第十六話 豆腐と創造主
「そうだ、シドー。敵の正体についても知っているようだったが……。あれはなぜだ?」
アレクシアが尋ねた。さっき、クライナーと戦っていたとき、無事に切り抜けた後に聞くと言っていたのを思い出した。できれば誰にも知られたくなかったけど、こうなった以上話すしかない。
「僕の世界に『魔法少女スターナイツ』という物語があって。敵の組織は『漆黒の闇』、ボスはダークキング、その下にサンダー、ストーム、ブリザードという三人の幹部がいる。そいつらが何かにダークエナジーを注ぐと、クライナーという怪物が生まれる仕組みだ。さっき僕たちを襲ったのは、間違いなくブリザードだよ」
「なるほど。私たちがこれまでずっと戦っていたのは、『クライナー』だったのですね。三幹部が戦闘に出てくることは、少なくともここ数年、ありませんでしたから、ブリザードとは初めて遭遇しました」
ルティナは少し考えてから、続けた。
「ちなみに、その物語の舞台は……?」
「レインボーランドだ。この世界と同じ名前で……ずっと気にはなっていたんだけど、ただの偶然だと思って、みんなには話さなかった。ごめん」
ただの偶然だと思ってというよりは、偶然だと思いたかった。
「『魔法少女スターナイツ』という物語……。シドーさんの無属性魔法も物語の人物召喚でしたし、敵もまた、物語の人物という訳ですか。ちなみに、その『魔法少女スターナイツ』の敵たちは、人々から夢見るドキドキハートを……夢や希望を奪いますか?」
「……ルティナの想像通り、奪うよ。ダークキングの目的がそれだ。人の夢や希望を奪い、世界を絶望と闇で覆う。だから、クライナーを倒したり、三幹部を倒すと、奪われた夢見るドキドキハートを取り返すことにもなって、抜け殻みたいになった人たちは、元の姿に戻れるんだ」
四堂悠太は、さっき倒したクライナーが消えた後に拾った石を、みんなにみせた。
「このキラキラした石が、人の心の中にある夢見るドキドキハートってやつなんだと思う。石化したフェモンの人たちにこの石を触れさせれば、元に戻るはずだ」
みんなは驚いて、代わる代わる石を手に取ったり透かして見たりした。
(正直、自分で言ってて、「夢見るドキドキハートってなんだよ」って突っ込みたくなるけど、『スターナイツ』のネーミングなんだから仕方ない……)
「これが夢見るドキドキハートか……。フェモンの街の人たちを元に戻す方法があって、本当に良かった。フェモンの街以外にも、あの攻撃を受けて、人形みたいになってしまった人たちはたくさんいる。みんな……助かるのだな」
アレクシアが嬉しそうに言った。
「それに、シドーさんの知る物語の通りのことが、この世界で起こっているということは、敵の正体も対処法も分かっているということで、魔王軍には勝ったも同然ですよね。私たちが魔王だと思っている者の正体がダークキングで、その下の幹部が、さっき逃げていったブリザードということですから。私たちでは手も足も出なかったクライナーという怪物も、東雲柚月さんが、瞬殺してくれましたし」
「うむ。ダークエナジーを注いでクライナーを作ったブリザード本人も、慌てて帰っていきおったな……。この先シドーの無属性魔法があれば、敵はあっさりやっつけられそうじゃ! 物語の通り、このレインボーランドも遠からず、平和を取り戻すであろう。……なのに、シドー、なぜそんな浮かない顔なのじゃ?」
リデルは頭の回転は遅いが、動物的な勘は誰よりも鋭い。
みんなに話せなかった理由は二つあった。一つは、自分のいた世界の物語の人物が、この世界に存在するなんて、あまりに荒唐無稽な話だったから。こんな話を急にして、信じてもらえると思えなかった。
そして二つ目は、そんな都合よく、自分の好きな物語がこの世界と繋がっているなんて、おかしいと思ったから。もしかして、異世界に転生したんじゃなく、ずっと大好きな「魔法少女スターナイツ」がファンタジーっぽくなった夢を見ているんじゃないか。そう思ったらどうしても言えなかった。アレクシアもリデルもルティナも僕の夢なんだ、なんて言ったら、絶対ドン引きされる。
「……もう一つ、言えなかった理由があって」
みんなの顔を見られなくて、少し間を置いた。
「僕の好きな物語のキャラが、たまたまこの世界に出てきて、その物語の通りに話が進んでいるなんて、そんなの都合良すぎるから……。もしかして僕は元の世界にいるまま、ただ寝てるだけで、好きな物語の夢を見ているんじゃないかって思って……」
気持ち悪がられるより、アレクシアもリデルもルティナも、夢の中の人だってことの方がつらいかもしれない。この世界に来てまだ三日しか経ってないのに、三人で過ごした時間はとても楽しかった。もしこれが僕の見ている夢なら、目が覚めたら全員消えてしまう。
さみしい気持ちと、みんなの反応を見るのが怖くて、うつむいた。
「それはありませんよ、創造主」
アレクシアたちが返答するよりも早く、東雲柚月が僕の仮説を否定した。
「……どうして分かるんだ?」
「さっき私が斬ったクライナーとかいう怪物、とても斬りごたえがありました。私は創造主の世界で、生き物も生きていないものも、数えきれないほど多く斬ってきましたが、全て豆腐のような斬り心地でした。かの地であれほど硬く、中身の詰まった構造の持ち主には、相まみえたことがありません。ゆえにここは、創造主の作った世界や、夢に見ている世界ではなく、創造主以外の誰かが創世した世界だと私は思います」
(僕の作ったものは全部、中身が詰まってなくて、豆腐みたいだったかぁ……)
悪気なく、自分の作った世界の問題点を指摘された。豆腐みたいだった自覚はある。でもどうしていいか分からなくて、そのまま改善できずに書いていた。
(そりゃあ、何回賞に応募しても、落ちる訳だよなぁ……)
東雲柚月が言った、斬り心地が全部豆腐という例えは、すごい説得力があって、僕の心中にすとんと落ちた。
「それでもまだ気に掛かるようでしたら、もう少し斬ってきましょうか?」
東雲柚月が、何かうずうずしている。
そうだ、彼女の唯一の欠点は、脳筋気味で斬るのが好きすぎることだ。何かあると、二言目には「斬る」と言い出し、何でも斬って解決したがる。このキャラ設定も自分が付けたんだけど。
でも今この世界で、敵でないものまで、無暗に斬られたら困る。それに、自分の創作物が豆腐構造だということはもう十二分に分かったから、これ以上の検証は、心がもたない。
「い、いや、いいよ、ありがとう。東雲柚月さんの見解は、合っていると思うし‼ ……しっかし、僕の作ったものは全部、豆腐みたいにすぱすぱ切れちゃったかぁ! それは斬りごたえがなかったよね? ごめん、あははは……」
この世界が、自分の見ている夢じゃなかったのは嬉しい。もしそうだったら、アレクシアたちに「キモっ」って引かれるとこだったし。でもこれまで魂を込めて作ってきたものが、全て豆腐だったという事実も、それはそれでショックで、もう笑うしかない。
「シドーよ、モノ作りは大変じゃ。ときには、豆腐みたいになることもあろう……」
勘の良いリデルが、励ましてくれた。
(ありがとう……、でも、ときにじゃなくて、全部だったんだ。ぐふっ……)
東雲柚月に斬られたのは、クライナーだけじゃなくて、四堂悠太もだった。
ブクマ登録ありがとうございます。励みになります。




