第一話 選ばれた子の名前は……
「エルバを」
族長―ユク―は名前を呼んだ
しかしこの民族内にエルバ、という人間はいない
「ユク様、エルバという人間は此処には……」
「この間、子供を授かった女がいたろう……あやつを連れてこい」
付き人は威勢良く返事をし、テントを走って出ていく
此処はフルト油国の西の端の砂漠、フルタリア砂漠の真ん中である
周りには砂が広がり、吹く風は砂を運んだ
一年前、此処を目的地としてこの民族はフルト油国の隣国、アルセリア海国を旅だった
そして今日、ここにたどり着いた
一年ぶりにゆっくりとした睡眠をとれる事に、皆喜び、早々と寝てしまった
そんな中、ユクは一人、占いをしていた
「連れてまいりました」
付き人はテントの布扉を巻いて上にあげ、女を通した
その女はこの民族特有のキャラメルに似た茶色く美しい肌を持っていた
しかし一つだけ違うのは眼の色だった
「こんな恰好で失礼いたします、ユク様」
「いや、こんな時間に呼んだ私が悪い」
ユクは水晶をしまい、座り直す
そして付き人に、席をはずせ、と命じ姿が見えなくなったところで口を開いた
「おぬしの腹の子はすでに名前が決まっておった様じゃ」
「といいますと……」
「旅の神が直々に名を下さった」
「そんな……恐れ多い……」
女は涙を浮かべる
この民族―ロガ―は旅の神を信仰していた
その神に名前を付けてもらう事はこの上ない幸せ、とみなされていた
ロガの中でも数えるほどだという
「エルバ、じゃ」
「由来はどのような……」
「旅の神の父の名前だそうだ」
「そんな……まぁ……」
女は眼をぱちぱちとするばかりだった
相当喜び、驚いているのだろう
「話はこれだけだ、すまないな夜遅く」
「いえっ! ありがたい事をお教え下さいましてありがとうございます!」
「そうか、早く生まれるとよいな」
ユクはニコリと笑って付き人を呼んだ
付き人に女を送らせるつもりだった




