プロローグ
第一章
プロローグ 召喚魔法
空が、突然暗くなった。
気づけば四堂悠太の口から、言葉が溢れ出していた。
「地の果てにて我が魂を宿し、無限の虚無を操る者が、世界の終焉を告げし時。~永遠の静寂の中で、運命の呪縛に抗い、我が手に宿る禁断の刃を解き放ち、闇に覆われた混沌の未来を斬り裂く~」
以前書いた小説のことを考えていて、ついタイトルを口走ってしまったのだった。
でも次の瞬間——上空にキラキラと光る円陣が現れ、そこから一人の女の子が降り立った。
長い黒髪。少し変わったセーラー服。そして、腰に帯びた大きな日本刀。
四堂悠太には、見覚えがあった。
いや、見覚えどころじゃない。
(東雲柚月……?)
「創造主よ、お初にお目にかかる」
彼女は静かにそう言って、迷いのない動作で日本刀を抜いた。
「積もる話もあるが——まずはアレを何とかした方が良さそうだな」
その視線の先には、禍々しい気配を放つ男が立っていた。魔王軍幹部、ブリザード。さっきまであれほど余裕だったのに、今は明らかに動揺している。
「一ノ太刀、斬釘截鉄!」
柚月が踏み込んだ。光速の一閃。次の瞬間、戦場を支配していた巨大な魔物が、忽然と消えた。
「は⁉ 何でクライナーが負けるんだ?」
ブリザードの声が、初めて裏返った。
「次はお前だ」
柚月の冷たい目が、ブリザードを捉えた。
——その目を見た瞬間、思い出した。
中学二年生のとき、深夜に一人で書いた小説のこと。世界を滅ぼそうとする秘密組織と、日本刀を持つ女子高生の話。恥ずかしくて誰にも見せられなくて、でも夢中になって書いた、あの物語の主人公。
(僕が作ったキャラクターが……本当に、ここにいる)
ブリザードが捨て台詞を吐いて逃げていく声が、どこか遠くに聞こえた。
「すまない、一匹逃がしてしまった」
柚月が振り返って言った。
「……いや」
四堂悠太は、まだ信じられない気持ちのまま、それだけ答えた。
(これが——僕の魔法か)
柚月は剣を鞘に収めながら、ふと足を止めた。
「創造主よ、一つだけ言っておく。私だけではないはずだ。あなたが生み出した者たちは皆、まだこの世界のどこかで、呼ばれるのを待っている。……たとえあなた自身が、彼らのことをもう忘れたつもりでいたとしてもな」
言葉の意味を尋ねる間もなく、柚月の姿は光の中に溶けて消えた。
(……忘れたつもりでいたとしても、って——)
四堂悠太は、まだ信じられない気持ちのまま、その場に立ち尽くしていた。
異世界に転生して、三日目のことだった。




