バーナードとフレデリック
二人は適当に空いていた席に腰を下ろし食事を注文した。
「さっきの話の続きだけど、父親が居なくて寂しくはなかったの?」
とシバが話を切り出した。
「そうですねえ……その当時はまだ前世の記憶を持っていましたから、そっちの家族ともう会えないんだという感情の方が強かったですね」
とソフィアは昔の記憶を辿るように少し考えてから答えた。
「あ、その気持ちはよく分かる」
とシバもその気持ちは激しく理解できた。シバもアキトも家族に別れも言えずに唐突にこの世界へ飛ばされてきた。転移して来た頃はいつも過去の家族の事を思い出していた。
――まだ俺はアキトと一緒だったから救われたけど、ソフィアは一人だったんだよなぁ……強い子だな――
と心の中でひそかに感心していた。
「父上が宮廷に戻った時、私は、確か五歳ぐらいだったと思います。この歳になってやっと前世の記憶が思い出として処理できるようになったような気がします。だけど、父上に会った時の感覚としては『その時初めて父親と名乗る人に会った』という感じでした」
「それはフェリーの事をまだ赤の他人程度にしか思えなかったという事かな?」
「赤の他人とまでは言いませんけどね。父親としての実感は全くなかったのは事実です。その上、その時父は宮廷に戻されて冒険が出来なくなって打ちひしがれておりましたから……娘の存在なんかどうでも良かったような気がします」
とソフィアは笑った。
「なんちゅう父親だぁ?」
シバは呆れて思わず声を上げた。
「シバさんたちとの冒険は楽しかったみたいですよ。あんなに落胆してる父上を見たのはあれが最初で最後ですから。でも今は自他ともに認める親バカらしいですけどね」
「確かに……それは言えているな」
とシバはうなずいた。
「でも父上が宮殿に戻ってからは、それどころの騒ぎではありませんでしたからね」
とソフィアの表情が少し曇った。
「そうだったなぁ……フェリーは、あの時宮廷に帰るのを本当に嫌がっていたからなぁ……。『俺は皇太子なんかになりたくない!』って喚いていたわ」
とシバは愉快そうに話した。
「そうなんですよね。侍従長が母上に『殿下の説得をお願いします』と懇願していたぐらいですからね」
とソフィアもその当時を思い出して笑いながら話をした。
当時、皇太子候補だった異母兄バーナードがフレデリックが旅に出た後、皇太子候補を辞退し、自ら空白地であった辺境地の領主としてフランクゼレードへと赴任してしまっていた。
前々からその異母兄は自らの母親の出自の低さが、将来の禍根として残る可能性を危惧していた。そして考え抜いた末に彼が出した結論は、自らが皇太子候補から身を引く事だった。
彼らの父親である当時の皇帝オットーもそして弟のフレデリックも、バーナードが次期皇帝になる事に何の問題も感じていなかったが、貴族の間ではいつの間にかバーナード派とフレデリック派と派閥が出来上がっていた。その状況をバーナードはいつも鬱々として眺めていた。
フレデリックの母親である当時皇后のエレノアはオリバイエ公国の前大公の娘であり、今の大公とは兄妹である。血筋と言い、家柄と言い文句のつけようが無い正室である。
それに比べてバーナードの母親は田舎貴族の子爵の娘だった。それは庶民出身でなくて良かったと言われるレベルの生まれであった。




