

マコトは美味しかったとだけ言ってさっさと部屋を出ていく。

それを見送り、さらに外のマコトが遠くまで行くのを待って、壁に寄り掛かった。

「聞いてたか、ミザール」

そのうち壁越しから、くぐもった少しばかり年季の入った男の声が聞こえてきた。

「聞いていたぞ、タツヤ。あの坊主、オレが居るのに気付いていたな」

この隣にはやはり使われていない物置がある。

材料費をけちったのか、小さなその物置とこの部屋を隔てる壁は薄い。この部屋の声を拾うのにまさに最適の場所だった。

しばらくすると、タツヤのいる部屋に男が現れる。

ミザール。タツヤとマコトと同じく幹部の一人の男だった。

「あいつは言霊使い。嘘は付かない……だが、あいつは本当にセレスティンに忠誠を誓っているのか?」

タツヤは思案顔で口元に手を当てる。

言霊使いは言葉を大切にしている。一度口にした言葉は戻せない、それが故に嘘を嫌がる。マコトも言霊使いならばそのはずなのだ。

「セレスティンの目的を知っているようだが」

「調べる価値がありそうか?」

「いや、おそらく彼をこちら側に引き入れるのは無理だ。スフィラの同志などとのたまうんだからな」

その言葉を聞いて、慌ててミザールは周囲の様子を確認する。そして、ほっとしながらタツヤの頭をごりごりと拳をあてた。

「どこで誰が聞いているのか分からないぞ、気をつけろ坊主」

「わ、分かってるって」

慌てて頷くタツヤに、ミザールは頷いた。

「この先、なにがあっても我らだけは生き残らなければならないのだから」

「……あぁ、分かってるよ」

その会話を最後に、彼等は部屋を出ていった。





一枚岩ではないセレスティン。三枚ぐらいに分かれていると思われます。

それを言うと、アーヴェは最初から五つに分かれ、さらに別れた先でも幾つもわかれているので岩と言うよりも砂の城です……。


次は、入れる予定が無かったけど入れないと後で困ることに気づいて入れることになった話しになるかと。


今月は三回更新したい……です……次の話が短いので……


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