13-マナー違反?
何で街を守ったヒーロー自らが倒して怪獣の後処理をしなくちゃなんないんだ。
100メートルオーバーの岩山の塊のような巨人の残骸をふわりふわりと引っ張りながら俺は思った。
「ねえ、イングリットさん、ここら辺でもういいんじゃないか?」
「もう少し。この丘の向こうまでだ」
イングリットさんは事務作業するみたいに冷徹に言った。はい、かしこまりました。
「頑張れ」
それでも嫌な顔ひとつ見せず、とてつもない大きさの岩石に手を添えていてくれるさりげない優しさは見せてくれた。
まったく、この巨人、重過ぎるんだよ。どうせなら街を守ったヒーローを称える奇岩モニュメントとして飾っとけよってくらい岩々しいし。
ヴァーチャライザーをオンして異世界特殊能力を発動。『荷重力偏移』で岩巨人の身体を無重力状態にする。それでも質量はとんでもないままなんで、ぐいっと思い切り引っ張った瞬間に『超加速』をかけてやる。のろのろ引きずられてるように見えて、この巨人は実はふわふわ浮きながら通常の数千、数万倍の速度で移動中なのだ。
「こいつの死体を埋めるって言ったってさ、どっからどう見ても大きな石ころにしか見えないしさ、そこら辺にバラバラに砕いて放置しててもいいんじゃないか?」
驚いたことに、岩の巨人の死体は岩石そのものだった。どうやって動いて、変形して、走ったんだろう。デカ過ぎる人の形をした岩石を引っ張りながら思う。異世界はまだまだ未知の世界ばっかりだ。いつかこいつの石異世界に飛ぶチャンスもくるだろうか。
「……」
イングリットさんから返事はない。
「ん、イングリットさん?」
「……なあ、カナタ」
召喚観測士であるイングリットさんは他の魔法使いたちのような召喚能力はないし、そもそも兵士としての戦闘力もない。ただ観測能力に優れていたってだけで他の誰よりも早く俺の異世界転移を観測して、俺の発見者、監視役、そして身元引受け人、保護者へとレベルアップしていった。そんな軍の中で限定的に出世街道を突き進んでいるイングリットさんが、少し元気なく言いにくそうにしている。
「……カナタは、自分から帝国軍側へ攻撃するのには反対なんだろ?」
「うん、まあね」
なんだ。そんなことか。もっとイングリットさんのプライベートな悩み事とかなら喜んで相談に乗るのに。俺は巨大過ぎる燃えないゴミを空中で引きずりながら答えた。
「結局のところさ、俺がイングリットさんのこの世界に飛んできたのは偶然なんだよ。言っちゃえばただの通りすがりの異世界人だ」
「うん。ただ単純にあたしが一番最初に見つけたってだけだろ?」
「そうだな。右も左もわかんない異世界の俺にごはんをご馳走してくれたし、一晩の寝床もくれた。だから俺は、イングリットさんのために、頑張って街を守ってるだけだ」
イングリットさんのために、の部分だけ少し力を込めてみた。イングリットさんの表情に変化は、なし。フラグ立たず。
「もしも帝国軍観測士が俺を見つけてごはんを奢ってくれてたら、やっぱり俺はそいつの街を守るためにイングリットさんのいる公国軍と戦っていたと思うよ」
「カナタならそうするだろうな」
「うん。ただし、いくら一宿一飯の恩があろうとも、俺から攻めるなんてことには協力しない。絶対にしない。それはマナー違反だ」
「マナー違反?」
イングリットさんが黄色いパンクヘアの頭を傾けた。俺はポイント稼ぎのためにイングリットさんに向き直って真っ直ぐに言う。
「ああ。特撮変身ヒーローは自分から敵を攻めるために戦ったりはしない。守るために戦うんだ」
「どんなに悪い奴ら相手でも?」
「いくら最強だからって、相手によって態度変えるような奴のこと信用できないだろ? 信用されたいんだよ。守る者として」
「そんなシンプルな答えでいいの?」
「シンプルだよ。特撮ヒーローはいつだって」
「……あのさ、師団長が……」
イングリットさんが何か言いかけてフリーズした。
「イングリットさん?」
ん? んんっ? って顔して俺の背後を、ずいぶん上空の方を太めの眉をきゅうっと寄せて睨む。
また何か出たのか?
くるり振り返ると、俺たちの向かう丘の上、上空高く銀色の未確認飛行物体が飛んでいた。
「あ、UFOだ」
間違いない。異世界の空にUFOだ。なんでそう言い切れるのかと言うと、その未確認飛行物体のフォルムが、昔のオカルト雑誌に載ってたりするタイプとそっくりなくらいUFOしてるフォルムだからだ。あれは間違いなくアダムスキー型UFO!




