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騙る世界のフィリアリア  作者: 絢無晴蘿
第一章 -日常-
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01-09-04 戻れぬ日々への決断を


たとえば、決して叶わない願いがある。

それが、死者の復活。


人が死んだ時、それを生き返らせたいと願う者は多い。

だが、そんなことは許されない。

そもそも、出来ない。

魔法は万能ではないのだ。人を生き返らせることなんてできないのだ。

人を人として、この世に呼びもどす事は出来ないのだ。


人でなければ。




「ばけ、ものっ」

何もかも、無かった事にされた。

なんでもない、無傷の素肌が晒される。身体は再生しても、服は元には戻らないと言うことだ。

ぼろぼろになった布切れが申し訳程度に身体を隠している。

「えぇ。化物よ。生者の振りをした死者。人でもない、『魔術師』によって創られた化物。だから、勝機なんてない」

黄泉還りについて、多くの魔術師や魔法使いたちは話を聞いたことがあるはずだ。

なんせ、戦争時にアーリア皇国が敗北した時のきっかけの魔法だからだ。

黄泉還り……大和国では死後の世界を黄泉と呼ぶ。その死後の世界から死者を呼び戻すから黄泉還り。

その魔法は、禁忌として厳重に封印を施されて保管されていると言う。

しかし、その保管されている魔法は不完全。いまだ、死者を蘇らせたという話は聞かない。

なぜなら、人を生き返らせるなんて出来ないから。当たり前のことである。

だが、なぜ禁忌とされ封印されているのか。

それは、その魔法を応用して化物を創りだした者がいるからだった。『魔術師』と呼ばれるエルフもそのうちの一人。今では組織めいた者を創り、黄泉還りの禁術で創りだした化物を従えている。

呼び戻された化物――死者は、死なない。すでに死んでいるから、殺せない。

彼らによって、四年前まで行われていた戦場では多くの戦死者がでた。特に、アーリア皇国では彼らによって国を壊されたといっても過言ではない。決して死なない不死の兵士に襲われ、国は焦土と化した。

それが、二人。

「ほんと、楽しいわね」

動きが遅れた陸夜の右腕が、捕まった。

そのまま折り曲げた膝に打ち付けられる。

不吉な音が響いた。ぶらりと垂れ下がった右手から、剣が滑り落ちる。

痛みに体制を崩した陸夜を、女は容赦なく蹴り飛ばした。

「陸夜様っ!」

思わず、サイは創りだしていた炎を消して、陸夜の元に駆ける。が、すぐに足を止めた。

サイには近距離戦をさせたくない。それだけを想って、陸夜は彼女が駆け寄ろうとするのを左手で制止させていた。

ただの精霊の身では、今以上の威力の魔法を創る事は出来ない。彼女を止められない。


「……そこまでにしてもらえるか」


場違いな声が聞こえた。

「あら? さっきの子じゃない。戻ってきたの?」

妖艶な笑みを浮かべる女。彼女が声をかけても、気にせずに言葉を続ける。


「これ以上ここに居たら、死ぬぞ」


霧原マコトが、無表情で彼女を見ていた。

いや、違う。その顔はたしかに表情が無いようにみえるが、はっきりと怒りの表情が見てとれた。

「主っ、ダメですっ。来ないで――」

(サイ)

マコトを庇うようにサイがその前に飛び出す。が、その名を呼ぶ。

実は、星原の中で陸夜や守のように戦う事が出来る者はそういない。

そして、霧原マコトは戦えない。

精霊使いであるが、戦う訓練を受けた事が無ければなんでもない。

だから、彩はマコトを止める。

だが――。

ぼろぼろになった義兄(リクヤ)を見て、呟く。

「僕は、こいつを、許せない。だから……」

戦う。

マコト自身は戦えない。剣を持っていない、拳を鍛えている訳でもない。普通なら誰でも使える魔法すら、使う事が出来ない。

だが、一つだけ誇れることがある。それは、知識。

誰かが技術を磨いているその横で、マコトはずっと調べ続けた。学び続けた。体術も魔術も使えないがゆえに。自分の身ぐらいは、守れるようにと。


精霊使いとは、精霊に自らの足りない物を補填してもらう者達のことだ。もちろん、足りないから契約するのではなく、さらに展開させるために補助をさせる者も多い。別に、ただたんに精霊と仲が良くなり、契約をして精霊使いになったものもいる。

マコトの場合、足りない物を補填するためだ。魔法をまったく使えないからである。

彩は、自らの力をマコトに分け与え、マコトは契約に従って彩に対価を払う。

「……はい、主」

悔しそうに女を睨みつけると、彩の姿が霞んだ。

「でも、決して……無茶な事はなさらないでください」

どこからか響くように彩の声が響く。

「……分かっている」

その瞬間、マコトの周囲に魔法陣が展開された。

暗い森の中で、突如光源が現れて文字を描きはじめる。誰もが解読できる訳ではない神語が、乱雑に宙に描かれていく。

あまりにも早い陣の展開に、女は目を見開いて少年を見る。

マコトの後ろには、透けた彩の姿が彼を守る様にあった。

「『魔術師』の黄泉還り――アイン……シルフィーヌ・フォン・メイザース、現音川シルフによって破壊。破壊方法は圧倒的な風術による破壊(物理的な切り刻み)。ツヴァイ、音川シルフによって破壊。破壊方法は魔力切れによる破壊(魔法展開式消去)。ドライ、音川シルフと三番目のジョーカーによって破壊。破壊方法は禁術による破壊(存在消去)。フィンフ、三番目のジョーカーによって破壊。破壊方法はドライと同じく禁術による破壊。ジーベン、一番目のジョーカーによって破壊。黄泉還りの禁術の施術中に器の強制破壊……死んでも死なないとされる黄泉還りの施術者たちだが、この様に過去に幾つもの死亡例がある」

「良く調べているわね」

近くにあった手ごろな物――陸夜を蹴りつけると新たな標的――マコトを見て女――フィアは笑った。

「『魔術師』による黄泉還りとは、死者の魂を現世にとどめる死霊術(ネクロマンシー)の発展した魔法であると考える。ならば、その魔術の核となった部分があるはずだ。また、魔力不足による破壊例があることを考えるに、お前たちのその不死性は魔力によってもたらされると考えられる。故に、音川シルフは圧倒的な数の暴力による破壊を行ったのだろう。その身にある魔力で賄えなくなるほどの破壊を」

話が終わる頃には、マコトの周りに百を超える魔法陣が創られていた。

陣だけでなく、周囲には魔術式や他の魔法の支援術などがばらまかれている。

そして、一番特徴的なのは、どの魔法陣も形も形状も文字もなにもかも、まったく違うと言う事。

「だから、今から、それを行おうと思う」

一斉に、全ての魔法が――発動した!!

瞬間的に光が一面を照らす。

未だにアハトと戦闘を続ける守にも、それは見えた。

風がフィアの身体を引き裂く。炎がその陶磁の肌を焼く。光の射撃が体中を穿つ。

まさに数の暴力。

息をつく暇なんて与えない。

魔法陣が幾つも創りだされ、永遠に続くかのように魔法が放たれていく。

ふざけた光景だった。

普通なら、こんな数の魔法陣を一気に発動なんて出来ない。そもそも、流派も原理も文字も違う様々な魔法がこのように展開されない。

通常、魔法を学ぶ者なら一つの魔法の体系を学び続けて極めていく。知識だけでなく魔法を発動する実技も学んでいかなければならないためだ。

しかし、魔力を持たないがゆえに理論しか学べなかったマコトは、一つの魔法の体系を覚えるのではなく、大陸中の魔法を学ぶことでその穴を埋めることにした。だから、理論だけなら星原の中の誰よりも知っている。

彩の助力によりその知っている理論を実践していく。

無論、数多く展開された魔法の中には発動せずに消滅したり、暴発してマコトを傷つけるような事もあるが、そんなこと、お構いなしに魔法を放っていく。

これが、マコトができる唯一の戦い方。文字通り、命を削った(・・・・・)全力の攻撃だった。


なにかが溶ける様な、蒸発していくような音がする。

緩やかに連撃が止まり、魔法によって塞がれていた視界が開けた。

そこにあったのは、ボロボロになりながらも白煙をあげて身体を再生させていくフィアの姿だった。

「あら、これで終わり?」

さすがに連続した魔法の攻撃をさばくのには疲れたらしい。余裕の仮面をかぶりながら、マコトに嗤いかける。

それに、少年は答えなかった。

「あ、あるじ……やりすぎです、もう、おやめ下さい……このままでは……」

彩の言葉にマコトは首を振る。が、その顔には疲労の色が濃い。

立つこともままならない様子で、マコトはその場に崩れ落ちた。

「これは、自滅ってことかしら?」

忌々しそうにフィアを睨みつけるマコトだが、その額には汗が浮かび、息を切らせていた。

震える手を地面に置いて、そのまま倒れそうな身体を支える。

その周囲には、さらに魔法陣が展開されていく。

幾つも幾つも幾つも。

どれだけの魔力を彩から供給されているのか、まったく予想もつかない。それほどの量を展開し、操っていく。

「お願いです、主……このまま私の力を使えばっ……本当に死んでしまいますっ!! これ以上、命を削らないでくださいっ」


これだけの魔法を使っているのだ。契約を……人智を超えた存在である精霊と取引をして。

それに、対価がないはずがない。


彩とマコトのかわした契約。魔力を得る対価、それは自らの命である。


「そうよ、もっと抗ってちょうだい? 私は何もしていないのに死んでしまうなんて、つまらなすぎるわ」

マコトの視線などそよ風程度にも感じず、受け流して女は嗤う。

「確かに、私達は魔力を切らせば動かなくなる。手を止めずに攻撃し続けるっていう対処は、正しい。けれど、貴方程度じゃ、無理」


だって、弱すぎる。


持続力が無ければ、攻撃力もない。

「ねぇ」

そんな輩がどうやって不死者を殺せるのか。

「これ以上ここに居たら死ぬっていったの、誰だっけ?」

光の矢に貫かれ、風の刃に切られながら、フィアはおもむろに目の前のおもちゃを蹴りつけた。

ごほごほと吐きだし、空気を求めてあえぐマコトを、微笑みながら眺める。

さらに、髪を掴むとそれを引っ張り上げて視線の前まで持ち上げた。

「ほんと、可愛いわね。そこまであの子たち(なかま)が大切なのかしら? なら、目の前に殺したらどれだけ絶望するのかしら? ねぇ、どう?」

マコトの魔法は何時までも展開されていく。それでも、女は嗤う。

痛みなど、感じていないようだった。身体が傷つけられても、関係が無かった。

四番目(フィア)に創られた黄泉還りは、この世の全てを嘲笑うように狂ったように嗤い続けた。

「狂ってる」

ぽつりと呟いたマコトは、いつの間にかその手に白銀色の剣を持っていた。

細身の剣には、普通ではない輝きがある。

その剣が、まるで意志があるように動いた。

倒れたマコトの手を無理やり動かして、人間には不可能な動きをしながら目標に向かう。

それに気づいたフィアは簡単に止めた。ごきんと嫌な音が聞こえると、剣は落ちて消滅する。

痛みに顔をしかめながら、ニヤリとマコトは嗤った。

「だが、何時、ぼくが、お前を殺すと言った?」


光の剣が、彼女の腕を貫いた。

切断された腕ごと、マコトは地面にたたき落とされる。


「……まったく、無茶をしますね」


慌ててマコトから離れたフィアに、相次いで雷が襲う。先ほどのマコトの魔法よりもより強力で、追跡をするかのように自由自在に動き回ってフィアを追い詰める。

苦渋の色を見せるフィアは、姿を見せた魔女に気づいた。

「きさま……」


「アーヴェ・ルゥ・シェランの最初のジョーカー(切札)……フィーユ・ユウ・レティーシャです。あなた達を、滅しに来ました」


マコトの後ろで、明るい橙がかった金髪に、翡翠色の瞳のハーフエルフが、憎悪の視線を投げかけていた。


「貴方とは、お久しぶりですね。フィア」

同朋殺し(不死殺し)……冷徹の魔女がようやくお出ましかしら」

冷徹の魔女。その言葉に、フィーユはフィアに冷たい視線を投げかける。

「同朋……ね……嗤わせてくれるわ」

「それとも、親友殺しとでも言えばいいのかしら?」

瞬間、フィアの心の臓にめがけて紅蓮の弓矢が放たれる。

それを避けようとして、さらに後ろから襲いかかる土の拳に押しつぶされ――そうになりながら地面を爆破し、その勢いを利用して脱出。

その隣に、守と戦っていたはずの青年、アハトが現れる。

「フィア、退こう」

「ふふっ、こんなに面白い事になっているのに?」

無理やり引き摺ってでも退こうとするアハトに、フィアはやれやれと言った様子でその手を叩く。

どれだけ力を籠めたのか、ごきりとなにかが折れる音がした。

痛みに顔をしかめながら、アハトは悪態をつく。

「ふざけんなよっ、死にたいならオレを巻き込むな!」

「アハト君の言うとおりだと思いますけどねぇ……?」

森の中で、青年の声が響いた。

アハトでなければ守でもない。第三者。

フィアの前に、その青年は姿を現した。

「……プルート」

忌々しげにフィアは彼の名を呼ぶ。

「今回は、痛み分けと行きましょうよ、ねぇジョーカー《ユウちゃん》?」

「黙りなさい、セレスティン」

「くくっ。『魔術師』のフィアとアハト、そして私がいるというのに、ずいぶんな対応だ。そっちには使えない剣士と死にかけの精霊使いぐらいしかいないと言うのに」

満身創痍でアハトを睨みつける守とすでに意識を失っている陸夜、そして立ちあがることもままならないマコト……彼等を見渡して、プルートはほくそ笑む。

「ねぇ、今回は、これで終わりと言う事で。……目的の者は見つかったことだしね」

明日の天気の事でも話すように、軽い調子でプルートは笑いかける。

しかし、そこには有無を言わせない圧力があった。

フィアの腕を掴むとプルートは何事もない様に背を向けて歩いて行く。

あわてて追いかけるアハトは、すでにフィーユ達には目もくれない。

「あ、そうそう……そろそろ、星原には『神殺し』を迎えに行きますから、準備を忘れずに」

振り返る事もなく、プルートはそう言って笑っていた。

引き分け、なんて終わりではない。彼等の勝利で終わっていた。

死人が出なかっただけ、ましだった。


結局、フィーユ達は彼等が無防備に去っていくところを見ているしかなかった。







力が欲しかった

もっと、もっと強い力が

何者にも負けない力が必要だった

どうしてもどうしてもどうしてもどうして……

力が無いから守れなかった

力が無いから殺された

全て奪われた

何もかも、自分が壊した

記憶も何も無くても、それだけは理解している


力が、欲しかった……


そんな人間の生れ果てを見て、彼女はなにも思わない。

力を欲する人間なんて、掃いて捨てるほどいた。彼女の前に現れるのは、そんな人間だけだったから。

その後はただ、命じられたままに彼と契約をしただけ。

きっと、またすぐに人間は死ぬのだろうと嗤いながら。

簡単にだまされて、死ぬまで使われ続ける自分を嘲笑いながら。


でも、彼は違った……いや、彼では無く――『あの少年』は






少しずつ日常は崩れ始め――てきな感じでそろそろ二章に入りたいです。

あと数話で第二章神騙り編にいける……はず。


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