34-ちゃんと人の助言を聞くタイプの勇者カナタなんだな
召喚モンスター四天王の脅威は取り払われ、イングリットさんとその他大勢が暮らす城下町は救われた。わりとあっさりめに。
「ちゃんと人の助言を聞くタイプの勇者カナタなんだな」
ブラックパラレルカナタが腕組みをして黒マントを翻し、ヒーローポーズを決めて舞い降りてきた。
「そりゃあまあ、おまえは平行世界の俺なんだろ? 現実世界の俺とは違う概念かもしれないけど、俺自身の言うことはシンプルに信頼できるじゃないか」
「そうか。でもそのシンプルなことが出来なくて、これから先の四天王戦で負けちまったたくさんの異世界タナカを見てきたぜ」
「先の四天王戦ってことは、やっぱ連戦か?」
「こっから先は魔王軍も本気でこの国を滅ぼそうって勢いで攻めてくる。どうする? 四天王攻略法だけでも教えておこうか?」
四天王攻略法、か。確かに気になるところだ。だがしかし、先を知ることのつまらなさも同時にあるな。
「あー、いいや。隕石人間メテオマンも思ったよりもさくっと倒せたし、未然の情報を知ることで世界線がずれるかもしれないしな」
ブラックが笑って返す。自分だけ結末を知ってる映画のネタバレをするかしないか、イジワルに高みから見下ろす笑いだ。
「笑うな。とりあえず正攻法アタックで倒す。敵がどんな奴でもな。それが勇者カナタだ」
「そうか。ちなみに四天王戦で最初に出てくるのってどんな奴か知ってるか?」
「奴は我ら四天王の中でも最弱だ、ってパターンだろ」
「正解だ。メテオマンは四天王の中でも攻撃パターンも単純で簡単に攻略できる奴だ。次からはこうはいかないぞ。正解のご褒美にこれをやるよ」
ブラックはけらけらと笑って自分の履いていた蹴爪ブーツを脱いで俺の目の前に突き出した。え? 戦闘で軽く汗かいたその脱ぎたてブーツを履けってか?
「うわ。欲しいけど、いらねえ」
「持っとけ。脚力、走力が五倍はあがるぜ。同じ俺同士だ。気にすることじゃないだろ」
そりゃあ確かにおまえは俺で俺はおまえなわけだけどな。三十過ぎのおっさんが戦い終わったあとのしっとりと蒸れたブーツなんか誰が履くんだよ。
「それ、スチームで動いていたな?」
「ああ、スチームパンクワールド製のブーツだ。夏場はちょっと熱いけど、蹴爪の握力は実証済みだろ」
熱いのか。それじゃあやっぱり蒸れ蒸れじゃないか。ますます履きたくない。
「いらねえ」
「いいから持ってけって。四天王戦で必ず役に立つヒーロー装備だ」
「わかったよ」
しぶしぶ受け取ってやる。思ったよりもずっしりと重く、真鍮製のパイプがブーツのデザインとしてサイドに走っていてその蹴爪は見たこともない鋭い金属でできている。
「さて、俺たちの大事なイングリットさんもやってきたことだし、カナタが二人いるってバレたら何かと面倒だ。俺は次の平行世界に行くとするか」
「また別の勇者カナタを助けるのか?」
ブラックが俺の後方を見やって言った。あ、ほんとだ。イングリットさんだ。イエローのパンクヘアーを風に揺らして走ってくる。まあ、召喚によりこれだけ何発も隕石が降ってきたら、さすがに召喚観測士のイングリットさんなら異変に気付くか。
「助けるわけじゃないさ。戦う価値のある勇者なら攻略のヒントをやるし、勇者の資格がないダメ人間なら見捨てて別の平行世界に行く」
「ダメ人間カナタもいるのか」
「いるかもな。魔王軍に寝返ったダークカナタとか、兵舎から出ない引きこもりカナタとか」
ブラックパラレルカナタの黒みが強いヴァーチャライザーが鈍い光を放つ。何かダウンロードしてるな。
さて、俺もイングリットさんに状況説明して、どうしようか。イングリットさんの元に戻るか、街を拠点にして首都防衛師団と行動を別にするか。
「ヴァーチャライザー・オン!」
ブラックがポーズを決めて叫んだ。16トンコンボイトラックを呼んだか。こいつの異世界転生トラックはどんなんだろう。やっぱり黒いのかな。
そんなことを思ってぼんやりとブラックパラレルカナタを見ていたら、あ、と思わず息を飲んでしまった。ブラックヴァーチャライザーと俺のヒーローヴァーチャライザーがいつのまにか同期してしまっていた。
16トンコンボイトラックが二台、暴力的なエンジン音を轟かせて俺たちに突っ込んできた。




