02-13-03 神と嘯き騙る者
「……これは、師匠の」
三番目の言葉が響いた時、カリスは突然発動した魔術に心底驚いていた。
幾つもの魔術が複雑にくみたてられた複合術だが、大抵は同じ系統の魔術を扱うものだと言うのに、他の系統の魔術を幾つも組みこんでいる。だというのに、破綻無く調整のとれた美しい魔術陣を描いている。
その中に、カリスの知っている物も混じっていた。
神霊を召喚した時に、依り代を守護するための陰陽術。以前、三番目のジョーカーに依頼されて作った札やまじないのうちの一つだ。それの作成にカリスも手伝いをしていた。
あの時はなんでこんなものを使うのかと解らなかったが、まさかこの局面で使われるとは思っていなかった。
しかし、それ以上にこの複合魔術が一体なんの魔術なのか予想をして困惑していた。
これは、まさか三番目は、こうなると知っていたのではないかと。そうでもなければ、説明ができない。
この、魔術は……。
「シェランさんっ!」
胸の傷を抑え、少しでも出血を抑えようとしながら、出流は治癒術をかけ続けていた。
胸に穴をあけられたシェランは呼びかけに瞼を震わせ、ゆっくり開いた。
「……だい、じょうぶ。これくらいじゃ、しなない、わ」
それでも、その声はか細く今にも消えてしまいそうだった。血も止まらない。これほど大きな傷を出流の慣れない治癒術では治しきれない。
「それより、まものと、スフィラ、は……」
魔物達は、あれから動きを止めていた。
そして、スフィラは三番目の魔術に囚われた。
出流はこれで終わったと思った。
「ああ、アぁああああアああぁぁぁっ!!」
不気味な声が響く。白い魔力の泥からつき破る様に影の様なモノが飛びだした。
影というには質量があり、立体で人の形をしている。
それは、一直線に倒れた三番目の元へと向かおうとする。が、その体中に金の鎖が巻きついていく。
鎖が、地面にソレを叩きつけた。
「キサ、マ。キサマアあアァッ! ナニヲ、ナニヲシタっ!!」
不気味な声がまた響いた。
何人もの女と男と、老若男女様々なヒトの声が重なり響くその声は、その黒い影からだ。
黒い影は伸び縮みをし、そして形を変えていく。まるで女の形に。
それが黒の女神の姿だと、最初出流やティアラは気付かなかった。
依り代とした器から引き離されたその姿は、あまりにも異様すぎた。亡霊のように曖昧で、しかし神気を纏い、反面瘴気を撒き散らす……女神と言うには、あまりにもかけ離れていて、まるで化物だ。
出流とアルトは黒の女神スフィラの姿を見た事がある。だから、その異様な姿に驚きを隠せなかった。
「違ウ、ダッテ、ルゥイは。私を、裏切ッたり、シナイッ」
半狂乱で叫ぶ黒の女神がむくりと立ちあがる。そして、金の鎖を無理やり引きちぎりながら三番目の元へ行こうとする。
それに対して、三番目は動かなかった。
まるでそこに足が縫いとめられたように、彼女は、動かない。
「なんで、貴方が……三番目なんだ」
ぼそりと、ようやくその事実に気付いたフィーユが言った。
その目は、三番目に向けられていた。
三番目は、いつだって白い仮面をかぶり、決して素顔を見せなかった。分かるのは、フィーユよりも少し背が高く、赤毛であることぐらいで、一体何者なのか、かたくなに明かす事は無かった。だから、フィーユはその仮面の下を見るのは初めてだ。
白い仮面を失い、あらわになった素顔を見て、フィーユはありえないと首を振る。
本当に、ありえないのだ。だとしたら、フィーユが今まで見てきたのは何だったのか。
「フェルナンド……本物の三番目は、一体どこに居るんだ」
そう、そこにいたのは、三番目と契約した精霊と似て異なる存在、フェルナンド……先ほどまでの赤毛が嘘のように金髪に変わっていた。
なにかの術だかで髪色をごまかしていたのだろう。
彼女は、三番目ではない。三番目だったとしたら、フェルナンドと共にいたあの仮面の者は一体誰だったと言うのか。
「だから、彼女を待てと言ったというのに……」
フェルナンドは、フィーユの問いに応えない。
ただ、厳しい視線を黒の女神に送り、いくつか短刀を投擲する。
だが、焦ったのか黒の女神にかすることなく離れた場所へ飛んで行ってしまった。
金の鎖が、ひび割れて全て効力を失っていく。
暗い笑みを浮かべ、フェルナンドの元へと駆けた。
腕らしきものが大きく膨らみ、巨大な剣の様に変化していく。
それを、無造作にフェルナンドに振り上げた。
瘴気を撒き散らしながら、フェルナンドに凶刃は迫る。
大ぶりな攻撃で、避けようと思えば避けられるはずのソレを、フェルナンドはそれでもそこから動かない。それどころか、嗤った。どこか苦々しそうに。
「逃げて!!」
フィーユが避けないフェルナンドを庇おうと走るが間にあわない。
「すまない、こんなことしか出来なくて」
そう、誰かに謝罪して、フェルナンドは目を瞑った。
「十分だ」
黒の女神を中心に暴風が巻き起こった。
フェルナンドから弾き飛ばされ、彼女は地面に叩きつけられる。
呻き声をあげる彼女に、不可思議な色彩の刃の短刀が向けられた。
対するフェルナンドは無傷で、フェルナンドを庇い、黒の女神を吹き飛ばした『彼』を見て笑った。
そして、懐から小さなバックを出すと彼に投げる。
「我が同朋よ、どうやら無事の様だな」
「当たり前だ」
「すまないが、まだ、あれが完成していない。五分でいい、時間稼ぎを」
「了解」
いつものように、彼の言葉数は少なくて声も大きくない。だが、誰もが静まり返ったその場ではその声はよく響き、みなに聞こえていた。
「アあああぁっ!! ナンデ、なんデっ。ナんでっ!! ワタシを、拒んだノ」
喚き声と共に瘴気が吹きだし、魔物達がまた動きはじめる。その動きは、先ほどよりも機敏で、より凶暴に、まるで狂って行く黒の女神と同調しているかのように暴れ回り始めていた。
その黒の女神は、完全に人の形になっていた。少しずつ、人間らしい色味になりつつある様は、気持ちが悪い。
彼女は、すがるように手を伸ばす。
「ネェ、るぅ、い」
「……誰が、ルゥイだ」
ぴしゃりと冷たい声が響く。
「僕は、お前の操り人形じゃない」
そこには、紫の悪魔――霧原マコトがいた。
「ま、こ……と?」
最初に声を出したのは、出流だった。
「どうして……?」
分からない。まったく、なにが起こっているのか解らない。
マコトが黒の女神の依り代となり、女神をこの世界に降ろした事は分かった。その過程はどうしたのかなんてまったく分からないが、とにかく結果だけは理解した。
だが、次は?
三番目のあの魔術は? 黒の女神のあの変貌はいったいなに? そもそも、三番目だと思っていたのがフェルナンドだったということは、本物の三番目は?
どうして、マコトがフェルナンドを庇った?
「簡単な話だ」
フェルナンドが、言う。
「そもそもマコトは……星原にもセレスティンにも、どちらにも属してはいない」
近くに転がっていた白い仮面を、マコトは手を伸ばす。攻撃が直撃してしまったせいでひび割れて壊れてしまったソレを、彼は拾い上げるとため息をついて放り投げる。もう機能しない仮面に、用は無いとばかりに。
「彼はただの、復讐者だ」
先ほどフェルナンドがあらぬ方向に投げた短刀の一つ、自らの得物であったヒトギを黒の女神に向ける。
「ようやく、お前と会えた……ようやく、だ」
彼は、笑っていた。
これ以上ないほど、満面の笑みで。狂気すらうかがわせる笑みで。
ほとんどの者が、そんな笑うマコトを見る事が初めてで、顔をこわばらせる。
「なんで、わたしの、おにんぎょうでしょ?」
ああ、今日も意味がわからない事を呟いている。そう、マコトは笑う。
いつだって、そうだ。
いつも、いつも、初めて遭った時から、今日まで。
黒の女神は、いや、黒の女神と呼ばれる存在は、絶対にマコトを見ない。
マコトを通して、遠い日の誰かの姿を見ている。
自分にとってとっても大切で、誰かも黒の女神の事を大切だと思っている。そんな空想から、彼女は現実に戻ってこようとしない。
そのくせして、いつだって大切な物を奪って行く。
裏切る筈が無いと思っていた人形が裏切ったと言う事実に動揺する彼女に、幾つもの札を放つ。フェルナンドから渡された中に入っていたものだ。それは、幾つもの縄となると黒の女神の体を拘束する。抜け出そうともがく黒の女神に、やはりフェルナンドから受け取っていた短刀ヒトギを向けた。
「『お前を、殺す』」
言の葉に力を込めて、彼は言った。
襲いかかってくる魔物達に、カリス達は防戦を強いられていた。
出流と重症のシェランは回収して後ろに下がらせ、固まって戦っているが、あまりにも魔物が多い。そして、先ほどより凶暴になっている。倒しても倒しても湧いて出て来る上に、離れた場所ではフェルナンドとマコト、そして黒の女神が戦っている。
マコト達は、こちらの味方なのか。判断できず、そして黒の女神が何をするか分からず、常時その戦いの行方を見ながら戦い続けている。神経を使い続けて、疲労も激しい。
マコトは、驚く事に黒の女神と対等に戦っていた。
おそらく、三番目に扮していたフェルナンドが、押収した物品を保管していた部屋から持ちだしたのであろう、短刀ヒトギで黒の女神の魔法を完封しながら追い詰める。
カーリーは、三番目とファントムとこの前本部の廊下で会った時、あの時あの短刀を持ち出すために三番目はあそこにいたのだろうと苦々しく見ていた。
一体、いつから三番目とフェルナンドはなり変わっていたのか。
もう、答えは半分ほど解ってしまっていたが、三番目はいったい誰だったのか。
それを戦いながらも考え続ける。
横から魔物の爪がカーリーを引き裂こうと襲いかかる。それを捌こうとして、一歩横にずれようと――なにかが足にあたり、視線が思わず地面に行った。
「カーリーさん、よそ見は駄目ですよ」
魔物の断末魔と、黒い血が辺りを汚す。
「……助かった」
そう言いつつも、この事態を事前に察知していたであろうファントムを睨みつけた。
「それで、いったいこれはどういう事なんだ」
「すぐ、分かると思いますよ。さすがに、私も全部知っている訳ではないので説明できませんよ」
「っち、使えない」
「えー! それでも私結構いろいろ裏工作してこちらの動きやすいようにと下準備して来たんですよ!」
「はいはい」
「酷い……貴女に言われたから結構がんばってみたのに……」
適当に返事をしながら、カーリーは辺りを見る。
ほとんどの者達は善戦している。が、疲労の色が見え隠れしている。
このままではまずいだろう。
それは、カリス達も感じていることだ。
疲労もあるし、なによりカリスやテイルはそろそろ魔力切れを起こしてしまうだろう。
カリスはこの戦いが長引く事を恐れて、十二神将が消されてから再召喚していない。仮にも神の召喚、かなりの力を使うからだ。アイリも、いざという時の為に結界をなるべく創らず魔力を温存している。だが、その中でアルトだけは疲れた様子を見せながらも風を放ち続けていた。
放たれた風はかまいたちとなり、魔物を引き裂く。足を奪い、目を潰し、動けなくする。
「アルト! 魔力の温存を……」
「え?」
カリスに言われ、アルトは肩で息をしながら首を傾げた。
魔物達から視線を離さず、答えた。
「私、これくらいならだいじょう……ぶ」
「お、おいっ」
ふらついたアルトを、すぐそばにいたテイルが支える。
「大丈夫ですか?!」
「う、ん。大丈夫、だよ」
そうは言うが、かなり消耗している。
一度、後ろに下がらせて、休ませなければ。テイルはカリスに視線を合わせてアルトの様子に首を振る。
「アルト、少し休んで――」
休憩させようと、テイルが言った時だった。
「結界を張れ!!」
遠くから声が響く。
その声の主に反応出来たのは、ファントムとアイリ、そして、カリスだけだった。
何も言わず、ファントムとアイリは慌てて周囲にいた者達を守るために結界を作りあげた。
そして、カリスは少しだけ遅れて。
『マコトが裏切る筈が無い』
そう言ったのは、アイリだ。
その言葉を聞いて、アイリの問いかけに応え、そして、カリスは言った。
本当に彼が裏切ったのか、少しだけ疑おうと。ほんの些細の事。されど、その時の明暗を確かに分けた。
カリスの結界が創り上げられたのは、魔物達がびくりと立ち止まり震えるのと同時だった。
なにごとかと思う暇もなく、世界が暗転して暗闇が辺りを支配した。そこかしこから不気味な黒い手が現れて、生きている者を探して、細い手の見た目に似あわない力で闇に引きずり込もうとする。
結界を張る事も察知して逃げることも出来なかったカーリーが真っ先に狙われた。
「なっ」
カーリーの両足に絡みついた手が分裂し、両手を縛りあげた。思わず剣を落したカーリーは、振りほどけずに黒い手に引かれるまま引き摺られていく。
瘴気が大量に漂う場所まで引き摺られると、強烈な不快感に襲われた。
瘴気の中息を吸うだけで喉がひりひりと痛み、体力が削られていくが、それだけではない。
なにかが、なにかが肌の下へ胸の奥底へ、侵入してくる。思考が曖昧になり、今何をしていたのかすらわからなくなる。そう、までる何者かの意思がカーリーを支配するかのように自由を奪って行く。
黒の女神に、体を奪われかけている。そう気付いた時には、指一本動かす事が出来なくなっていた。
「カーリーさんっ!!」
カリスとファントムがカーリーを助け出そうと其処へ向かおうとするが、魔物達が逝く手を阻む。
「ようやく表に引っ張り出せたのだ、また引きこもりなんぞさせるものか!!」
そう叫んだのは、三番目のジョーカーになり変わっていたフェルナンドだった。
先ほどまで梃子でも動かないとばかりだったのが嘘のように、一昔前のドレスをはためかせながら彼女は囚われたカーリーの元へと走る。
「いい加減、嘘を弄するのは終わりだ!!」
片手剣で黒い手を斬り払うと、カーリーを抱きかかえてフェルナンドは身を守る様に結界を張った。瘴気が結界に弾かれて消滅して行く。
それと同時に、カーリーの体から黒の女神が吹き飛ばされて地面に転がった。
カーリーを器にしようとしていた彼女は、忌々しげにフェルナンドを睨みつけた。
「裁かれよ、偽物の女神」
「にせ、もの……?」
フェルナンドの言葉に、カーリーは咳き込みながら問う。
意識がはっきりしない。体も自由に動かせない。夢かうつつか分からないような状態で、カーリーは立ちあがろうとして失敗する。
「……そうだ。偽物だ。この黒の女神は…………マコト、終わりにしよう」
先ほどまで黒の女神と戦っていたマコトが居ない事に誰も気付いてはいなかった。
フェルナンドの言葉で、そう言えばと思いだす。
黒の女神のすぐ後ろに、黒い扉が現れる。
先ほどまでなかったと言うのに、何も無い空間にぽつりと。
アーヴェの人々が移動手段として使っているカテンとテアニンの『扉』の様に。
「そういう、こと……!!」
ようやく頭が回りだしたカーリーは、その扉を見てようやく確信した。同時に、フィーユも痛ましげな顔をしながらようやく気付く。
扉が、開かれる。
暗い空間に、先ほどまで持っていなかった白い剣を持った、マコトがいた。彼女が動く前に――斬る。
血は飛び散らなかった。真っ黒な体が引き裂かれるが、間髪で彼女は逃げていた。
斬れはしたが、致命傷ではない。すぐにマコトは追撃をする。
人間で言う右胸だろう辺りを、斬った。
「……どう、して」
不気味な声が、マコトに問いかける。
斬られた場所から、体が崩れていた。
神気が、削られていく。
「神殺しの概念を持つ剣だ。さぞ、辛かろう」
フェルナンドが自慢げに黒の女神に言い放つ。
先ほどまで動けずにいたのは、この剣を創りだすためだった。
膨大な神気を必要とするその剣を創りだすのには時間がかかってしまう。だが、長時間その剣をこの世界に留まらせる事ができないために、ここで創るしかなかった。
協力者たちのおかげで早めに創りだす事が出来たが、だがあまり時間は無い。
神殺しの概念をもつ剣は、数分もしないうちに消えてしまうだろう。
だが、その時間だけで十分。それだけあれば、倒しきる事ができる。そう、フェルナンドは確信していた。
マコトが胴を切り裂く。崩れ倒れた女神は、それ以上動かなかった。
「どうして、裏切るノ、ルゥイ」
切なげに、黒の女神は問う。
ぼろぼろと体が崩れていく彼女は、マコトしか見ていない。
そしてマコトも……殺意だけしかない視線を黒の女神に向けていた。
「どうして?」
くすりと、笑う。
くすくすと、狂ったように、マコトは声を出して笑う。
そして。
「『私の可愛いお人形』?ふざけるなよ。僕は、ルゥイじゃないっお前の自己満足の人形じゃないっシェランを殺したくないっ誰も失いたくないっお前の為に死んでやるつもりはないっそもそも、お前がどこの誰で何をしようとしているのかも興味ないっ」
一気に、息継ぎすらせず、今言わなければもう二度と言えないと彼は叫んでいた。
「どうして僕がお前たちの命令を聞いていると思った? どうして……どうして? 無理やり連れて来られて、勝手に運命を決めつけて、実験に巻き込まれて、殺されかけて、友を殺されてっ、それで、こんどはお前たちの敵を殺せ? ふざけるなよ。僕はお前たちの人形でもなければ道具でもないっ。お前たちのいいなりなんてなってやるものかっ。お前たちの仲間になる事なんてありえるはずが……在りえる筈が、無いだろうっ!」
一瞬の、間。
ぼんやりと黒の女神はすぐ目の前にいる少年の瞳を覗き込むように見ていた。その目に、一体誰が映っているのか、マコトには分からない。
「なんで、怒るノ」
これほどまでに怒りを込めた言葉を聞いて、言うのはそんな言葉なのか。
どれ程言の葉を連ねてもきっと彼女には届かないのだろう。
だから、マコトは最期にどうしても許せなかった復讐の理由を、言った。
「お前が、アルトを殺したからだっ!!」
黒の女神の心臓を、真っ白な剣が貫いた。
深く、深く、神を殺しきるために深く。
ぽたぽたと流れ落ちるものがあった。
それは、透明で。
血ではない。
黒い影の様になった彼女は、血を流さない。
それは、涙だった。
黒の女神が、泣いていた。
「ああ、ごめん、ごめんね。そっか……やく、そく……守って、くれるのね……るぅ、い」
嬉しくて仕方ないとばかりに、彼女は微笑んで……消えた。
消滅した。
文字通り、そこにいた痕跡を一つ残さず、消えうせた。一緒に、剣も消えてしまう。
瘴気と魔物だけ残して。
マコトの言葉など、まったく理解せずに。
「お前と、約束なんてした覚えはない」
辛辣に否定するマコトの声だけが、響いていた。




