第3章−3 揺れる確信
遺跡が沈黙を取り戻してから、ユノの胸のざわめきだけが残っていた。
隊員たちは混乱を隠しきれず、計器の異常値を何度も確認している。
「ユノ、本当に大丈夫か?」
タキがそっと肩に手を置く。
ユノはうなずいたが、その表情には迷いが浮かんでいた。
――あの声が本物だと、どう説明すればいい?
ほかの隊員は、彼女の“聴いた声”を半ば笑い話にしていた。
「星の声~?」「遺跡に歓迎でもされたか?」
そんな軽口が飛ぶ中で、ユノはますます孤独を感じる。
自分にだけ届く声。
自分だけが感じる熱。
それは、錯覚なのだろうか。
それとも――。
ユノはタキにだけ、小さくつぶやいた。
「……タキ。あれ、警告だったと思う。『鍵を開くな』って……そんな感じの」
タキは表情を引き締めた。
「ユノ、今は軽々しく言わない方がいい。あいつら、利用しようとする」
「利用……?」
「お前が“遺跡を起動させた”こと自体、すでに興味の対象なんだ。企業はもっと深い場所を開けたいはず。ユノは危険な立場にいる」
胸がざわついた。
あの声は確かに警告だった。
なのに、人間は逆に“開けようとしている”。
⸻
その夜。
仮設キャンプのテントで、ユノはひとり古い記録データを読み込んでいた。
数世紀前に残された調査ログ。
そこに、気になる記述があった。
――『古代文明は星と共に生きていた。星核に意思体が宿ると信じられていた』
意思体。
守護者。
星と感応する存在。
ユノは震えた。
マグニ――あの名を呼んだ声。
あれは本当に、星に宿る何かだったのだ。
データを読み進めると、映像ファイルがひとつだけ残っていた。
荒く劣化したホログラムがテントに投影される。
そこには、溶岩の光に照らされながら祈る古代の人々。そして背後に、巨大な影。輪郭は曖昧で、熱でゆらぎ、形を確かめられない。
だが――目だけははっきりと光っていた。
ユノは息を呑む。
胸の奥が、再び熱くなった。
あの時の声と同じ温度だ。
「……あなたが……マグニ……?」
その瞬間、ホログラムの影がこちらを向いた。
錯覚かと思ったが、次の瞬間、映像は破損したように暗転した。
ユノの心臓が跳ねる。
見られた――そんな感覚が全身を貫く。
⸻
翌朝。
タキがユノを呼びに来た。
「ユノ、企業本部から通信だ。お前の“感応”について話したいらしい」
ユノの背筋に冷たいものが走る。
星は警告している。
人は開けたがっている。
その狭間で、ユノはどちらの声を信じるべきか揺れていた。




