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    竜王の巫女(4)


「――それで、何をしに来た」


氷を詰め込んだような声音に対するのは、やけにのんびりとした明るい声。


「やだなぁ、久しぶりに会ったんだから、もう少し喜んでくれてもいいんじゃない?」


愛しい父上の帰宅だよ、と続いた言葉に、空気が変わった。

……千希にとって、人生ではじめてだった。

空気が凍る、という体験をしたのは。

今まで彼らと接していた際に、何度となく冷ややかな視線を向けられてきたが、それでも所謂『絶対零度』の空気を感じたことまではなかった。それに近いものはあったとしても、だ。


「……こんな夜更けに現れたと思ったら、よくもまあぬけぬけと…」


あ、まずい。

かなり御立腹だ、とエクエスの様子にたじろぎ、思わず少年から遠ざかった所で、ウィオラが動いた。

千希にとっては大分慣れ親しみ、思わず身をすくませる音が鳴り響く。

光る稲妻、降る雷鳴。

いつもよりも更に規模の大きなそれは、寸分違わず少年に降り注いだ。


『えぇっ…!?』


危うく自分も巻き込まれる寸前。どう考えても致死量のそれに驚愕し、幽霊ながらも器用に顔を青ざめたて更に後退した千希が目にしたものは、感電し焼け焦げた幼い肢体――ではなく。


「相変わらず愛が過激だなぁ」


お父様困っちゃう、なんて、頬を染めて掠り傷一つない少年の姿だった。

腰の剣に手を掛けたエクエスと、再度攻撃を仕掛けようとするウィオラ。殺気だつ側近達を諫めたのは、他でもない王の声であった。


「エクエス、ウィオラ、やめろ」

「――シュリュセル様……」


敬愛する主に言われては、止める他ない。

眉間に皺を寄せながら、姿勢を改めた二人を見て、その動作が似ていることに気づく。

きょうだい。

そう言われれば、外見は似ていないけれども、言動に近い所はあった気もする。

しかし、名字が違うのは何故だろう、と不思議に思いながらも、何も言わずに彼らのやり取りを傍観することにした。

藪をつついて蛇を出すのは愚かなことだ。

それに。

血の繋がりも名の縁も無くとも、きょうだいと呼べる者がいることはある。

――ただ一つ、地球に心残りがあるとすれば、それは残してきた者達のことだった。


「オル。じゅんれいのとちゅうだったのでは?そなたがもどってきたのはおじいさまのそうぎのときいらいだが、なにかあったのか?」

「シュリュセル様、お久しぶりです。この度は戴冠おめでとうございます。ご挨拶の前に親子の触れ合いを先に済ませて失礼しました」


優雅に一礼すると、オルサフィーニスは微笑みを深める。


「いやいや、僕の可愛いシュリーの巫女が特殊だって聞いて、気になって来ただけだよ」


急に元の砕けた口調になると楽しげに言う。


「でも面白いねぇ。界迷者でありながら肉体を持たずにやって来て、竜の半身だったなんて。――もしかして、女神の慈悲が影響してるのかな?それとも魂は界を越える位でありながら肉体がそれに等しくなかったのか――」


ぶつぶつと何やら思考を巡らせているのはわかったけれど。

はあ、と嘆息したシュリュセルは、断固とした口調で告げた。


「――オル。もうよふけだ。はなしはあすいこうにしよう。へやをよういするようにつたえるからまっていてくれ」


探究心もそこそこに、と言うシュリュセルに、ありがとうと笑みを見せたオルサフィーニス。

だが、ウィオラが私が伝えてきますと踵を返し、シュリュセルがエクエスに強引に部屋に戻されても、侍女が準備が出来たと呼びにくるまでずっと、少年にしか見えない人物は、何やら熟考し続けていたのであった。


ちなみにこんな夜中に現れた理由は、ハル曰く、単に軽い方向音痴に加えて、気を引かれるものがあればふらふらとつられてしまう性格だからだろう、ということだった。

自称父親と言うからには、子ども達からの扱いがあんまりな謎の人物と知り合った日のことだった。



数年ぶりですみません…。

働き出してから創作が進まず…。今回も短いですが、よろしくお願いします。

また時間が出来て筆が進みましたら。

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