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騙る世界のフィリアリア  作者: 絢無晴蘿
第二章 -神騙り-
79/154

02-07-01 黒の騎士団の暗殺者たち

年越し前に忙しい人々がいきかう町。たびたび彼等の話題に上がるのは、ある国でおこった一族皆殺しというおぞましい事件や、ある国が戦争を控えている様な行動を起こしていると言う噂……そして、フィンドルで神が殺されたと言う恐ろしい話だった。

神はめったなことでは死なない。事実、フィンドルで殺されたというリーテ神は実際はまだ死んではいない。ただ、力のほとんどは失い、姿を現す事が出来なくなってしまっている。それを殺したのは、なんと神殺しの一族であると言う噂はひそやかに流されていた。

聖フィンドルベーテアルフォンソ神国からはそのような御触れは出ていない。だが、神を殺すと言う所業を唯人が行うとは思えず、神殺しの一族が殺したと言うのならば信憑性があると人々は噂する。



――情報屋バラッドにもその噂は伝えられる。

「はぁ、まったく最近はどれだけ仕事しても仕事しても足りないんですけど……」

どこにでもいそうなぱっとしない青年が頬に手を当てて机に寄りかかりながらいう。

彼はこの店のオーナー、レガート・レントだ。

『それは誰も同じだと思いますよ』

不思議な機械のから声が聞こえる。そう、そっけなく答えるのは彼の相棒――それが、パンドラボックス・イトコヒメシステムなどと長ったらしい正式名称を持つ、イトコだった。彼女は元々人間だったらしいが、なぜこんな姿になってしまったのかレガート・レントはよく知らない。理由を聞いたこともあったのだが、アースフィアの軸がぶれてブレインコピーがどうのこうのと知らない単語のオンパレードで結局理由は解らなかった。

「まあそうですけど。こっちの身にもなってくださいよ、お嬢」

そして、バーによく似た店内には客が一人だけ。全体を覆う白い仮面で顔を隠した三番目のジョーカーだった。

「で、旦那……どうするんですか? あの、四番目のジョーカー、ファントム……オベロン計画を知ってるらしいですけど」

そうレガート・レントが問いかけると、彼は飲んでいた紅茶をテーブルに置く。

「彼が動く気配はない……とりあえずは様子見だろう。まだ計画は始まっていないしな……」

「どうしてこうも都合が悪い時に」

「彼の考えは分からないが、とにかく計画を阻止するしかないだろう。その為の鍵は少しずつ揃ってきている。だが、中途半端な所で手を出されないように釘をさしておくべきか……」

そう言うと、三番目のジョーカーは考え込む。

四番目のジョーカー、ファントムがバラッドにやってきた話は既に聞いている。彼が帰り際に聞いて来たオベロン計画についても。

下手にオベロン計画を阻害しようと手を出されると困るのは三番目のジョーカーだ。

「あと、旦那に会いたいってヒトが来ましたよ」

「……?」

あまり浮かない様子で告げるレガート・レントに、三番目は先を続けさせる。

「旦那に以前写真を見せてもらったことがあったのですぐに分かりましたよ」

「誰なんだ」

なかなか名前を継げないレガート・レントに、三番目は不思議そうに問いかける。

「あー、なんていうか……その……『魔術師』の部下の、アインと名乗ってる女ですよ」

不老不死を求めて黄泉還りの禁術を操る『魔術師』と名乗るネクロマンサー。彼女が操る黄泉還った死者の一人、アインと呼ばれる女。彼女から伝えて欲しいと言われたことを伝えながら、レガート・レントは心の中で大きくため息をついた。

世界が絶え間なく変動している。一歩でも遅れればついて行けないほど早く。

この濁流に飲み込まれないように、彼は情報を集めるぐらいしかできない。

一通り話し終える。しかし、三番目のジョーカーは無言だ。可も不可も言わず、彼は無言を通す。おそらく、次まで返事は保留となるのだろう。

そしてもう一つ、レガート・レントはいわなくてはならないことがある。

「そういえば旦那……まじでアレ、どうすればいいんですか?」

奥の部屋にいるはずのアレを思い出して、レガート・レントは頭を抱えながらいった。

「……とりあえずひと段落つくまで預かっていて欲しい」

「オレはいいんですけど、アレって……」

「害はないだろう」

「そうだといいですけど」

三番目のジョーカーは毎回綱渡りみたいなことばかりしている……願わくば、こちらに火の粉がかからないことを祈るばかりだ。





聖フィンドルベーテアルフォンソ神国、そこから逃亡したカリス、テイルは――フルキフェルに逃れて来ていた。

フィンドルから東に向かうと、東大陸と呼ばれる地域がある。名前の通り中央大陸の中でも東に位置し、四年前の戦争中にシエラル王国を中心として中立を保った中立国家が多く存在する地域である。その中でもフルキフェルは異端の国として嫌われていた。どんな者でも……犯罪者でも入国を許されているこの国は治安も政治もあまりよくは無い。国の上層部は犯罪組織と繋がっているのではと黒いうわさも絶えない。カリスとテイルが訪れたのはそんな国だった。


カリスには師匠が一人いる。現在はスワーグ支部の支部長をしているアマーリエと名乗る陰陽師だ。茂賀美の一族出身らしいが、本名は決して名乗らないため、一体何者なのかカリスですらしらない。

彼女には数人の弟子が居て、カリスはその中でも一番若い。

カリス達を助けたローズはカリスと同じくアマーリエを師としていた兄弟子だった。そんなローズの借家にカリス達は転がり込んだ。

狭い借家には部屋は二つだけ。台所の様な所と睡眠や作業などするスペース。整理はされているものの、至る所に魔術関連の呪具が置かれて部屋が狭く感じる。その一室で三人は一息をついていた。

フィンドルからいつ追手が来るかとここに来るまでにとても気を使い、心身ともに疲れ果てていた。

「それで、カリス。何があったかちゃんと話してくれるんでしょうね?」

こんなのもうごめんだよ、といいながらローズは机につっぷして聞く。

ざっくりとは説明したが、移動中であまり正確な事は伝えられなかったのだ。

「ごめんって、まさかこんなことになるとは思わなかったんだよ……」

そういうと、カリスは追われる原因となった一連の話を始めた。聖フィンドルベーテアルフォンソ神国に行き出逢った少女と突如起きた神殺しについて……。

話が終わると沈黙が続く。

カリスが話す中、テイルは一言も口を出す事は無かった。ただ、静かにそっと下のほうを向いて聞いているだけだった。そんな様子をカリスはちらちらと片目で見る。

そんな二人をローズは腕を組んで静かに聞きながら見ていた。

「とりあえず、自己紹介でもしましょうか」

長い沈黙の後、ローズは空気を変えるように言った。簡単な紹介はカリスが二人にしていたがちゃんとした挨拶はまだだとローズは手を打つ。

「私はローズ。ローズ・カラーズ。黒の騎士団に所属していたんだけど、師匠に陰陽師のほうが向いているって誘われて、引き抜かれたの」

「はい? えっと、それは、黒の騎士団を辞めて、陰陽師になったと……?」

それまで静かだったテイルが、思わずローズに問いかけた。

「そうそう」

「えっ、ちょっと待って下さい? 黒騎士って、暗殺者組織ですよね? そんなところから抜けて、大丈夫だったんですか?」

普通、そんな組織から抜けるなど考えられなかった。裏切り者には死を、なんて言って、入ったら二度と抜け出せない組織などよく聞くのだが、彼女は大丈夫なのかとテイルは声をあげた。

「まぁ、普通の暗殺者ギルドみたいな場所だったらダメだったでしょうね。あそこ、変なところがあってね……普通に寿退社する人とかいるから特に問題なく抜けられたわ」

「……」

寿退社って、どういうことだ。と、テイルもカリスも頭を抱える。

暗殺者組織、黒の騎士団などと大層な名称のわりに脱退は容易と言う事なのか。

「こう見えても、黒騎士の二大派閥の長とか言われる紅破と竜胆と幼馴染でねー」

「おいっ、それオレも聞いてねぇぞ?!」

「言ってないもの」

黒騎士のトップは双子の紅破と竜胆だと言われている。二人はそれぞれ革命派と保守派に分かれ、組織を牛耳っているとか。そんな基礎知識だけを知っているテイルはなにも言えずに口をぱくぱくとさせていた。

「あそこは身内同士の繋がりが深くてね……仲間が殺されたとかには容赦なく報復するわ。最近……最近って言っても三年くらい前だけど、結婚して辞めた人が惨殺されたとかで、その犯人を血眼になって探しているわ」

「そ、そうなんですか」

それ以上言えないので、とりあえずそうなんですかと頷くだけのテイルに、ローズは笑った。

言い方からして、ローズも探しているようだ。

「もともと、あそこってあぶれ者たちが身を守る為につくった組織だからね」

「それで、頼んでいたのはどうなったんだよ」

「あんたねぇ……」

話を遮ったカリスにローズの鉄拳が下される。無言で頭を抱えるカリスに、テイルは苦笑いをしていた。

「僕も自己紹介がまだでしたよね。僕はテイル・クージスといいます」

「うん。カリスに何度かあなた達の話は聞いてたわ。今回は災難だったわね」

カリスはローズに今回の事件の顛末を話していたがテイルが神殺しの一族の出であることは話していない。それとなくぼかしている。たまたま犯人にされ殺されかけたという事を言っていたので、ローズはかなり同情的だった。

もし、神殺しの一族であることを話したら、彼女はどんな反応をするのだろう。少しだけ、テイルは怖かった。

「たしか、錬金術師だったっけ? 式神使役するよりゴーレム使役したかったってカリスがうるさかったわ」

思わずそうだったのかとテイルがカリスを見る。

ぶすーっとした顔で彼はそっぽを向いていた。そんなことを考えていたのかと思わずカリスを見る視線が優しくなってしまう。

「母が錬金術師だったので少々心得がありますが、医学を学びたいと思っています」

「へぇ、治癒術じゃなくて医学なの」

「治癒系の魔術はどうも苦手で……」

「人によりけりだものね。私も師匠に見いだしてもらえてほんと幸運だったわ」

なにやら共感する物があったのかローズは何度も頷いていた。

「それで、ローズねぇ。頼んだのはどうなったんだよ」

「まったくこいつは……」

話の腰を折られて少し不満そうながらも、ローズは頷いた。

「黒騎士の一人に連絡したら話を聞いてくれるってさ」

「よしっ」

「本当ですか!」

カリスがローズに頼んでいたのは、そう、黒の騎士団の暗殺者と話をしたいと言うものだった。マコトの過去をとにかく知りたかったのだ。

黒騎士にいたローズにしか頼めないとカリスがすでに黒騎士を辞めて5年になるローズになきついてきた(手紙だったが)のはローズにとって初めてのことだった。いつも一人でどこかに行ってしまうカリスだったので、少しだけ嬉しかった。どうなるか分からないと言いながらも元同僚と連絡を取ったところ簡単に了承をもらえたのは本当に驚いていた。

まさか、『彼』が来るとは思わなかったからだ。

「場所はここから少し離れた所にある旧黒騎士本部よ。話を聞く代わりに、お相手さんも聞きたいことがあるらしいからそれだけは覚悟しといて」

誰が来るのか、驚かせようとわざとぼかしながらローズは説明をしていた。





二年ほど前まで使っていたと言う旧黒の騎士団の本部は崖の影に隠れて造られてあった。

崖のなかをくりぬかれて造られていて、外からは小さな小屋に見えるが中はとても広かった。

「なんでも、時々使うらしいわ」

そう言って合鍵で扉を開けていくローズは、時々落ちて来る埃を払いながら進む。

カリスはきょろきょろとあたりを見回して警戒……というよりも知らない場所に興奮している。テイルはそんな彼等を後ろから見守りながら前に進んだ。

かなり広いらしく、数分歩いたがまだ目的地につかない。

そろそろ心配になってきたテイルだったが、ローズに聞こうと思った時にちょうど、彼女の足が止まった。

「なつかしい……あそこで待ってるはずよ」

どうやらローズは来ないらしい。

彼女が指差したのは木造の扉。今まで通って来た廊下にあった扉とは少し違い、装飾が豪華でどこか古めかしい。

「あそこ、なんの部屋なんだよ」

「図書室。本がたくさん置かれてて、私は一回しか行ったことないけど」

「へぇ……」

「ほら、さっさと行きな!」

「おいっ、まだ誰が来るのかも知らないんだけど!!」

ローズに押されてカリスとテイルは扉の前に無理やり進められた。二人は顔を合わせると、しょうがないとばかりに頷く。

「とにかく、会って話を聞きましょうか。マコトの事も玻璃の事も、まだなにも分かってないし」

「あぁ」

テイルが扉を開ける。と、そこには二人の青年が居た。

「おっ、きたきた。ほら、こっちに来いよ」

気軽そうに年配の男が声をかけて来た。

黒毛のその男は、少し無精ひげを生やして洋服を着崩して来ている。

その隣には彼よりも若い青年が居た。ローブを着た研究者の様な彼は、どこか親しみやすい。静かに微笑む彼は、男の秘書だろうか。

「あんたたちが黒の騎士団……?」

「ちょっ、カリス!」

暗殺者というには、この二人はあまり暗殺者に見えないと、カリスが不審そうに聞いた。ローズが連れて来た先にいたのだから彼等は暗殺者なのは間違いないが、それでも疑ってしまう。

「すみません。僕はテイル・クージスと言います。こちらが最上カリス……」

「あぁ。オレは蘇芳って呼ばれてる。ローズから聞いてるよ、とりあえず紫の小僧の事を知りたいんだろ?」

「むらさき……? あ、はい!」

紫の小僧と言われて最初はピンとこなかったが、思い出して頷く。マコトは、黒の騎士団で紫の悪魔と名乗っていたのだ。だから、そう呼ばれているのだろう。

「あぁ、今はマコトって名乗ってるんだっけ? まあいいや。で、何を知りたいんだよ。あ、一応オレ達も慈善事業で来た訳じゃねぇ、お前たちから聞きたい事があるから出向いたのは忘れるな」

「は、い。さ、早速なんですが……」

「クリス・ハルフォンドって知ってるか?」

一体何を聞かれるのかと緊張するテイルが聞く前に、カリスが言った。

すると、蘇芳は即答する。

「知らん」

「じゃあ、マリアンヌ王女は?」

「聞いたことがある。紫の悪魔と灰かぶりの暗殺対象だろ? こっちからも質問だ。紫の……お前たちから言うと、マコトっていうのか? あいつは、灰かぶりを殺したのか?」

「えっ……いえ。その……本人は殺したと言ってましたけど、おそらく殺してないとサイは言っていましたけど……」

「サイ……白銀の嬢ちゃん、生きてたのか」

サイも元々は黒騎士に所属する暗殺者だ。彼もそれを知っていたのだろう。納得するように頷く。

「サイが言うのならそうなんだろうな……それで、灰かぶりは……星原で埋葬されたって聞いたが」

「えっ。あの……」

「たぶん、死んじまったあいつのことだろ? あぁ、星原の皇の館の裏にある墓地に埋葬されたよ」

「そうか……じゃあ、墓参りはできねぇか」

カリスとテイルはローズに聞いていた黒騎士の話を思い出す。彼等は仲間意識が強い。かつての仲間を殺されれば報復するほどに。

彼との会話でそれを再確認する。きっと、彼は灰かぶりの事が聞きたくてここに来たのだ。

「あの、こちらもいいですか?」

落ち込んだように顔を伏せていた蘇芳に、テイルは控えめに言った。

「ん? あぁ、すまんな」

「マリアンヌ暗殺の日に、このクリス・ハルフォンドという少年は家族と共に皆殺しにされた様なんです……フィンドルの神都で」

「……それは、聞いたことがねぇな。家族の名は?」

「えっと……」

懐から新聞を出して、テイルは応えた。が、やはり蘇芳は首を振る。

「しらねぇ。その事件に黒騎士は関わっちゃいない……よな? 竜胆」

それまで静かに部屋にいた青年に、蘇芳は話しかけた。

カリスもテイルもその呼ばれた名に驚き、思わず彼を見る。

「そうですね。少なくとも、保守派にはそんな依頼来ていませんし、紅破のほうでもそんな依頼を受けたと言う話は聞いてないですね」

そう答えた竜胆に、カリスもテイルも目を丸くして見ていた。

「お、おい、りんどうって……」

「う、ん……たぶん」

竜胆――ローズから話を聞いている。黒の騎士団の事実的頂点の双子、保守派をまとめる竜胆。そう、今まで何も言わなかった彼は、黒の騎士団の中でも重要な地位にいる人物だったのだ。

そんなカリスとテイルの視線に、困ったように彼は頭をかく。

その様子は普通の青年で、暗殺者組織を束ねる統領には見えない。

「あまり自分の紹介をするとはなしづらくなると思いまして、意図的に避けていたのですが……蘇芳さん、察して下さいよ」

「いつかはばれるだろ」

まさか、ローズが何も言わなかったのはそう言う事なのかと、カリスは頬をひきつらせてローズに悪態をつく。さすがにこれくらいは話して欲しかった。

テイルはまさかの大物出現にどうしてよいのか分からず言葉を詰まらせている。

「あ、あの、なんで……竜胆さんのような人が、ここに……」

どうにか言葉を絞り出すと、竜胆は困ったように笑った。

「……知りたかったんだ。あの子たちの結末を。……結局、灰かぶりは彼を救えなかったのかを、知りたかったんだ」

「……?」

話の意図が見えず、テイルは首を傾げた。

たぶん、これはサイが知らないことだろう。そう、耳を傾ける。

「マコトは、どんな子だった?」

「えっと、そうですね……星原に来た時、最初に助けてくれたのが陸夜さんだったせいか、彼としか話さなくて……でも、そのうちに私たちとも打ち解けて……あまり話したりはしませんが、大抵聞き役になってぽつりと感想言う様な感じでした。どこで聞いたのか不思議なほど物知りで、よく図書室に入り浸って……」

話している内に、テイルは数か月前の事を思い出して行く。

あの頃は、本当に平和だった。それなのに、なんでこんなことになってしまったのだろう。

カリスは忌々しそうに顔を歪ませている。マコトに対して、カリスはテイルと違いかなり怒っていた。テイルもマコトに対して思う事はあるが、なぜ、やどうして、という疑問のほうが強く、カリスよりも落ち着いていた。

「……あの子はどこに行っても同じことしているんですか」

やれやれとため息をつきながら竜胆は苦笑した。

「同じことをしていたんですか」

「……この部屋に入り浸ってたよ」

そう言う彼の眼は優しい。マコトの事に対して負の感情は無いようだ。

「それで、あの子は……笑ってましたか」

「本心かは分かりませんが、時々」

「……」

意図がわからず、それまで無言で不機嫌そうだったカリスは何も言わずに不審そうに竜胆を見た。

「そうか……」

満足そうに、竜胆は頷く。

「じゃあ、灰かぶりはマコトを助けられたのか……」

「……どういう、事ですか?」

テイルは、静かに聞いた。

「マコトを助けるとか、そもそも、なんで灰かぶりと言う人は星原に助けを求めたんですか」

「……。マコトは、二年前に殺される予定だった、らしい。これはアルトから聞いた話だからどこまで本当なのか知らない。ただ、死ぬことが分かっているのにセレスティンに行ったマコトを、灰かぶりは追いかけたんだよ。黒騎士には戻れない。紅破がセレスティンとマコトを二年間だけ黒騎士で働かせると契約した張本人だったし、マコトはセレスティンに行く前に大きな失敗をしていたから」

「大きな失敗?」

「彼は、誰に依頼されたかは知らないけれど、とある組織の長を殺そうとして返り討ちにあったんだ」

「だから、黒騎士に戻らないで……」

星原に身を寄せることになったのだろう。その過去もなにもかも隠して。

「灰かぶりはそっちの星原に逃げた。はずだったけど……どうやらマコトは灰かぶりの配慮も考えないで星原の情報を探るスパイとしていたみたいだね」

「……」

「彼が灰かぶりを殺したのでないと言うのならば、もう関係は無いことだけれどね」

そうは言っても、彼の顔はどこか浮かない様子だった。

カリスはかなり不機嫌そうで、もう口をへの字にして声も出さない、誰とも目も合わせない。そんな様子をテイルは分かりやすいなぁと思いつつ横目で見る。

「そうだ……一つだけ、思い出した」

テイルと竜胆の会話を半歩下がった場所で聞いていた蘇芳が、ぽんと手を叩いてテイルに話しかけて来る。

「なにを……ですか?」

「そういや、あいつが――灰かぶりが、マリアンヌの暗殺の後に言ってたんだ。結局助けられなかったって」

「?」

「あいつさぁ、ほんと異端者が多い黒騎士の中でもかなり異端でな……暗殺者のくせに、殺す事が嫌いで、仕事以外じゃ人助けばっかりしてたんだよ。なんでも暗殺の後に燃えている家を見つけて助けようとしたけど、結局助けられなかったってさ……」

もしや、それはハルフォンド家惨殺のことだったのではないか。蘇芳は話す。

「あいつはそれ以上言ってくれなかったが、おそらくそれがクリス・ハルフォンドのことなんじゃないのか?」

「そう、かも……しれません」

紫の悪魔だったマコト。マコトを嫌っていた玻璃。玻璃によく似た一家惨殺事件で殺された少年クリス。クリスが殺された時、マコトは灰かぶりと共にすぐ近くにいた。

もしや、玻璃はクリスなのではないのか。死んで弔われたのを見たとノラン達は言っていたが、生きていたのではないのか。殺された時、マコトが何らかの形で関わっていたのではないのか。

なにかが見えてきそうで見えない。テイルもカリスも、決定打となる情報が足りないことに気がついていた。

真相は、やはりマコトに聞かなければならないのだろう。

「あと、もう一つ」

竜胆が考え込む二人に声をかけた。

「もし、マコトの事が知りたいのなら、白蓮の都を調べるといい。灰かぶりがマコトを追って黒の騎士団を飛びだす直前にマコトについてなにかを調べるために行ったらしい」

「は、い。ありがとうございます」

テイルが礼を言うと、竜胆は少しだけ顔をしかめながらも首を振った。

「私達が聞きたかったことは大方聞けた」

「ありがとうございました。僕達もいろいろ聞けて良かったです」

「そう。一応、今回の事はあまり公にして貰わないで頂けると嬉しい」

「こいつが出てきたことなんか、特に」

蘇芳が竜胆に指差し、笑いながら言った。そんな蘇芳の手を竜胆はさりげなく退ける。

「それは、はい」

どう反応して良いのか分からず、テイルはとりあえず頷いた。

蘇芳は用が済んだとばかりにさっさと出て行ってしまう。それを竜胆はゆっくりと追って行く。が、外に出る扉の前で彼は立ちどまった。


「一つだけ、言っておくよ。我等の黒の騎士団はただの人殺し集団だ。依頼を受けて他人の代わりに人の命を奪うロクデナシどもの集まり。それだけは、覚えておいて欲しい」


後ろを向いたまま、彼は言う。冷たく、先ほどとは違う地獄の底から聞こえてくるような声だった。

その言葉に、思わずテイルはびくりと身を正す。カリスもまた、驚いた様子で固まっていた。

「あ、もしも殺したい人が居たら、是非黒の騎士団へお問い合わせください。現在は魔物や害獣の駆除も行っています。なんてね」

先ほどの冷たさを打ち消すかのように、振り返った彼は明るく言う。最後にはウィンクまでして。

呆然とするカリスとテイルを残し、彼はくすりと笑いながら去っていった。

カリスもテイルも、すぐには動けなかった。

彼等は暗殺者、なのに、なんであんなに人間らしいのか。仲間が殺されれば怒り、行方不明になった仲間を心配する。星原とあまり変わりない。

でも、彼等は人殺しであるのは変わりない。

こうして、彼等の黒の騎士団との最初の邂逅(・・・・・)は終わった。




テイルたちはとりあえずローズの借家に帰ることとなった。

なにかしら関係していると思われる白蓮の都を目指すにしても行かないとしても、すでに時刻は寝る時間。夜の帳は下りている。

部屋に入ると、そこには小さな白い小鳥が入りこんでいた。

「あれ、式文?」

それが何なのか、知識があったローズは思わずカリスを見る。

その鳥からはカリスの魔力を感じたからだ。

「あ、ティアラからだ」

カリスはそう言って手を伸ばす。すると、小さな小鳥は慣れた様子でカリスの手の中に飛び移ると、するすると姿を変え、一枚の用紙へと変わってしまう。

その鳥はカリスの使う術、式文だった。紙に魔力を与えると、式となり命じられた者の元へと飛ばす事ができる。その紙を何枚かティアラやアルト達に渡していたのだ。

カリス、テイル、ティアラ、アルト……みなバラバラに分かれてしまった。そんな中、情報を交換するのに一番適していると判断したためである。時間は少しかかるが、襲われたり他人が中を見ようとすると燃え、術者にもそれが伝わるので誰かに見られる心配はないし、どこにいても式が探しだしてくれる。結構便利なのだ。

その紙をざっと読むと、テイルに渡す。

「これは……アイリが見つかったんですか!!」

「しかも、ティアラと一緒にシエラルに行くらしい」

行方不明だったアイリが見つかった。その知らせにテイルは涙ぐみながら喜ぶ。さらには、あのふたりがシエラルに行くと言うのだ。まるで、計ったタイミングのように。

「オレ達も、シエラルに行こう」

「そうだね。アイリ達に会いたいし、マコトの事を知る為にも」

顔を合わせて確認し合う二人を、ローズは面白そうに見ていた。



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