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眩しい朝の光に目が覚めた。
まるで、子どものころ棲んでいた森のような感覚。
一瞬、ここがどこか分からなくなったけど。
ここは、トゥーレの村のゲストハウスだ。
ルクスとアルテミシアはとっくに起き出したのかベットにはいなかった。
ブブもいつの間にかいなくなっていた。
僕は急いで身支度をすると、食堂へ下りていった。
僕らの部屋はゲストハウスの二階にある。
一階には食堂と玄関ホール、あと、いくつかの客室もあった。
食堂には村人が大勢いて、みんな朝食をとっていた。
僕が行くと、ブブがすぐに気付いてこっちに飛んできた。
「おはよ~~~。
あるじさま~~~。
あさごはんたべよ~~~。」
朝からすっかりご機嫌だ。
「おう、こっちこいよ。」
むこうのテーブルで、ルクスが手を振っていた。
隣にはアルテミシアもいる。
テーブルには、たくさんのベリーと、木の実の粉で作ったパン、それから、汲みたてのきれいな水のたっぷり入った水差しが並んでいた。
アルテミシアはカップに水を注いで、どうぞ、とあいている椅子の前に置いてくれた。
僕は有難く席について、目の前のご馳走を眺めた。
まるで、僕らの故郷の朝食だ。
これが、この近くの森でとれる食糧というわけか。
だけど、ルクスは、ちょっと残念そうにテーブルを見て言った。
「俺は、もうずっと、朝から肉を食うような食事に慣れていたからな。
ちょっと、物足りないな。」
「出されたものに文句を言うな。」
ぶつぶつ言うルクスの頭を、アルテミシアは軽くはたいた。
ルクスははたかれたところをさすりさすり、アルテミシアを恨めし気に見た。
「ったく、お前は…
俺の頭はお日様に干したクッションじゃねえんだぞ?
そう、ぱしぱし、はたくな。」
ちょうどそこへ、村長さんが直々に出来立てのお料理ののったお皿を持ってきてくれた。
「どうぞ、みなさん、これを食べて元気をつけてください。」
それは塩漬け肉と玉子を焼いた料理だった。
「おう。
こりゃあ、うまそうだ。」
ルクスはほくほくと上機嫌に受け取ると、料理の皿をテーブルの真ん中に置いて、きれいに四等分した。
それから、僕の隣にいるブブの前のお皿に、真っ先に料理を取り分けた。
「おい、ブブ。お前も食うよな?」
「うん!
ブブ、くう!」
ブブはフォークを握りしめてにっこにこでうなずく。
だけど、アルテミシアはちょっと顔をしかめていた。
「肉も玉子も貴重なものだろう?
少しは遠慮というものを知らないのか?」
「飯食ったら、狩に行きゃあ、いいだろ。
ここの連中は、あんまり森で狩をしたことがないらしいからな。
連れて行ってやるって、約束もした。」
ルクスは取り分けた料理をアルテミシアのお皿にものせながら言った。
「前はこの辺りは荒野だったからな。
狩の獲物なんて、ほとんどいなかったそうだ。
肉は王都から塩漬け肉を買って来てたんだと。
そんなら、とりたての新鮮な肉を食わせてやろう、って話しになってさ。」
「いつの間に、君はそんな相談をしてきたんだ?」
「うん?さっき。」
「この森に獣なんかいるのか?」
ものすごく立派な森だけど。
この森はまだ、できたばっかりだ。
「獣はいなくても、鳥はいるさ。
やつらには、境界なんてものは、ないからな。」
ルクスは昨夜あんなにしょんぼりしていた人と同じ人とは思えないくらい元気で上機嫌だった。
アルテミシアは、やれやれ、と半分呆れた顔をしていた。
「闇の壁の調査は?どうするんだ。」
「そんなの狩のついでに見てくりゃいいだろ?」
ルクスは全然悪びれない。
「もちろん、お前も行くだろ?アルテミシア。」
それから、僕を見て、思い出したように、あ、っと言った。
「…お前は、狩は、苦手だったっけ…」
僕は気まずくなって、下をむいた。
今日は闇の壁の調査をするつもりだった。
だけど、狩のついで、ってなると…
「…うん、ごめん…」
「いや。悪い。これは、俺が悪かった。」
だけど、もう、やつらと約束しちまったしなあ、とルクスは食堂のむこうを見た。
そこには村の若者たちがいて、ルクスが見ると、嬉しそうに手を振ってみせた。
「あ。いいよ?
僕のことは気にしないで。行って来て?」
それに、狩をするのは、村の人たちにとっても、助かると思うんだ。
僕はあわてて両手をぱたぱたと振ってみせた。
「お前、少しは肉も食うようになったんだろ?」
ルクスは僕のお皿にも料理を取り分けてくれた。
僕はちょっと迷ったけど、素直にいただくことにした。
「うん。
匠のおかげ、かな。」
「ドワーフの肉料理は格別だもんな。
あれくらい食わねえと、肉食った気はしないよな?」
アルテミシアはわざと聞こえるようにため息を吐いたけど、ルクスはけろっとしていた。
ルクスにはもちろん、悪気なんかないさ。
だけど、このお料理だって、貴重な食材を僕らのために作ってくれたものなのに。
僕もちょっと、周りの人に今のが聞こえなかったか、ひやひやしたよ。
それに、見たところ、みんなベリーとパンと水の朝食をとっていて、こんなに豪華なのは、僕たちだけだ。
やっぱり、これは、ちょっと、気がひけるなあ。
そうだ!
僕はふと思い付いて、料理の皿を持って広いところへ行った。
前にちょっとやったあれ、今もできないかな。
しばらくやってなかったから、自信はなかったけど、でも、ぎりぎり、あの感覚は覚えていた。
僕は久しぶりに笛を吹いて精霊に祈った。
おおきく、おおきく、おおきくな~れ。
おおきく、おおきく、おおきくな~れ。
この村の精霊たちは、僕のことを覚えていてくれたみたいで、すぐに、力を貸してくれた。
おおきく、おおきく、おおきくな~れ。
みんなのごちそうになるように。
みんながおなかいっぱいになるように。
ずもん。
ずもん。
ずもももも…
いい感じに、料理が皿ごと大きくなっていく。
何事かと見守っていた村人たちの、歓声が聞こえた。
なんとか、村人全員に行き渡るくらい大きくなったけど。
僕はすっかり疲れてしまって、結局、そのまままたベットへと逆戻りだった。




