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騙る世界のフィリアリア  作者: 絢無晴蘿
第一章 -日常-
25/154

01-05-01 相反した出遭い




どこにでもある街並み。

ゆったりとした時間が流れる昼下がり。

時々聞こえて来る子ども達に声に賑やかな通りのざわめきを聞きながら、彼等は喫茶店に居た。


「ふむ、何も無く平和な町だな」

「そうだね。いたって普通の町だ」

目の前に座る少年、テイルは静かに御茶を飲む。

それに合わせて自分も。

朱炎アイリはふと後ろに意識を向けて、ため息をつく。

「それで、どうするのだ、後ろのアレ」

「そ、そうだね……帰ってもらうにしても、約束の時間はもうすぐだし」

そうだ、もうすぐ時間なのだ。

今回、この町にやってきたのは他でもない、任務のである。

一応、まだ時間はあるが、彼女を帰らせるほどの時間は無い。

どうするべきなのか。後ろに居る少女達(・・・)を。

「とりあえず、説教を一つ」

「そ、そうだね」




「で、どういうことなのだ? 答えてもらおうか、ティアラ、そして……アルト!!」

「だ、だって、愉しそうな事を聞いちゃったんだもん!」

「え? うーん、てぃあらが一緒に行こうって誘ってくれたから来たの! 近くに居たまことも誘ったんだけど、行かないって断られちゃったけど……」

あまりの答えにため息をつくのはテイル。

元凶であるティアラは悪びれる様子も無く、にこにこと殴りたくなる笑顔だ。

そして、元凶に訳もわからず巻き込まれたらしいアルトもにこにことこれまた頭が痛くなる笑顔である。

「愉しそう、か?」

「うん! だって、あのジョーカーからの頼みなんでしょ?! やっぱりこう、気になるではありませんか。こう、湧き上がるような興奮というか、冒険心がうずくというか」

そう言わなくても、ティアラはこう言う謎な事件に首をつっこみたがる性質だった。と、思い出される。

まったく、もう少し気をつけるべきだった。

こんな事になるのならば、しっかり防音の聞いた場所でテイルと話すべきだったと反省する。

「疼かんでよろしい。お前達、それがどういうことなのか、重要性を解っているのか?」

「え?」

「ねぇねぇ、てぃあら。じょーかーって?」

「……」

ティアラはぽかんと。アルトは首をかしげる。

なんとも罪な奴らだ。

アルトはともかく、ティアラは解っていて欲しかった。

「えっと、アルトさんはまだジョーカーについて……というか、この組織について良く知らないんですよね」

言葉の出ない私の代わりに、テイルが話し始めてくれるようだ。

「うん」

「……はぁ。しょうがないので今説明しますね。僕達の所属している『星原』は、ある組織の末端組織なんです。知っていましたか?」

「えっと? 全然知らないけど」

「そうですか……」

一応、ラピスから説明を受けたはずなのだが、すっかり忘れているようだ。

知っているはずのティアラまで首をかしげているのはどうにかしてほしいものである。

「その組織の名は、アーヴェ。そのアーヴェを中心として、星原の他によっつの組織があります」

「中央、月剣、語部、四葉、裁き司なんて仮名称で呼ばれている。ティアラは聞いたことがあるだろう?」

「えーっと、うーん。中央と四葉と裁き司なら」

「月剣と語部の方も知っていて欲しかったのだが……」

興味があること以外、物覚えが悪いと自分で発言していただけあるな。

「とにかく、アーヴェという組織はかなり大きな組織でな、アーヴェと中央が中心となって運営されている。その中心者……この組織を設立した者の名はアーヴェ・ルゥ・シェラン」

「自分の名前を組織の名前にしているなんてっ?! う、うちじゃあ恥ずかしくてできないわ……」

「因みに、その名は真名ではないらしい」

「なんだ、そうなんだー」

ティアラは楽しそうに聞いているが、アルトは先ほどから何も言わない。

「そして、そのアーヴェ・ルゥ・シェラン直属の部下が、ジョーカーと呼ばれる存在なんです」

「へー、知らんかった」

「……む、むぅ」

「ティアラ、なぜ知らずについて来たのだ……」

そして、アルトはどうやら、混乱していたようだ。

そのまま頭を抱えて唸っていた。


「まあ、冗談はよして……本当にあの三番目のジョーカーからの依頼なの?」

どこまでが本気で、冗談だったのか。

ティアラは混乱中のアルトを放っておいて、真剣に聞いてくる。

どうやら、三番目のジョーカーは彼女の好奇心を刺激する存在らしい。いや、ジョーカーという存在そのものを気にしているのかもしれない。

「そうだな。あの三番目からという事で、ラピスも困惑していたが、来た物は仕方ないと一応私たちが来る事になったのだ」

テイルと自分。自慢ではないが星原の中でも腕は立つ方だ。

そして、同年代の中でも星原に来て長い。

だから、二人で来たのだ。が、ティアラとアルトまで来てしまった。

「ね、ちょ、ちょっとまって、さ、三番目のじょーかーって?」

「だ、大丈夫、アルトさん……えっと、三番目のジョーカーっていうのは……その……一番、謎のジョーカーなんですよ」

「謎?」

「そうです」

三番目のジョーかー……三人いるジョーカーの中で、一番の謎だ。

そもそも、存在からしているのか居ないのか解らない、そんな次元の人物なのだ。

アーヴェの創設以来、ジョーカーとして活動している一番目のジョーカー、フィーユ。そして二番目のジョーカー、アス。

彼等とは何度か会ったことがある。が、三番目は違う。

二人のジョーカーですら存在を知らないと聞いたこともあるほどだ。

何十年も前から居るとも、最近死んだとも、逆に最近現れたとも言われている。

男である。違う、女である。人間である。いや、人間では無い。フィーユの様なハーフエルフだとも、アスの様な人形であるとも。

様々な噂と嘘で創られた、仮想の存在とも言われていた。

「っと、そろそろ時間のようですよ」

「ふむ、そうか」

時計を確認したテイルがそう言って勘定をするために席を立った。

「ねね、でさでさ、今回の任務ってなんなの?」

「それが要領を得ぬ物でな……なんでも、『三時にとても面白い劇が始まるので、ぜひ見に来てください』との手紙が来たのだ」

「アイリ……それ、任務って言えるの? そもそも、それ、本当に三番目のジョーカーからの手紙なの?」

「知らん。私に聞くな。……ラピスが言うには、ジョーカーからの手紙だという印がしっかりついていたらしいがな。それに、上に問い合わせたところ、確かにそうだという言葉も貰ったらしい。私たちが口出しする事は出来ない」

そろそろ三時になる頃だ。

席を立つと、ちょうど勘定の終わったテイルがやって来る。

「では行くか。その劇とやらを見に」

「そうですね。と、言う訳で、ティアラもアルトさんも、一人で帰れますよね? きちんと事情は話しましたから、帰ってください?」

「えー、しょうがないなー。じゃ、帰るか、アルト!」

「え、うん! でもいいの?」

「いいのいいの。はい、シュッパーツ!」

若干の心配が残るものの、二人は走って去っていく。

……どうしてだろう、とても不安だ。

「あの二人、しっかり戻って来そうな気がするのだが」

「……僕もそう思います」

あのティアラがさくっと帰った。……ぜったい戻って来るつもりだと確信しつつ、しょうがないとため息をついて、目的の場所に行く事にする。

何をしてもついて来るのなら、何もせずに無視するのが一番である。

何事も起らなければいいが。

柄にもないことを考えながら、足を動かした。

辿り着いたのは町の中心。広場のある開かれた場所である。

「さて、なにが起こるのか」

「でも、ティアラもアルトさんも来てる様子は無いですね……」

「そうだな」

後ろに居る気配はない。

周囲に居るのかと式を飛ばしてみても、どうやら近くに居ないらしい。

まさか、本当に帰ったのだろうか。

いや、あのティアラに限ってそれはありえないだろう。

テイルも不思議そうにあたりを見ている。

これから起こることにも気になるが、ティアラ達の事も気になる。

あとでラピスにしっかり叱ってもらわなければなるまい。

まったく、こまった奴らだ。

ふと、鐘が鳴った。

三時を告げる、大時計の音。

それが鳴り終わり――。

「ふむ、これは……どういう事なのだろうな」






その頃、ティアラとアルトは無論、簡単に帰ることなどなく。

「ねぇ、どうどう?」

「えっと、二人とも町の真ん中あたりの所に居るよ。えっとね、なんか探しているみたい」

「ふーん。やっぱりアルトを連れて来て正解だったわ」

「?」

テイルとアイリから離れた場所、町の片隅で二人は歩いていた。

アルトは風を放って二人の様子を観察している。

「風術師って、器用貧乏だけどこう言う時に役立つんだよねー」

「そうなの?」

「そうそう」

ティアラがアルトと来た半分ぐらいの理由は、アルトが風術師だったりする。

属性によって得意なことが変わるが、風は様々な事が出来る。その中でも、人探しや索敵が得意だった。

同時に、風と言う物は一番操りやすく、極めにくい魔法だと言われている。

自然界に常に存在するため、誰でも扱える。が、見えない。形を持たないために完全に操ることは難しい。

その速さは群を抜くが、攻撃力はあまりない。

防御としても使えるが、そこまでの威力を期待する事は出来ない。

どんな事も出来るがどんな事も極めにくい。

ティアラ乃言うとおり、器用貧乏と言えるだろう。

「さてと、そろそろかなー」

「そうだね、そろそろ三時……」

アルトが顔を上げると、ちょうど鐘が鳴った。

飛んで行った鳥が頭上を横切る。

「あ……」

「どうしたー?」

「なにか、くる――」

突風が吹いた。

アルトたちの間を吹き抜け、何処かへと消えて行く。

「アルト、先帰ってて!」

「え?」

「じゃ!」

その風のような早さで、ティアラは走っていった。

向かうのは町の中心。テイルとアイリが居るはずの場所だ。

残されたアルトはぽかんとティアラが消えた道を見ていたが、後ろを振り返る。

「……来たのはこっちなのに」

アルトが気づいたのはすぐ近くにあらわれた青年だった。

彼は、なぜか目元を隠す仮面をつけている。

「あ、ばれました?」

朗らかに、明るく。何とも無邪気に聞いて来る。

「いやぁ、まさかまさかでこんな大物がやってくるとは思っていませんでしたよ、音川さん?」

「えっと、わたしのこと……じゃなくて、音川の事を知ってるの?」

「えぇ、有名ですからねぇ」

アルトは考える。

先ほどからの会話を聞く限り、彼はどうやらここに来るように仕向けた張本人らしい。もしくは、来ることを知っていた人物。

アルトが知る限り、三番目のジョーカー。

そういえば、三番目のジョーカーの見分け方とか知らないなーなんて悠長に考えていた。

そして、なぜ自分が音川アルトだと知っているのか。

「ねぇ、貴方は誰?」

「私ですか? 私は三番目のジョーカーですよ?」

「ほんと? じゃあさ、なんで仮面とか付けてるの?」

「個性ですかねぇ」

「個性……」

仮面が個性……。

首をかしげながら不審人物を観察する。

本当に三番目のジョーカーなのか。しかし、アルトはその答えを知る術を持っていない。

すぐにそれを諦めて、もう一つ聞きたかった事を聞く。

「じゃあ、私の敵?」

「はて、なぜですか?」

「だって……わたしのこと殺そうとしているでしょ?」

「ははは、まさか。貴方を殺す訳が無いでしょう。だいたい、あの魔女を敵に回すほど私は強くないですからねぇ」

「でも、敵意を持っている」

「……へぇ」

彼はニコリと微笑む。

仮面の奥で、その目だけが笑っていなかった。

「そういうのには敏感なんですねぇ」

「……」

三番目のジョーカーとやらはアルトに敵意を持っている。しかし、それがなぜなのか、アルトは首をかしげながら一歩下がる。

距離をとる。

アルトのような術者に接近戦は苦手なのだ。そもそも、戦うつもりもない。

逃げるために距離をとる。

「逃げるのですか? うん、良い判断だ。でも、そっちは行かない方がいいですよ。そろそろ始まっている頃ですし」

「始まってる……?」

「えぇ、ちょっとした狩りが」

「……狩り?」

アルトが逃げようとしていた方向、そこにはティアラやアイリ、テイルがいるはずの場所だ。

「大丈夫ですよ。彼等は殺しません」

にこりと、三番目のジョーカーは微笑んだ。

あやすような声色。

それに、アルトは口を開きかけ。

「もし殺そうとしたところで、意味は無いがな」

そこに、第三者は現れた。


まっしろな、何も描かれていない無表情の仮面。

それをつけた、誰か。

男女、どちらなのか解らない。顔が見えないため、年齢すら解らない。

ただ、燃えるような赤い髪の誰か。


「三番目のジョーカーとやら、私とお手合わせを願おうか?」


そういって、彼の者は持っていた剣を抜いた。






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