65-おまえは選択を誤った。
「このふざけたワールドを創ったのは何者なのか」
サーチライトの明かりの際で、その人影は筋金が入ったような凛とした声で誰に言うとなく語り出した。
「そう思わないか? 己がどこから来て、そしてどこへ行くのか。その何者かに委ねられる。実に虚しい」
影が頭をもたげる。二つの目が光り、ゆっくりと瞬いて俺たちを見渡した。
「……そういうことか。なるほど。すべてを一から、いや、ゼロから作り直すのだな」
腰を折り曲げて片肘をついた姿勢からゆったりと、しかし一分の隙もない正確な動きで、そいつは崩れた玉座から立ち上がった。
「そのために私は喚ばれたのか」
一歩踏み出す。サーチライトの光の輪の中に。
そこに立っていたのは、質素な色合いの布を仏像のように身に纏った一人の男だった。まさに仏像のように穏やかな表情をしていて、しかし2メートル以上ありそうなタイトに引き締まった身体には凶暴そうな筋肉を装備していた。
「そのためだけに、破壊の神さえも創り出したというわけだ」
破壊の神。そいつはそう言って、さらに前へ踏み出した。まるで台風が上陸する直前の夜のような、暴れ狂う圧倒的な威圧感に俺たちは無意識に後ずさってしまった。
「いいだろう。リセットだ。すべてを破壊して、居心地のいい自分だけのワールドを再構築し、そこに独り籠るがいい」
破壊神と名乗ったそいつは、大袈裟に振りかぶって大きな拳を高く掲げ上げた。
「その期待に応えよう。創造主よ」
力強く振り上げられた拳は、俺とブラック・カナタが動くよりも速く、情け容赦なくイングリットさんによく似た魔王へと振り下ろされた。
「繧?a縺ヲ?!」
それを叫んだのは魔王か、それともイングリットさんか。
よく耳に馴染んだウィスパーボイスが瓦礫の空間に小さく響き、そしてすぐに耳を塞ぎたくなるような破壊音に掻き消された。破壊の神の絶望的な拳が怯え震えた魔王を捉え、瓦礫の山へと押し潰し、無力な魔王の痩せこけた身体は光のドットに分解された。かつて魔王の身体だったドットは一瞬だけ強く光り、ぱっと散って呆気なく消えた。
俺とブラック・カナタはほぼ同時に飛び出した。
『魔王は消滅した! この世界にひとかけらも残さず吹っ飛ばされてしまった!』
ヴァーチャライザーからデミツルの声。わかってる。破壊の神が撃ったのはシンプルなパンチじゃない。もっとこう物理なんか超越した、言うなれば神がかった暴力だ。自称神様がやってるんだから神がかっていて当然か。
拳を引いて腕を戻した破壊の神に、時間を短縮させた最高速の蹴爪ブーツでの俺の必殺キックが、重力を圧縮させた最重量の圧縮蒸気砲でのブラック・カナタの必殺パンチが、時間差なく頭部と腹部の二点に着弾する。異世界最高戦力の魔王城すらべっこりへこまし吹っ飛ばす攻撃力の同時攻撃だ。まともに食らえば神様だって無事じゃあ済まない、はず。
「なかなかの腕前だな。次は貴様らを救おう」
神は仰々しく言った。最強のパンチを頭で受けてやや仰け反り、最強のキックを腹で受け止めめり込ませて、それでもまるっきりダメージが通っていないかのように悠然と言葉を続ける。
「このくだらないワールドから魂ごと浄化して、次なるステージへと昇華させやろう」
『物理攻撃が無効化されてる。カナタたちの攻撃は一切効かないぞ』
デミツルがヴァーチャライザーで神様を分析した。なるほど、俺と同じで物理攻撃は効果なしか。さすがは神様。
破壊の神は再びゆったりとした動きで拳を振り上げ、魔王を潰した時と同じように容赦なく一気に叩き落とした。土砂降りのような拳が俺とブラック・カナタに迫る。一発のパンチじゃない。力強い拳が幾重にも重なっているように見える。
「救済しよう」
あいにくと神様に救いを求めるようなしみったれた人生を歩んではいないんでね。お断りだ。
凄まじい圧力のあるパンチだが、スピードはそれほどでもない。身体の軸を捻るだけで躱せそうだ。ブラック・カナタは重力編集マントで神様の攻撃を反らしてカウンターを狙っているようだ。避けようともせず真正面からぶつかっていく。
「正解だ」
破壊の神の声が俺の頭の中に響く。同時にブラック・カナタへの神のお告げって奴も聞こえた。
「おまえは選択を誤った」




