69-俺が勇者カナタだが、何か用か?
最強ってのは、勝ち続けるってことだ。
俺は破壊の神の腕がぶっ壊れて弾けて消える音を聞きながら思った。硬い音、柔らかい音、破壊音、破裂音、爆発音、粉砕音、崩落音、金属音、木が折れる音、岩が割れる音、火が燃える音、水がこぼれる音、氷が溶ける音、雷が落ちる音、そして、神が負ける音。
俺の1フレーム1,024発攻撃は破壊の神の999本の腕を打ち砕いた。勝ったのはシンプルに数の多さだけじゃない。俺の1,024インパクトは神の腕を一本残らず粉砕し、25発を正確に奴の顔面に叩き込んでやった。
神との勝負は一瞬で決まった。最強同士の戦いってのはこういうもんだろ。無駄に打ったり無難に避けたり、そんな無意味なモーションは不要だ。真正面からぶち当たって、より強い方が最後に立っている。弱い者は無様に崩れ落ちるのみ。
破壊の神は、今、崩れ落ちた。一千本あったすべての腕を失い、頭部は光り輝く幾千幾万ものドットになって上半身ごと静かに掻き消えた。やがて下半身が力を失って枯れ木が燃え崩れるように潰れて光る灰となってさらさらと解けて跡形もなくなった。
一瞬のバトルの衝撃が今頃伝わったのか、かつて魔王城と呼ばれた瓦礫の城の一部ががらりと崩れた。まぶしい陽の光があるこぼれ出し、まるでスポットライトのように勝ち誇る勇者の俺を照らす。そして、この世界の創造主であり、俺の雇い主でもあるイングリット・アルマヴィヴァを明るく照らした。
このイングリットワールドは何もかもがイングリットさんの妄想で構築されている。召喚された最強勇者と最低ランク召喚観測士って夢見る設定も。もしも彼女が夢から醒めたら、ぜんぶおしまいだ。すべて弾けて消えてしまう。後には、あの時の魔王のような、見すぼらしく痩せこけた彼女がぽつんと残されるだけだ。そんな思いをさせるわけにはいかない。
「……カナタ」
おおっと、何も言わなくていいぞ、イングリットさん。うん、わかってるよ。すべてわかってる。
俺はイングリットが何か言おうとしたのをばっと片手で制した。潤んだ瞳で軽く首をかしげるイングリットさん。イエローなパンクヘアーが風に揺れている。
ある意味、イングリットさんこそこの世界で最強な存在だな。彼女が機嫌を損ねたら、神様よりもさらに凄まじくインフレした強敵を召喚されかねない。
俺がいる限り、もう寂しい思いも、退屈もさせないよ。
イングリットさんを黙らせたまま、俺はあるアイテムを召喚した。俺が開発したVRゲームギア、ヴァーチャライザーを。
すっぽりとヘッドマウントディスプレイをイングリットさんにかぶせてやる。さて、行こうか。
「ねえ、カナタ。何をする気?」
「いいからいいから」
ヴァーチャライザー・オン!
「異世界へ飛ぶよ」
「異世界へって、ちょっと待って」
「大丈夫大丈夫。きっとイングリットさんも気に入るよ」
「えっ、なにこの視界は?」
さあ、未知なる異世界へ飛ぼう。俺と一緒に、最強勇者と最低ランク召喚観測士コンビで夢見る冒険の旅へ。
ヴァーチャライザーの視界は俺がいた現実世界のとある交差点。俺とイングリットさんは道路の真ん中に並んでる立ち尽くしている。そして、遠くにキラリと光るヘッドライト。
「えっ、ちょっ、まっ!」
「16トンコンボイトラック召喚! 異世界転移するぜ!」
「イヤアアアッ!」
俺とイングリットさんはVRトラックに轢かれた。
おわり




