第43話 隣り合わせの2つの世界
そのあと2週間ほどつかって、協力してくれた冒険者や、市民の皆さんにあいさつ回りをした。
おおむね快く対応してもらえたが、騎士団との戦いで戦死したひとの仲間や家族には、恨みごとを言われることもあって……それが、いちばん辛かった。
恥ずかしながら、何回も泣いてしまったのだが……ゼラたち3人とコレットが、いっしょに泣いてくれたので、すこし気分が楽になった。
そして、俺とコレットが、ノエガンドを去る日がやってきた。
行き先は……聖都を経由して、故郷の村。なぜ聖都に寄るのかというと、言わずもがな、デギとファデウス老の墓まいりだ。
ゼラたち3人が、ノエガンド近郊の丘まで、俺たちを見送ってくれた。
「私も、数日のうちにはザリアに発つ予定だ。姫さまが、首を長くして待っているのでな。いろいろあったが、終わりよければ全てよし、だ。近くに来たときは、ぜひ立ち寄ってくれ」
「ありがとう、ゼラ。俺が会ったなかで、最高のメイン盾だよ」
彼女と、固い握手をかわす。
「……ウィル……ううん、なんでもない。元気でね。アンタのこと、ぜったい忘れないから」
「俺も忘れないよ、エレ。オタクの皆さんにも、よろしくな」
エレシダとハグ。彼女の髪から、森のにおいがした。目をうるませて差しだしてきたエレぬいを、腰のベルトにつける。
「ウチは……うふふ、またどこかで、ウチの名前を見ることが、あるかも知れへんなぁ……苦情は、受けつけへんで」
「ネロ、この冒険のことを、本にして出版するつもりだろ? 俺はいいけど、ほかの人のプライバシーは、守ってくれよ」
「げげっ、バレとったんか……さすが、頭脳派のウィルやな。ほな、おおきに。また縁があったら、いっしょに戦えるとええな」
ネロとも握手。さあ、出発だ。彼女たちは、俺とコレットが見えなくなるまで、ずっと手を振ってくれていた……
◇◆◇◆◇
聖都への道のりは、何ごともなく過ぎていった、のだが……俺たちが聖都に着いて、驚愕の事実が、判明した。
なんと最近までファデウス老が生きていて……しかも、対マリエラ戦線に一枚かんでいたというのだ。
経緯は、こうだ。すんでのところで暗殺者からのがれたファデウス老は、追跡を避けるため、自分が急死したといつわり、ニセの葬儀を執りおこなった。
そして、マリエラに陥れられた、もと聖女候補生たちといっしょに……アングラな組織とも、協力して……
ついに、暗殺者集団のボスの捕縛に成功。役所に引きわたし……あとは、俺の知るとおりの展開だ。
だが残念なことに、その数日後に、心臓発作で亡くなってしまったらしい。俺の所在を知って、無事をつたえる手紙を、書いていた途中だったとのこと。
「『こ~んなピチピチのシスターたちと、スペクタクルができるとはのう……ワシ、ドキがムネムネして、どーにかなっちゃうかもしれんのう。むふふ』って仰っていたんですが。まさか本当に、神のみもとに、旅立ってしまうとは……」
聖女候補のひとりが、何ともいえない顔をしながら教えてくれた。俺とコレットは、苦笑いするしか、なかった……
そのあと、デギとファデウス老の墓まいりをして……コレットを、先に宿に帰したあと。マリエラの墓にも、行った。
聖王から離縁されただけでなく、教会からも破門あつかいになっていたので、ほぼ無縁仏みたいな、粗末なお墓だった。
落書きをこすって消していると、なぜか、また、涙が止まらなくなった。“嘘つきウィル”ならぬ、“泣き虫ウィル”というわけだ。
夜咲き丘で、俺が彼女と一緒になっていたら。なにか、変わっていたのだろうか。……いやいや、済んだことを一人で抱えこむのは、やめよう。チートスキルは、もうないんだから。
花をたむけ、立ち去った。
◇◆◇◆◇
聖都をはなれ、故郷の村を目指す俺とコレット。ここで、ゼラたちのその後を、かんたんに説明しておこうと思う。
ゼラトリスはザリア公国にもどり、“灼貌のプリンセス”レーヴェ姫のディスペルに成功。
その後は“ウルスラグナの断呪剣”を迷宮街に返却し、空位になっていたザリア騎士団の団長に復帰した。後進の育成に、精を出しているらしい。
背中のヤケド痕を「これは自らへの教訓として残す」とか言いだした彼女を……姫さまがグーパンかましたとか、しないとか。
エレシダは、配信者を引退……「あんな格好で戦ったら、今更パンチラごときじゃ、誰も見にきてくれないでしょ」とのこと。
なんと、ノエガンドの冒険者ギルド支部長に就任したそうだ。支部長としての活動のかたわら、かねてからの目標だった、混血児の地位向上活動に取りくんでいるらしい。
これまでそーいう活動は、単なる補助金ビジネスみたいになっているのが常だった。しかし彼女なら、ちゃんと成果をあげるだろう。ご両親ともまた、仲良くできるかもしれない。
ネロディは……やはり、今回の冒険を本にして出版。またたく間にベストセラーになり、その資金で新たに商売をはじめた。
結構うまくいって、“ジャングレム・リゾート”ふきんの政情不安もかさなり、故郷の土地の80パーセントまでは、買いもどすことに成功したらしい。
もちろん、税金もキッチリ――ちょっとだけ節税しながら――おさめているとのこと。よかった、よかった。
「……ねぇ、ウィル。故郷で、みんなに挨拶して、ちょっと休んで……それから、どうするの?」
隣をあるくコレットが、話しかけてくる。
「そうだなぁ……やっぱり、アモンが強烈だったからなぁ。ほかのダンジョンの底に眠ってるかもしれない、異世界の神さまとか魔神とか、そーいうのを探しにいきたいかな」
「ふーん……さすが、根っからの冒険者ね。でも、今度はセクシーな女神さまとか、狙ってるんじゃないでしょうね」
「うぐっ……そんなことないぞ。こんどは、もっと、こう、扱いやすいチートスキルを、授けてもらって……」
「はいはい、わかりましたよ」
危ない危ない。アフロディーテとかリリスとか言ったら、また散々イジられるところだった。
お昼どきの、草原をつらぬく街道。ふと、空をみあげる。そこには、黄金に光るお日さま。
思いだすのは、ラーのかがやきと、マリエラの髪の色……
――人を嫌い、呪うことでしか自分を表現できなかった、悲しい女性。
お前のぶんまで、人を信じて、好きになってやるよ。
裏切っても、裏切られても、道はつづく。太陽が、中天にさしかかったところだった。
――完――
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