別冊第3章−1 《企業エージェント:オルドの影》
静寂を切り裂くように、薄暗いブリーフィング室の扉が開いた。
ソラリス・エネルギー社、戦略監査局。
そこに立つ男は、重力場にでも押しつぶされているかのような圧をまとっていた。
オルド・キリアン。
企業最上位階級《監査特務官》──通称“黒い帳簿”。
企業の不正や危険を“裏側”から処理する存在だ。
「収集部隊が……全滅?」
オルドは淡々と報告に目を走らせた。
「いえ、死亡はありません。ただ、強制開放に失敗し……何か“赤い光”に弾き飛ばされた模様で」
「赤い光?」
副官が震える声で続ける。
「はい。“遺跡の扉が意志を持って拒絶したようだった”と。
ただのエネルギー反応とは思えないと」
オルドは書類を閉じた。
「この星には《古代エネルギー体の幼生》が存在する。
まだ確証はなかったが……どうやら本当らしい。」
副官が息を呑む。
「幼生……それはつまり、生体エネルギー炉の“核”のような存在では?」
「違う。もっと価値がある。
“育てば星そのものを創るコア”だ。」
副官の顔色が変わった。
「そんなものが……企業が手に入れれば……!」
「……戦争の勝敗すら変えられる。」
オルドは立ち上がる。
「行くぞ。現地に。
《リング・ヴォルト》の全記録を確かめる。
そして──」
彼の口元がわずかに歪んだ。
「幼生を確保する。
“暴走する前に保護する”……それが企業の正義だ。」
副官が小さくうなずく。
「では……対人交渉班も連れて行きますか?
この星には“星の声が聞こえる少女”がいると……」
「必要ない。
声が聞こえるなら、なおさら危険だ。」
オルドの瞳が冷たく光った。
「星の声は、星そのものを狂わせる。
だからこそ“企業が導くべき”だ。」
彼らの船が発進した。
マグニの“誤解”と
企業の“誤解された正義”が
いま動き出す──。




