33話 生徒会は今日も会議だ
水森と別れた後、俺と聖羅は巡回を続けた。
というか、ほとんど文化祭を楽しんでいた気がする。
いよいよ大詰めの後夜祭だ。
校庭の脇にあるベンチに二人で腰掛けながら、中央に置かれたキャンプファイヤーに火が灯る。
パチ、パチ、っと乾いた音が夜に吸い込まれていった。
「聖羅、ありがとな」
「な、なんだ急に……気持ち悪いぞ」
「いや、さっきの水森のことだよ。あいつと話しができてよかった。……つっかえてたものがなくなったんだ」
「ふふん。私は生徒会長だからな。当然だ」
聖羅はいつものように、胸を張る。
もうこれを聞くのは何度目だろうか。
生徒会長か……。
「なぁ聖羅、お前が生徒会長になったのって、もしかして水森と俺を会わせるためだったんじゃないか?」
「は、はぁ!? なに言ってるんだ? そんなわけないじゃないか!」
わかりやすい。それが答えみたいなもんだ。
「私はただいつまでもウジウジして、自分の力を信じられない生徒を手助けしただけだ!」
「……ありがとう」
「いいんだ。これで智也も生徒会頑張れるだろ。これからも期待してるからな。庶務」
「ああ。俺にできることはなんでもしてやる。任期まではな……」
そんな話をしていたら、キャンプファイヤーの周りに人が集まってきた。
そろそろこの楽しい文化祭も終わりのようだ。
「それにしても、焚き火囲んで、フォークダンスって、ここだけほんと昭和だよな」
「伝統だからな。でも私は好きだぞ。みんな楽しそうだ」
「まぁたしかに……」
大体がカップルで参加しているのだろうが、気になるあの人と――みたいな感じで声をかけている男子がたくさんいた。
「聖羅は踊らないのか?」
「ん? 私がこういうの苦手なの知ってるだろ……上手く踊れん」
「たかがフォークダンスなんか、適当にステップ踏んで進むだけだ」
「むぅ……それが難しいんだ」
唇を尖らせる聖羅を見て、遠い記憶が蘇る。
校庭の隅で、何度も同じステップを繰り返していた聖羅。
少し間違えるたびに、悔しそうに顔を歪めてたっけ。
「それに踊る相手もいないし……」
チラチラとこちらを見るのは、おそらく誘って欲しいの合図だろう。
――仕方ない。
「では会長様、私めと一曲――」
そう言おうとしたときに、
「「ちょっと待った!」」
背後から優乃と千景が俺たちを睨みつけながらズンズンと近づいてきていた。
「もう! 聖羅ちゃんばっかりずるいよ!」
「……ここは譲るべき」
二人は腕を組みながらプリプリと怒っているようだ。
「そんなに踊りたいもんなのか?」
「当たり前だよ。大事な高校の文化祭が、このままじゃ仕事ばっかりになっちゃう! 思い出欲しいよ」
「聖羅姉は智兄とデートしてたからもういいはず」
まったく……。男子なんか他にいくらでもいるし、こいつらなら引くてあまただろうに。どうして俺なんだ。
「智也……私はいいから二人と踊ってやってくれ」
苦笑いを浮かべながら聖羅はそう言う。
たが、今日の俺の気持ちは既に決まっていた。
「二人とも悪いな。今日の相手は聖羅だ」
「「えぇ〜!!」」
優乃と千景の声が重なり合って、夜空に響く。
「聖羅、頑張ったんだよ。だから――」
俺は立ち上がり、聖羅に手を差し伸べる。
「一緒に踊ってくれるか?」
聖羅はほんとに……ほんとにキョトンと目を丸くすると、俺の手をそっととった。
久しぶりに触れた手は女性らしく丸みを帯びて柔らかい。
「いいのか? 私で……」
「いつもの威勢はどうしたんだよ。みんなの憧れの生徒会長さん!」
「いや、でも……」
横目で二人を見る聖羅は申し訳なさそうだ。
でもそんな聖羅をやれやれと言ったように、優乃と千景はため息をついた。
「智也くんがそう言うなら仕方ないね」
「……でも今日だけ」
千景も釘を指す。
「ほら、いくぞ!」
ぐいっと聖羅の手を引くと、身体を預けるようにして俺の胸へ飛び込んでくる。
「あ、あの……教えてくれるか?」
「ああ。喜んで」
キャンプファイヤーの近くに来ると、顔が熱くなっていた。火のせいなのか、聖羅の手を握っているからなのか。
位置に着くと、懐かしい聞き慣れた曲が流れ始める。
「智也! この曲!?」
「小学校の運動会で練習したよな? これならいけるだろ?」
「うん!」
ニコッと笑って俺たちは一歩、また一歩と、ステップを踏む。
……ちゃんと、できてるな。
昔みたいに転びそうになる気配もない。
ちゃんと、隣で一緒に踊れてる。
「智也! 文化祭って楽しいな!」
「ああ。――悪くはなかったな」
「それと……これからもよろしくな」
聖羅は頬を赤くして、遠慮がちに言うが、今さらそんな仲でもないだろうに。
幼馴染が生徒会長で、泣きついてくると本当に大変だ。
でも――
「任せておけ」
俺はそんな聖羅を――生徒会長を支えていきたい。
見えるものに色があるように。
俺が俺であるために――。
――文化祭が終わって三日後。
放課後、いつものように生徒会室へ向かった。
帰りのホームルームが終わると、聖羅と優乃が職員室に呼ばれていたが、あれはなんだったんだろうか。
そんなことを考えながら、生徒会室の扉を開けると。
「うぅ……智也ぁ! どうしよう!」
聖羅が泣きついてきた。その後ろで、優乃は苦笑いを浮かべている。
文化祭も終わったばかりだというのに、どうしてこいつはこんなに慌ただしいんだ。
「今度はなんだよ?」
「さっき職員室に呼ばれたのだが……」
続きを言ったのは優乃だ。
「今度、入学希望の中学生に学校説明会があるのは知ってるよね?」
「ああ。たしか、例年だと先生たちと生徒会が準備をしていたよな」
「そうなの。それで、説明会でプレゼンを生徒会にやってくれないかって、教頭先生に頼まれたの。職員会議のプレゼンは素晴らしかったですって」
「へぇ。良かったじゃないか。評価してもらえて、で、いつ?」
「ら、来週末だ」
聖羅がにが虫を噛み潰したように、顔をひきつらせる。
「はぁ!? 受けたのか?」
「こ、断れなくて……」
瞬時に学校説明会までの行程を頭の中で考えてみた。
普通なら無理だ。
というか、あり得ないだろ。
だが、受けてしまったものは仕方ない――。
「お疲れ様です」
「みんな、おつかれ」
そのとき、紺野と千景が入室してきた。
二人は泣いてる聖羅を見て、ぐっと一歩後ずさる。
俺は逃げないように二人の肩をガシっと捕まえた。
「いいところに来たな二人とも」
「な、なんですか? 金城先輩、今度はなにをやらかしたんですか?」
「セ、セクハラ反対……」
「いいからいいから」
俺は生徒会室のホワイトボードの前に立ち、全員を着席させた。
もう、立ち止まる理由もない。
あの日の後悔も、文化祭で全部置いてきた。
あとは、前に進むだけだ。
「――さぁ、会議を始めるぞ」




