可能性
それにしても一国の王を呼び捨てにする時点で、シバがこの世界でどんな影響力を持つか考えるべきである。しかしシバはそういう事には全く無頓着な男であった。それに関してはアキトもほとんど似た様なものだった。
「本当によく知っていますね?」
とシバが感心したようにカクセール伯爵に聞き返した。
「当たり前だ。お主らの動向を注視していない国などあるものか」
カクセール伯爵の言う通り、飛空艇ミカサの動向はこの世界の国々の関心事であった。特にあの砲火を交えた事件以来シバたちの動向、ひいては飛空艇ミカサの動向も各国注視の的となった。
シバもその事は薄々とは知っていたが、それを全く気に留めていなかった。
「そうなんですか? うちは何もしませんよ。気ままに運び屋家業を生業にしているだけですからね」
とシバは言うとグラスをカクセール伯爵の目の前に突き出した。
「ふむ。いつもの能書きは変わっとらんか……」
と伯爵は呟くとシバの差し出したグラスに酒を注いだ。ついでにアキトもグラスを突き出していたがそれにも同じように注いだ。
「私共はどこの国にも肩入れは致しませんから」
と酒を注がれながらアキトがシバの話を補足するように言葉を繋いだ。
「ふむ。それは相分かった。で、今も皇女は乗艦しておるのか?」
と唐突にカクセール伯爵はソフィアの動向を聞いてきた。
一瞬答えに詰まったが、シバは
「ええ。今日も乗っていますよ」
と正直に答えた。
「ふむ、そうか……ところでモルタリアの皇帝は皇女をどうするつもりなんだ?」
カクセール伯爵は納得したようにうなずいたが、新たに質問を重ねた。
「どうするとは?」
と今度はシバが聞き返した。
「どこかへ嫁がせる予定はないのか? という事だ」
カクセール伯爵の立場としては他国の動向は常に気になるところだ。帝国の皇女の嫁ぎ先は、国家間の力関係に直結する。ソフィアはこの世界ではもう嫁いでもおかしくはない年齢である。他国の重鎮がその動向を気にするのは至極真っ当な話だった。ある意味それはシバたちの動向よりも気になる情報であったかもしれない。
「う~ん。それを俺に聞きますか?」
シバもその質問に対して簡単に答える訳にはいかない事は重々承知していた。この異世界での王族の婚姻情報程、軽々しく口にできない情報は無かった。
「何か知っているのか?」
とカクセール伯爵はあくまでも聞き出そうとしていた。
「何も知りませんよ」
とシバは答えたがカクセール伯爵の表情を見ると、その返事では全く納得していない事はすぐに分かった。
「はぁ……まあ、嫁にやるぐらいだったら、そもそも冒険者なんかさせてませんよねえ……」
根負けしたようにシバは答えた。
「それはそうだ」
「それが答えですよ。俺が語れるのはここまでです」
「うむ……よく分かった……ん? まさか……」
一応納得したように見えたカクセール伯爵だったが、何かに気が付いたようだった。
「まさか……って?」
シバは怪訝な顔をして聞き返した。
「皇女をモルタリアの女帝にする事は……?」
「流石にそれはあり得な……」
とシバは言いかけてハタと思いとどまった。
――流石にフェリーもソフィアの事をチートだとは思っていないだろうが、あの武力、前世の知識から来る知恵。う~ん、あり得なくもないかも……――
と言われてみれば、シバもその可能性が無くもない事に気が付いた。




