第314話 手合わせ、告白大会になる
「ん? あれは、航太か。あいつが、こんな力比べみたいなものに参加するなんて珍しいな。」
黒鷲が海中を泳ぎながら言った。
惟成は黒鷲を一瞥すると、港の青年へ声を上げた。
「…………いいだろう! こちらへ来い!!」
航太は役人が漕ぐ小舟に乗せられ、惟成のいる船へ移った。
航太の木刀を握る手が、小さく震えている。
(……この者、戦い慣れしていないな。なぜ手合わせを……?)
惟成が小さく首を傾げた、その時だった。
航太が港の方へ向き、叫んだ。
「さ、紗吉ーーーっ!!!」
惟成の眉がピクリと動く。
「お、俺は紗吉が好きだったーー!! いや、今も、好きだーーーーっ!!!」
「へ?」
紗世は自分を指差し、目を丸くした。
「紗吉は都のお姫様って知ってるけど!! 身分違いも甚だしいけど……好きだーーーっ!!!」
「うおおおおおおお!!!」
「きゃあああああああ!!!」
港にいる全員が湧き上がった。
「源様相手に、すげぇ勇気だーー!!」
「頑張れ、若いのーーー!!!」
「源様に一撃でも入れられたら、お姫様も考えてくれるかもしれんぞーーーっ!?」
大盛り上がりを見せる中、紗世の顔は真っ赤だった。
「……ふぅ……。源様、お願いします!!」
航太は惟成へ向き直った。
「………………ほぉ?」
惟成の口元は笑っている。
だが、目は笑っていなかった。
「よし。航太とやら。かかってこい!」
惟成は木刀を構えた。
「………っやああああああ!!!!」
航太が惟成へ向かって大きく振り被る。
惟成は構えていた木刀を甲板へ投げ捨てた。
そして、がら空きになった航太の襟を掴む。
そのまま海へ向かって、叩きつけるように投げ飛ばした。
ドボーーーッンンン!!!
「ぎゃははははははは!!!」
「源様の投げ方に悪意を感じるーー! 嫉妬かーー!?」
港は爆笑に包まれた。
「もうっ……惟成ぃ……!」
紗世は両手で赤くなった頬を押さえた。
やがて海面に航太が浮かび上がる。
惟成は船上から航太へ笑いかけた。
「武芸の心得も無いのに、向かってくるとは……その心意気と勇気は大したものだ。」
惟成はゆっくりと瞬いた。
「……だが、紗世は俺のものだ。」
冷たい笑顔に、航太は凍りついた。
この航太との一戦を境に、惟成と対峙する前に、皆が大声で何かを告白するようになった。
「みよーーーっ! 好きだーーーっ!」
「ごめんなさーーーいっ!」
惟成の蹴りが挑戦者の腹へ入る。
ドボオオオオン!
「かあちゃーーーんっ! そろそろ浮気したこと、許してくれえええ!!」
「許すもんかーーーっ! まだ飯抜きだよーーー!!!」
惟成が挑戦者を投げ飛ばす。
バシャアアアアン!!!
「かえーーーっ! 俺と夫婦になってくれえええ!!!」
「喜んでーーーーっ!!!」
「え?」
海へ落とそうとしていた惟成の動きが止まった。
「おい。相手は夫婦になってくれるそうだぞ。」
惟成は挑戦者へ言った。
「み、源様もそう聞こえましたよね!? かえ、喜んでって言いましたよね!!?」
そう言って惟成に抱き着く。
「……暑い。お前も落ちろ。」
ドボーーーッンンン!!
惟成は木刀で挑戦者を押し出し、海へ落とした。
「あーーはははははは!!!」
「どっちにしろ、落ちるんじゃないか!!! ぎゃははは!!」
「もはや手合わせじゃないだろ、これーーー!!」
大伴も三宅も橘も経房も、皆、声を上げて笑っていた。
(バラエティ番組見てるみたい!)
紗世も笑っていた。
「さあ、もう居ないか!? 言いたいことがある奴……いや、源様と手合わせしたい者は居るか!?」
橘は笑いを堪えながら言った。
「はいっ!」
一人の手が挙がった。
───
惟成の元へ、最後の挑戦者が小舟に乗ってやって来た。
惟成は呆れた。
「…………紗世。お前……何してるんだ。」
小舟には紗世が乗っていた。
「え? 皆、楽しそうだなって。」
紗世はにこにこと笑っている。
「紗吉殿、何を言うんだ?」
「源様への不満とか?」
「だったら面白いな。」
港でも見学者達が興味津々で、二人の乗る船を見ていた。
紗世は港の方へ向き、大きく息を吸った。
「私はーーー! 讃岐とーーー! 讃岐の皆がーーー!! 大好きでーーーす!!!」
「おおおお!!」
「だってーーー! 皆とうどんを作れたしーーー!!!」
「おおおおおお!!!」
「惟成ともーーー! 温泉行けたしーーー!!!」
「うおおおおおお!!!!」
「讃岐はーーー! 私にとってーーー! 幸せな時間がーーー! いっぱいでしたーーー!!!」
「いえええええい!!!」
紗世はそこで一度息を吸った。
そして、惟成へ向かって叫ぶ。
「惟成ーーーー!!!」
「ん?」
いきなり話を振られ、惟成は目を丸くした。
「こんな、姫らしくない私だけどーーー! 夫婦になろうって言ってくれて、ありがとうーーーー!!!」
「ひゅううううう!!!」
「いいねぇーーー!!!」
「これからもーーー! よろしくねーーー!!!」
「うおおおおおお!!!!」
ぱちぱちぱちぱち!!!!
港から歓声と拍手喝采が起こった。
そして、さらに野次が飛ぶ。
「でーーー!? 源様ーーー!? 返事はーーー!!?」
「へーーんーーじ!! へーーんーーじ!!!」
「え……? あ……?」
惟成は顔を僅かに赤くし、狼狽えた。
「お? 源様が狼狽えてるーーー!」
「やっぱり、紗吉様に弱いんだー!?」
「早くーーー! 返事ーーー!!」
惟成は意を決して叫んだ。
「俺以外の男に、お前を支えられるわけがなかろう!! 俺を選んで正解だ!!!」
そう言うなり、紗世を抱き上げた。
「ひゃっ!!」
ドボオオオオンンンン……ッ!!
そのまま二人は、一緒に後ろへ倒れ込むように海へ落ちた。
「うおおおおおお!!!」
「あははははははは!!! やっぱり海に落ちるのかーーー!!!」
海に陽が落ち、讃岐を橙色に染めていく。
大勢の笑い声が、いつまでも海辺に響いていた。




