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騙る世界のフィリアリア  作者: 絢無晴蘿
第一章 -日常-
23/154

01-04-03 陰陽師、占者と帰還してサイカイをさせる事



あの日あの時あの場所で

もしも貴方自らに言われたのなら

納得する事が出来たのでしょうか


あの日あの時あの場所で

彼を止められたのなら

共に行く事を選択できたのなら

彼の結末を知ることが出来たのでしょうか


けれど、それは『もし』の事

決して『今』の事では無く

変えられぬ過去の事

だから私は探すのです





正直に言おうとおもう。

私は、本当にサイの探している人物が彼なのか今現在、自分に自信が持てなくなっている。

サイの見せてくれた写真。あれは確かに知っている人なんだけども、サイの話を聞いている内にどんどん不安になって来る。

「我が主は、とても優しいのです。こんな私にも対等に接してくれて。いつだって気にかけてくださって。でも、少し恥ずかしがりやで、すっごく負けず嫌いなんですっ。出来ないこととかがあると、真夜中に一人で練習しているのですよ。恥ずかしいから誰にも言わないで。実は陰で努力しているのに、それをまったく見せないでいるのです。ばれたら真っ赤になって否定して。そこが可愛いんですけど……って、ダメですよ、今の事は秘密ですからね!」

間の息継ぎをしているのかわからないほどの速度で繰り出される言葉の数々。

他にも、笑顔が可愛いとか、寝顔が可愛いとか、実は熟女が好きとか、なんかすごい言葉が聞こえる。

「……う、うん」

「お、う」

こんなに思われているのか。と思うと同時に、本当に彼なのかわからなくなって来る。

「なぁ、イヅル。俺、自身無くなって来たんだけど」

「うちもさ。笑顔とか真っ赤になる所とか、ぜんぜん思い浮かばない」

「だよなー」

如何に主が素晴らしいのかを力説するサイの後ろで、小声で相談。

なんていうか、ほんと、うん。思い浮かばない。

てか、熟女好きって……本当なの?

本当だとしたら、うちは熟女じゃないから……いやいやいや、なに考えてるんだ自分。落ちつけ、うち。そうだ、日野出流はいつだって冷静なんだ。うん。

「あとさ、カリス。良かったの?」

何かよく解らなくなっている思考回路を止めるため、違う話をカリスにふる。

「なにが」

「良く解らないけど、たぶん人間じゃない子を皇の館に招いて」

「まぁ、良かったんじゃないか? たぶん」

そう言うカリスというと、きっちりとサイを見張っている。

そう言う私も、サイの服を掴んでいる。

ちょっぴり不安になりながら。

「そうですよ。正体不明のヒトを自らの隠れ家に連れていくなんて、組織の人は組織の人らしくしっかりと上層部に是非を問わなければ。それに、もしも私がこの皇の館を襲撃するために来た存在だとしたらどうするんですか? たやすく中に入れてしまうなんて、自らの首を絞めることになりますよ」

至極まっとうなことを言っているけど、自分で自分の首を絞めるようなことを言わなくてもいいのに。

「まー、いいんじゃね? どうせ、ラピスにはあとから言っても大丈夫」

「いやいやいや」

「それに、ここにいる輩はあんたが思ってるよりもずっと強いぜ?」

そうなのかなぁ?

カリスの言葉に首をかしげながらも、場所を移動する。

行くのは地下。

彼がいるなら、たぶんそこだからだ。

なんだかんだ言いながら、まあラピスさんに言わなくても大丈夫だろうと思っている自分がいるのもたしかだったりする。

「ともかく、サイさんこっち」

誰かに見つかる前に、とりあえず地下室へ。

扉を開けた先に、やっぱり彼はいた。

本に埋もれて。


「マコト君」


熟女好きなのか今すぐにでも聞きたい。って、違う違う。今はサイさんのほうだ。

こちらを無表情に見た彼は、サイを見て――別に何も変わらなかった。

と言っても、それは彼だけで。

「ある、じ……」

マコトを見た瞬間から、もう視界にうちらなんて入ってない。

一歩、一歩。まるで、近づいたら消えちゃうんじゃないかと不安がっているかのように、ゆっくりと近づく。

本当に、嬉しそうな顔をして、泣きだしそうな、いやもう涙を溢れさせて、サイは言った。

「なんで……なんで私を一人置き去りにしたのですかっ? なぜ、星原にっ。どうして何も言わずに。主を追って行ったはずの灰かぶり様は? いえ、それよりも、それよりも、そんな……ことよりも……御無事で、生きていて、よかっ、た」

やっぱり、マコトだったんだ。

あの写真は、いまよりもちょっと小さかったけど、マコトにそっくりだったから。

でも生きていてって? 無事って……マコトは、一体なにをしてたの?

そんな疑問は、次の言葉で表に出る事は無かった。

「なぜここに居る。契約は破棄されたはずだ。それと同時に、こちらの事は一切不干渉だと告げられたはずだが」

サイの言葉が聞こえなかったように、淡々とマコトは言う。

「おい、マコトっ。ちっとは話を――」

「何も知らないお前が、口をはさむな」

その言葉は、間髪いれず。

マコト君がいつもと同じで無表情なのに、怖かった。カリスも、なにかを感じたのだろう。

胡乱げにマコトを見て、サイを見て、どうすればいいのか分からない様子だ。

それを傍で聞いていたサイは、笑っている。

嬉しそうに。

「まったく、お変わりないのですね……解りました。申し訳ありませんでした、主」

からりと笑って、くるりと踵を返して外へ。

「え、ちょっと……」

なんで、そんなに明るく言えるの?

なんで、そんなに簡単に帰ろうとするの?


探してたんじゃなかったの?


慌ててサイの後を追う。

カリスがマコトに何か言ってるけど、今はサイの方が気になる。

図書室から出て、扉の向こうで、サイは笑い泣きしていた。

「サイさん……なんで、なんでなんにも言わないんですかっ」

もっと、言葉を交わしたかったはずなのに。

もっと、一緒に居たかったはずなのに。

なんでそんなに簡単に引き下がるのか、判らなかった。

「私は、主が生きていただけで、それがわかっただけで、十分ですから」

「でもっ」

「それに、私は、ただの剣です。ただ、使われるモノ。使われなければ錆びるだけです。主は私を否定した。使い手に否定されたのなら、ただ他の使い手の元へと向かうだけです」

「剣?」

「えぇ。私はもともと剣でしたから。物が幾歳の年月をかけて霊となった存在。それが私ですから」

物が、霊に?

そんなの、聞いたことが無い。

いや、つくもがみなら聞いたことがあるけど、ほんとうにサイがつくもがみなのかわからない。

それにしても、マコトは一体何をやってサイの前から姿を消したんだろう。

「主とようやく会えた。本人から要らないと言われた。それだけで、十分なんです」

その独白は、まるで自分に言い聞かせるようで。

笑みで悲しみを包み隠そうとしていた。

「これ以上の幸せを望むなんて、おこがましいにもほどがあります」


それでいいの?


「私は人に有らず。ただの道具で在り、誰かの力で在り、盾と有る為に存在する……のです」

「道具って……そんな……誰に言われたのっ。そんなの、間違ってるに決まって――」

「いいえ、間違っていません。私は道具なのです。剣であるという本質は変わらない。人を切る為に作られた存在なのです。……イヅル様。私は……契約違反をしました。本来なら、主と……いえ、マコト様を探す事は禁止されていました。それに、マコト様はもう何年も前から主ではありません。……どうせ、こうなる事は最初からわかっていました」

サイさんが簡単にあきらめてしまったのは……もともとこうなることが解っていたから?

「別れる為にだけに……会いに来たの」

「えぇ」

「そんなの……」

辛いだけなのに。

なら、最初から探さなければよかったのに。

会わなければよかったのに。

なんで……。

「辛くないの?」

「……」

サイさんは答えない。応えない。

そして、寂しそうに笑った。


「……とても、嬉しいです」


「なんでっ――」

「だって、生きているのか死んでいるのかなんで私を置いていったのかあのまま、何も分からないまま、きっと主が生きていたとしても死んでしまうほどの年月を過ごした後、絶対に後悔するって解っているのに行動しなかったら、探さなかったら……私はもっと辛かった。でも、見つけた。会えた。また話す事が出来た。だから、嬉しいのです。たとえ、もう二度と会えなくても」

それは、私には判らない言葉。

まるで、異国の言語を話されているような。

当たり前だ。

彼女は人間では無い。

人の尺度でしか物事を計れないうちには、到底理解できない。

自分が道具であるとか、探し人が死んだ後も生き続ける苦しみを、知らない。


「でも」


ぽろりと、言葉が落ちる。


「でも、やっぱり、寂しいですね。馴れているのに、辛いです」






霧原陸夜は何時まで経っても表れない弟の事を探していた。

今日は早く終わるはずだったから、ともに帰宅する予定だったのだが何時まで経ってもマコトはこない。

本の虫な彼の事だから、何時の物様に本を読みふけっているのかと図書室に行ってみたものの、いなかった。周りに聞いても知らぬ様子。

少し不機嫌になりながらも、陸夜は皇の館の中を探していた。

「あれ? 陸夜さん?」

「あ、カリス。丁度いい所に……っと、そこのお嬢さんは?」

読書やら料理やら、趣味に関わらない時、マコトは大抵カリスかテイル達と居る。

カリスならばマコトの所在を知っているかもしれないとちょっと明るくなりながら陸夜は声をかけた。

ただ、カリスの後ろには出流とみしらぬ少女……というより、精霊に近いかもしれない。そんな少女に目を向ける。

「あ……その、まぁいろいろあって。ラピスのとこ行く所なんっすよ」

「ラピスか……今日はいつもどおり自分の部屋にかんづめだった気がする。それで、マコトの事知らないか?」

「……えっと」

マコトの言葉に、三人そろって何とも言えない反応を示した。

少女は顔を伏せ、出流は困ったように首を傾げ、カリスは若干怒っている。

「またなんかやらかしたのか」

「いや、そう言う訳じゃ、内には無いんですけど……」

「すまないな」

「そんなっ、陸夜さんが謝ることじゃないっていうか。……あの、たぶんマコトなら帰ったと思いますよ」

「なん、だと?!」

これまで待っていた時間は一体。

愕然とする陸夜に、カリスは出流に助けを求めるように視線を向ける。

「えっと、陸夜さん。うちら、ちょっと急ぐので」

「……お、おう」

呆然としていた陸夜から、逃げるように三人は去って行った。いや、一人残っている。

「陸夜」

カリスだった。

「どうした?」

「その……マコトのやつ、ちょっとおかしかったから、今日はそっとしておいた方が良いかもしれねぇ」

「そうか。ありがとな」

おかしい、か。

カリスが去った後。陸夜はぽつりと言った。

「あいつは、なんにも言っちゃくれないからな……」





霧原陸夜はマコトの兄である。

ただし、血の繋がらない義兄弟(にせもの)だったが。



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