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閑話・元婚約者が結婚しました

 十四歳になった頃から私にはたくさんの縁談話があった。

 たくさんの縁談話の中には自ら縁談を申し込んでくれた方もいたけれど、大半は両親があちらこちらからかき集めてきた縁談だった。 


 お金に困った事がない貴族を始め、お金が有り余っている資産家やお金をたんまり稼いでいる実業家等々。言わなくても分かるでしょうが、両親は若くても年配でもお金さえ持っているなら私の旦那様候補にしていたのだ。そんな両親の行動には呆れていたけれど、お祖父様より年上の候補者を薦められたときはさすがにキレた。


 自分達が家の資産を湯水のように使い果たしたくせに、今後の資金調達のために実の娘を犠牲にするって酷すぎると思う。


 両親は私が小さかった頃からダメダメな人たちだったから何も期待はしていなかったけれど、まさか私の結婚すらも自分達の都合のいいように進めようとするなんて、実の両親ながら救いようがない人たちだと心の底から思った。


 両親がとんでもない縁談ばかり持ってくるものだから、お祖父様はずっと私の嫁ぎ先に関して心配してくださっていた。だからお祖父様は友人であるレヴェリー侯爵様のお孫さんとの縁談を取り付けてしまったのだ。


 今思えば、お祖父様は私が悲惨な結婚をしないようにと考えてレヴェリー侯爵様のお孫さんとの縁談を取り付けてくれたのだと分かるけれど、当時の私は誰も彼もが私の事など微塵も考えてはいないのだと思って激怒してしまった。


 私には十三の頃から想っている人がいる。その人以外の嫁ぎ先など私にとっては全部悲惨な結婚でしかなかった。だからこそお祖父様までもが私に縁談を持ってきた時、私の中で何かがキレた。


 私はこの家のために犠牲にならなければならないのか。私には感情がないとでも思っているのか。私に人形にでもなれと言うのか。私だけに何もかもを背負わせて自分達は贅沢な暮らしをしようだなんて酷すぎる。私は今ある縁談の誰にも嫁ぐ気はない。自分の嫁ぎ先は自分で決める。


 そうやって縁談を持ってきてくれたお祖父様に不満をぶつけてしまい、更にはレヴェリー侯爵様のお孫さんには変な噂がたくさんある事を理由にして、これでもかと嫌がってしまった。


 あの時の事は本当に反省している。両親に不満をぶつけるならまだしも、私の事を気づかってくれていたお祖父様に不満をぶつけてしまったのだ。そして何より、当事者でありながら蚊帳の外だったレヴェリー侯爵様のお孫さんの事まで貶めてしまったのだから、この先一生お孫さんには顔向けできないと本気で思った。


 私が嫌がった事でお祖父様はすぐに縁談の話はなかった事にしてくれたけれど、お祖父様は私が泣いて嫌がった事は先方に伝えずにいてくれた。しかし何故かそれがお孫さんの方に伝わっていたのだ。


 何故私がその事を知ったのかと言えば、お孫さんから手紙が届いたからだ。




『祖父が君との縁談を勝手に決めてしまってすまなかった。変な噂ばかり持っている俺が相手では誰だって嫌がるだろう。だから今回の事は気にせず他の相手を見つけて欲しい。君が心から想える相手に巡り会えるよう祈っている』




 手紙には丁寧な字でそう書いてあった。

 顔向けできないどころか同じ王都に住んでいることすら申し訳なくなった。


 手紙を受け取りはしたけれど、私からは手紙を返さなかった。

 本当は返事を出そうと思ったけれど、何を書いても言い訳じみたものになりそうだったので余計に失礼になる気がしたのだ。


 その手紙を受け取った少し後で私が泣いて嫌がった事をお孫さんに伝えた犯人がお兄様だと分かり、それなりの罰を受けてもらった。


 本当に余計な事しかしないんだから、お兄様は。




 その後、私は縁談を悉く破談にし続け、一途にたった一人だけを想い続けた。

 心から想える相手に嫁ごうと決めていた私はとうとう行き遅れと言われる歳になってしまったけれど、縁談を破談にし続けた事に後悔はない。


 お孫さんの方も妻を迎えたという話は聞かなかったけれど、ある日お兄様からお孫さんが結婚したという話を聞いた。



 その相手はなんと、リリア男爵家のご令嬢だった。






◆◆◆◆◆






 リリア男爵家の噂は貴族の間では有名だ。『辺境の熊一族』やら『未開の地の狂戦士』と噂されているリリア男爵家のご令嬢がどんな人なのか想像してみると、きっと誰もが逞しい女戦士を想像してしまうと思う。

 レヴェリー侯爵家は国でも有数の大貴族だ。相手など掃いて捨てるほどいるだろうに、何故家格の釣り合わないリリア男爵家のご令嬢を、更には逞しい女戦士である可能性が高い相手を選んだ理由は何だったのか。リリア男爵令嬢が本当に逞しい体の女性だったなら、お孫さんはそういう趣味の方だったという事になるのだろうか?


 しかしながら、お孫さんの相手がリリア男爵家のご令嬢だと知った私は、狂戦士一族出身の彼女なら私の悩みを解決してくれるかもしれないと思った。


 何を隠そう、私の想い人は騎士団長様なのだ。騎士団長様の事はかれこれ十年ほどお慕いしているけれど、どれだけ貴方が好きだと伝えても毎回返事は同じ。騎士団長様にはかつてお慕いしていた人がいたという噂を聞いた事があるけれど、私だってあの方を好きになってしまったのだから気持ちを通じ合わせたいと願ってしまうのはもはや必然だと思う。だからこそ、未だに全く進展しない騎士団長様との仲を少しでも進展させるために、リリア男爵家のご令嬢にご助力いただけないかと考えてしまったのだ。


 彼女には、戦士の妻になるにあたっての心構えや落とし方などを聞きたい。物凄く聞きたい。


 しかしながら、私はお孫さんに顔向けできないどころか気配すら感じさせてはいけないと思っている。仮とは言え、僅かでも婚約関係になってしまった過去があるのだから、『元婚約者』である私の存在は目障り以外の何者でもないはずだ。それなのにお孫さんに会うのではなく奥様の方に会いに行くなど、相手からすれは憤慨ものだろう。


 しかしそれでも何とか話ができないかと考えてしまい、気づけばレヴェリー侯爵家の邸に足が向いていた。






◆◆◆◆◆






 結論から言えば、いろいろな事が丸く収まった。この事に関しては予想外すぎて逆に可笑しくなったほどだ。


 事が丸く収まった一番の要因は、リリア男爵家のご令嬢がいい意味で予想外な人物だったからだろう。

 彼女がお孫さんに嫁いだという話が広がると同時に『「歩く凶器」を巧みに操る「リリアリムの戦乙女(ヴァルキリー)」』なんて噂が広がっていたものだから、てっきり逞しい女戦士だと思い込んでいたけれど、実際は華奢で可愛らしい女の子だった。


 誰よ、戦乙女なんて噂を流したのは。偽りの情報を流さないでよ。無駄に身構えちゃったじゃない。


 まあ、そんなことはさておき。

 彼女は私がお孫さんの元婚約者だと分かると何故か感謝の言葉を述べた。驚いた。「よく顔を出せたわね。お顔の皮はその厚化粧より厚いのかしら」くらい言われると思っていたのに、まさか感謝されるとは夢にも思わなかった。


 彼女は、私がお孫さんとの婚約を破談にしたからこの人の妻になれたと言って笑っていた。その笑みは裏に真っ黒い感情があるわけでもなく、ただ言葉の通りの感情しかない笑みだった。


 だからこの子はお孫さんの奥さんになったのだろう。例え家格が釣り合ってない家同士であっても、彼女が相手なら誰でも納得すると思う。何より笑い合う二人を見れば、相思相愛である事は一目瞭然だった。


 今でも婚約の話を泣いて嫌がってしまった当時の事は反省しているけれど、お孫さんはとても素晴らしい伴侶を迎えたのだと知る事ができたので少しだけ心が軽くなったような気がした。




 私は二人の結婚を心から祝福している。

 そして、これから先も末永く二人仲良く幸せであって欲しいと願っている。


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