貴賓室にて
その様子を見てシバが伝声管に
「カーン! 今からあの艦隊を沈めるぞ!」
と叫んだ。
「おうよ!」
と伝声管からカーンの嬉しそうな声がした。
「カーンの旦那もやる気満々ですねえ」
とダミアンが楽しそうにシバに言った。
「あいつはただ単に大砲をぶっ放したいだけだ!」
とシバは苦笑いを浮かべて言った。
「じゃあ、艇長はそのまま操縦桿を握っておいて下さい。あっしはお客様の様子でも窺いに行って参りましょう」
とダミアンは操縦席に座らずに出て行こうとした。
「そうだな。じゃあ、トニーも連れて行っておけ」
とシバは声を掛けた。
「イエッサー」
とダミアンは笑顔をみせて操縦室を後にした。
艦内に警報のサイレンが鳴り響く。通路の照明が赤色の点滅に変わった。
乗組員の誰もが『これはドラゴン退治ではない』と理解していた。
ダミアンが出ていった後、入れ替わる様にソフィアが操縦室へ入って来た。
「失礼します。何があったんですか?」
「ラシール帝国の襲撃だよ」
とアキトが答えた。
「え? そうなんですか? あれだけアキトさんが航路を考えていたのに……」
とソフィアはアキトを気遣うように言った……が、それはどちらかと言えば裏目に出た。
「そうだ。その通りだ。俺があれだけ考えてこの航路を選んだのに、いとも簡単に見破られてしまった……いや、情報が流れた。この恨みはどうやって晴らすべきか……」
と本当に悔しそうに前方の敵艦隊を睨みながら言った。
――あれ? 私、もしかして今、何か変な地雷踏んだ?――
とソフィアも日頃は冷静沈着なアキトが、猛烈に憤っているのを見て悟った。もしかしなくても地雷原を踏み荒らしていた。
「ありゃ、皇女様も来たか?」
とシバが声を掛けた。
「済みません。『なるべく部屋から出るな』と言われていたんですけど……」
とソフィアは申し訳なさそうに謝った。でもシバの言葉に少し救われた様な気がしていた。
「いや、気にしないで良いよ。この状況では仕方がないだろう。それよりも、ようく見ておいて。これが空戦……そう艦隊戦というものだから」
とシバは前方の敵艦隊に目をやった。
ダミアンは甲板員のトニーを引き連れて、貴賓室のドアをノックして扉を開いた。
「失礼します。前方に多数の艦隊が現れました。空賊を装っていますが、あれはラシール帝国の艦隊と思われます」
とダミアンが冷静に伝えた。
「早速来ましたか……」
とクラーキン子爵は慌てた様子も見せずにソファに腰を下ろしたまま視線を窓に移した。
「逃げ切れるのか?」
とサンダース少佐が聞いた。
「逃げる? この艇に『逃げる』という選択肢は存在しません」
とダミアンはきっぱりと即答した。
「え? この一隻であの艦隊と戦うと言うのか?」
とサンダース少佐は驚いたように聞き返した。
「はい。勿論。戦いになればの話ですが……」
とダミアンは相変わらず冷静に答えた。
「何を呑気な事を言っている! もう敵の艦隊は目の前に迫っているのだろう?」
サンダース少佐は苛ついたように叫んだ。
「迫っていますねぇ……」
とダミアンはいたって平静に言葉を返していた。
「あの艦隊相手に勝てる算段があるというのか?」
「はい。負ける算段よりはあると思いますよ」
とダミアンは涼しい顔で答えた。
あまりにも緊張感のない対応に、二人の軍人は言葉を失った。
その時、遠くからの砲撃の音が貴賓室へ届いた。
「ほほぉ。早速始まりましたね。停船命令も無しですか? せっかちですね」
とダミアンは笑顔を見せた。
通常、謎の武装船が多数現れて、海賊旗がはためき、砲撃という三点セットで、大抵の商船や輸送船は白旗を揚げて停船するか一か八かで逃走を試みる。勿論空賊は事前予告などしない。敢えて言うならこの砲撃がそれに代わる。




