第2話 レディース「安土会」
「何くっちゃべってんだ?くそガキ!」
「慌てるな。これは民事上の罰。刑事上の罰は、これから受けてもらう」
「は。警察にでも突き出すってのか?無駄だ。この手のいざこざは、やつら面倒くさがって相手にしねえぞ。なんせ俺はまだ17だからな」
「まったく、この国は未成年者に甘すぎるよな。だから、刑執行はこっちでやる」
「おーい。姐さん、もういいかい?おじさん、もう我慢できないんだけど……」
野太い声に、玲央が振り返る。
女王様の仮面を着けた小太りのハゲ親父が、やはり全裸で立っていた。
「紹介しよう。あのお茶目なオジサマは、若い少年に恋心を抱く性的マイノリティーだ」
「……」
「これからオジサマには、おまえが女子中学生三人にやったことをトレースしてもらう。つまり、まずおまえをレイプする」
「……」
「そして、おまえがやったようにその様子を動画撮影する。それから、その動画を闇サイトに流す。『元気のいい若い男の子を抱きたい方、こちらまで』と募集をかけて、な。来週からおまえは大忙しだ。おっと、そうだ。学校に休学届けを出しておかないとな」
秀美が頷き、玲央のスマホを操作して勝手にメールを打つ。
学生証も押さえられているのだ。
「てめえら。こんなふざけた真似して、ただで済むと思うのか?俺のバックには『独眼竜』っていう……」
「大宮の半グレ組織だろ?リーダーは『政宗』を名乗ってるブサメンくんだっけな。おい、権六。政宗をライブ映像に出演させてくれ」
「……」
「ほれ」
スマホ画面を玲央に見せる。
リモートのライブ映像だ。
画面いっぱいに写ったのは、ボコボコにされて原型をとどめてないアイパッチ男の顔。
「ま、政宗さん!」
「姐さん。こいつを含めて、独眼竜の連中は……こんな感じに仕上げときました」
権六と呼ばれた大女が一旦自分の顔を映してから、背後にカメラを向ける。
アジトらしいクラブのホールには、十数人の怪我人が死屍累々と横たわっている。
「おまえのバックとやらは、さっき壊滅した」
「……おめえら、ナニモンだ?」
「令和のレディース『安土会』だ」
「あ、あづちかい?」
「半グレの下っ端ごときが知ってるわけないか。詳しく説明してやってもいいが……」
「姐さん。なあ。もう、いいだろ?」
「……オジサマが泣きそうになってんで、あとにしよう。おい。カメラ回せ」
撮影スタッフがバタバタと動き始めた。
「いった抱き、まーす!」
「おい。やめろ。やめ‥うがあ!」
刑が執行される。
スタジオ中に、絶望の咆哮が響き渡った。
「玉木玲央。暗証番号を言え」
数日後の登校時。
リタは、とある女学園高校の2年生だ
この朝は安土会のメンバー、藤吉秀美と権俵六花と一緒に行く。
「おはよ。なんかリタちゃんと学校に行くの、久しぶり。嬉ピ」
権俵六花が、プロレスラーのような巨体をくねらせる。
秀美が問いかける。
「おはざす。姐さん、なんか眠そうっすね?」
「ああ。いまゲームにハマっててな。知ってる?『信長の渇望~ザ・ヒストリー』」
「すんません。そっち系は疎くて。徹夜したんすね」
「けど、顔色は悪くないだろ?なんせ、五日ぶりに出たからな」
「……」
「それはそれは見事な一本グソでな。しかも『の』の字になってたんだ。感動のあまり、写真撮っちまった。見る?」
「見ません!なんで姐さんは、そーゆー小3レベルの下ネタ好きなんすか?セクシャル系は毛嫌いするくせに」
「私は見たいかも。リタちゃんの『の』の字」
「やめろ!」
話をしてるうちに、黒塗りの高級外車が横につけてきた。
ウィンドウが下がり、いかつい男が声をかける。
「上総、リタ…さんですね」
「……あたしに、何か用?」
「乗ってもらえませんか?うちのオヤジが、リタさんと話をしたがってるんで」
「大宮ら辺の組?」
「察しがいいですね。浦和の稲葉組です」
「ああ。確か足利会系の……組長は確か、細川…高広だっけ?」
「田舎の組織のことまで、よくご存知で。是非とも、ご同行お願いします」
秀美がリタに耳打ちする。
「姐さん。行くつもりっすか?」
「何の話かくらい見当はつく。行かなきゃ、厄介事が増えるだけだ。おまえらはさっさとに学校行け」
六花は忸怩たる思いで、拳を握りしめている。
「権六。特に、おまえは動くな。今は武闘派の出番じゃない」
「……」
「行くよ。甘いモンくらい出るんだろうね?おっちゃん」
「……用意しますよ。お嬢さん」
心配気な仲間を残して、リタは車に乗り込んだ。
(浦和市の稲葉組。足利会系。組長は細川高広)
秀美はその名を頭に刻み込みながら、走り去る車を見送った。
つづく




