第3章−2 星脈のざわめき
遺跡の奥へと進むにつれ、空気が変わった。
湿気の重さではない。音だ。
――いや、音というより「脈動」。
ユノは足を止めた。胸の奥に低く響く鼓動。それは彼女自身の心臓とは別の、もっと大きな存在の拍動だった。
「ユノ? どうした」
後ろからタキの声が飛ぶ。
ユノは口を開きかけて、しかし言葉を失った。
言ってしまえば、きっと彼らは笑う。
あるいは、もっと深く踏み込み、遺跡を壊してしまうかもしれない。
だが――。
次の瞬間、遺跡の壁がぼんやりと赤く光り出した。
「おい…反応してるぞ」
「誰も触ってねえよな?」
隊員たちがざわめく。
光はやわらかく脈打ち、ユノの胸の鼓動と同期しているかのように見えた。
彼女が一歩近づくと、さらに強く、深く。
その時だった。
――……くるな……
声がした。
耳からではない。頭の奥、夢の底のような場所。
とても古く、沈んだ、しかし怒りにも似た震えを纏って。
ユノは息を呑む。
「今……聞こえた?」
思わず漏らすと、隊員たちは顔を見合わせた。
「何も聞こえねぇよ。幻聴か?」
タキだけが心配そうに眉を寄せた。
ユノは首を振る。違う。
あれは幻ではない。
――……まもれ……しんかく……
まただ。今度は熱を帯びた圧が、胸に突き刺さる。
ユノは膝に手をつき、呼吸を整えた。遺跡の壁は強い光を発し、床の紋様が浮上する。
「ユノ、離れろ! 何か起きる!」
タキが腕を掴むが、ユノの足は地面に縫い付けられたように動かない。
――……かぎ……ひらくな……
その言葉とともに、中心の石版が音もなく宙に浮き上がった。
まるでユノを見つめるように、薄く回転しはじめる。
「これは……遺跡が“起動”してるのか?」
「星核反応の波長と一致。あり得ない……!」
隊員たちが計器に叫ぶ。
だが、ユノだけは知っていた。
これは単なる機械の作動ではない。
**“何かが目覚めるのを嫌がっている反応”**だと。
ユノは震える声でつぶやいた。
「……あれは警告してる。何かが、この星の奥で……」
その時、壁に走った光が一斉に収束し、低周波が洞窟全体を揺らした。
ユノの視界が白く弾け、熱と声が同時に押し寄せる。
――……マグニ……
はっきりと名前が聞こえた。
次の瞬間、光はふっと消え失せ、遺跡は何事もなかったかのように静寂を取り戻した。
ただユノだけが、両手のひらに残る熱と、確かに「誰かに触れられた感触」に震えていた。




