第3章−3 《アストラの訓練:暴走の正体》
翌朝。
マグニの薄紅色の夜明けが、街の縁を燃やすように照らしていた。
ラヴィはアストラと約束した廃墟の高台へ向かった。
地表のマグマが川のように流れ、熱風が吹き上がる。
その中でも、ひときわ高い空気の“流れ”がある場所。
アストラが「ここなら安全だ」と選んだ訓練場だ。
アストラはすでに来ていた。
白銀の髪を熱風に揺らし、ラヴィに微笑む。
「来たね、ラヴィ。じゃあ──今日は本気で向き合おうか。」
ラヴィは緊張で唾を飲み込んだ。
「暴走……治せるかな?」
アストラは首を横に振る。
「治すんじゃない。
正体を知るんだよ。
暴走は“悪いこと”じゃない。
ただ方向がわからないエネルギーなだけ。」
ラヴィは息を呑む。
アストラは足元から赤い粒子を取り出した。
マグニの大地そのものから抜き取ったような結晶だ。
「まずは、これを感じてみて。」
ラヴィは結晶に触れた瞬間、
胸の奥の“赤い脈動”と共鳴した。
——ドクン。
地面が震えた。
アストラは表情を変えず、ゆっくり説明する。
「君の力は、マグニの“核音”。
星の心臓のリズムを受信する能力だ。
でも今の君は、そのパルスに“自分”が混ざってる。」
「自分……?」
「君の感情だよ。
恐怖、焦り、罪悪感……全部が一緒に増幅されて、
結果として“暴走”になる。」
ラヴィはハッとした。
昨日、母を傷つけた時──
自分が自分じゃないみたいだった。
アストラはゆっくり歩きながら言った。
「だから大切なのは、力を抑えるんじゃなくて……
“誰の声”を優先するか決めること。」
アストラは指を鳴らす。
すると、周囲に浮かぶように
“赤い音の糸”が無数に現れた。
地面、空、遠くの火山、そして星の核から──
全てが“声”として流れ込んでいた。
ラヴィはうずくまる。
「こんなに……私、いつもこれを……全部……?」
「そう。
君はずっと一人で聞いてたんだ。
でも、今日は違う。」
アストラはラヴィの背に手を置いた。
「僕が“分ける”のを手伝う。」
アストラが手をかざすと、
音の糸がゆっくりと分類され始めた。
◆ 星そのものの鼓動
◆ 外部エネルギーの侵入
◆ 生き物の微弱な生命反応
◆ マグニの“子ども”の脈動(胎動)
◆ ラヴィ自身の感情
ラヴィは目を見開いた。
「これ……全部、わかる……!」
「そう。暴走の正体はね……
“自分の声”と“星の声”が混ざることによる混線事故なんだ。」
ラヴィの脳裏がクリアになっていく。
昨日の暴走も、幼い頃の事故も、全てが繋がった。
「じゃあ……私は……」
アストラは優しく言った。
「ラヴィ、君の力は危険じゃない。
むしろ、星を守るために必要なんだよ。
混ざらなければ、君は星の核を“導く側”になれる。」
その時だった。
空気が揺れた。
遠くの空に、巨大な企業の輸送船が現れたのだ。
黒い機体に光るロゴ──ソラリス。
アストラの表情が一瞬硬くなる。
「……来たか。」
ラヴィは唇を震わせた。
「来た……って……まさか、私の……?」
アストラは静かに答えた。
「ラヴィ。
君の力は、企業にとって“資源”だ。
彼らは“星の子”を守ろうとしてるつもりだが……
方法が間違ってる。」
高空で輸送船が編隊を組む。
ラヴィは小さく息を吸った。
「逃げるべき……?」
アストラは首を横に振った。
「いいや──
戦う準備をしよう。“誤解”を解くために。
君の力は、もう怖くない。」
ラヴィの瞳に、初めて“自分の意志”が宿った。
——来るなら来い。
——私はもう逃げない。
マグニの朝が、ゆっくりと赤く燃え始めた。




