第3章‐1 揺らぐ隊、迫る影
遺跡の入り口から撤退した直後、
デルタ採掘班の臨時拠点は重苦しい空気に包まれていた。
医療テントの中で意識を取り戻したユノに、
カシアが椅子を引き寄せて座る。
「……ほんとに大丈夫なのね?」
「はい。熱中症でも酸欠でもないと思います」
ユノはそう答えながら、
胸の奥でまだ微かに響く“鼓動”を感じていた。
(マグニ……)
名前を思い出すだけで、
皮膚の下を熱が走るような感覚がよみがえる。
だが、その余韻に浸る暇はなかった。
テントの幕が乱暴に開かれ、ラグスが現れる。
「カシア、ユノの身体が無事なのは確認した。
次は“何が起きたのか”を説明してもらおうか」
ユノは無意識に息を詰めた。
「遺跡内部での異常反応、設備の起動……
お前が何か装置を動かしたんじゃないのか?」
「私は……何もしてない」
ラグスは鼻で笑う。
「じゃあなんでお前だけが“光に包まれた”んだ?
説明できないなら、企業本部へ報告させてもらう」
カシアが倒れかけたユノを庇うように前に出た。
「ラグス、ユノを責めるのは筋違いよ。
彼女は被害者で、原因は遺跡側にある。
まずはデータ分析が先だわ」
「データより優先すべきは利益だろう?」
ラグスの声は刺々しい。
「本部から連絡が入った。
結晶採掘は“予定どおり継続しろ”だとさ。
遺跡は……“障害物”扱いだ」
カシアの目が見開かれる。
「まさか……破壊するつもり?」
「状況次第ではな。
あんたも知ってるだろ、あの結晶は莫大な金になる」
ユノの心臓が跳ねた。
(結晶を壊されたら……星核が、星が……)
マグニの警告が脳裏をかすめる。
言わなくちゃ――
伝えなきゃ――
(でも……信じてもらえる?
“星の声が聞こえた”なんて……)
カシアが静かにユノの手を取る。
「ユノ。あなたが見たもの、聞いたもの……
話せる範囲で言っていい。私が責任を持つから」
ラグスが舌打ちする。
「くだらない幻覚の話なら時間の無駄だ」
「黙りなさい、ラグス」
カシアの声は低く鋭かった。
ユノは唇を噛む。
テントの外では風の音のように、地面が低く唸っている。
(あれ……地鳴り?)
微かな揺れが足元に伝わる。
遺跡のある方向から、熱波が流れてくる。
「……カシアさん。
言います、私……遺跡の中で……」
喉が乾く。
でも言わなきゃ。
「“誰か”の声を、聞きました。
正確には……“星”の声です」
ラグスが即座に噴き出した。
「ほら来た、幻覚だ」
だがカシアは否定しなかった。
真剣な目でユノの話を促す。
「続けて」
ユノは小さく息を吸った。
「遺跡は……“星核の制御装置”です。
そして……採掘している結晶は……星核の一部なんです」
「そんな馬鹿な――」
ラグスが叫びかけたそのとき。
ドンッ…!!
地面が強く揺れ、テント内がざわつく。
「地震!?」「マグマ流が変動してる!」
外から隊員たちの悲鳴が聞こえる。
カシアはユノを守りながら、ラグスに鋭く言った。
「見なさい! これが“馬鹿な話”かどうか!」
揺れは短かったが、確実に“遺跡方向”が震源だった。
ユノの心臓が速くなる。
(マグニ……急いでって言ってた……
星核が、本当に限界なのかもしれない)
揺れが収まった後、ラグスは汗を拭うように呟いた。
「……遺跡の調査は続ける。
本部に追加報告は必要だ……
ユノ、お前には“検査”を受けてもらう。
何を隠しているか、調べる必要がある」
ユノは胸が凍りついた。
検査。
それは“感応者”という異能を暴かれる可能性を意味する。
(捕まる……?
利用される……?
それとも……口を塞がれる……?)
カシアはラグスの胸ぐらを掴んだ。
「ユノに手を出したら――私があなたを止める」
ラグスはカシアを睨み返す。
「なら上に報告するまでだ。
“感応異常を起こした隊員がいる”とな」
ユノの呼吸が浅くなる。
外では、遺跡の方角が赤く脈動していた。
まるで巨大な心臓がゆっくりと鼓動しているように。
(どうしよう……
私……選ばなきゃいけないの?)
ユノの耳の奥で、
かすかにマグニの声が揺れた。
――急げ。
――星が、崩れていく。
ユノは痛いほど拳を握った。




