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三洲華大学クトゥルフ神話探偵部  作者: 向陽日向
第二章 イタクァの夢
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容疑者候補たち

 翌日の十月八日金曜日の朝、月山ひかるのスマホに広野春子から連絡が入っていた。


 それによると、該当する教員が三人いることが判明したという。

 つまり犯人候補は三人。顔を洗った後、返信にスタンプを送信した。

 この内二人の講義が今日の午前中と午後、最後の一人は週明けの月曜日に講義があるというので早速受けることにした。


 普段のスケジュールと一部被るが、事件解決のためなら出席印の一つくらいくれてやる覚悟だった。最悪、丸瀬らと一緒に補習を受けたっていい。一方の青地夏美は実習との兼ね合いにより、来週月曜の講義のみ出席できるとのことだった。


 最初の容疑者候補は国際語学の横大路和郎(よこおおじかずろう)教授だ。五十代半ばで、少ない髪の七割ほどが白髪に覆われている。鼻の下の髭が口角まで達していて、これにも白いラインが混じっている。赤いネクタイを締め、烈火の如く黒板にチョークを走らせている。

 文系講義だが他学科の授業とあって、ひかるは隅の席で大人しく座っていた。


 しばらくして疎外感を覚え、暇つぶしがてら写すことにした。語学とあったが文法の話は控えめで、各国の標準語の分類や歴史などに特化した講義で、最終的にルーズリーフ五枚分の大作となった。

 かなりの労働だったので、見返りにと出席印をもらうことにした。被って出られなかった必修講義の代わりになればいいのだけれど。


 他学科の学生と知るや横大路教授は「知見を広げる姿勢、大変よろしい」と感心した。容疑者候補だとその時に思い出し、やや戸惑った会釈を返すのみに留めた。

 ちなみに出席印は、眼鏡をかけて二本の髭を生やしたオヤジキャラのようなユニークな印だった。


 二人目の候補は一年次の必修科目だった基礎心理学で、担当は筑井伸人(つくいのぶと)助教だ。フサフサの黒髪に所々白髪が混じり、薄青のワイシャツを着た細身の体格の教員だ。横大路教授とは真逆の講義スタイルで、黒板と教卓の間から一歩も動かず、配ったパワポ資料の解説を念仏のように続けるのみだった。大半の学生は夢の中だ。去年の自分を見ているようで可笑しかった。持参したブラックコーヒーを飲みながら耐え凌いだ。


 単位は取得済みなので出席印を貰う必要はないが、一度も寝ずに過ごしたのは初だったので記念に貰うことにした。筑井助教は流れ作業のように目を伏せたまま捺印した。ちなみに出席印は星を象ったものだった。


 週明けの十月十一日の月曜日、一コマ目終了後に夏美と合流し、二コマ目に開かれている最後の候補者の講義を受ける。

 社会福祉学の蓮塚正道(はすづかまさみち)教授だ。長く伸ばした黒髪を一つに結った男性教員だ。板書することは滅多になく、書いても単語を数個程度。自らが監修した教科書を淡々と読み上げるだけとあり、こちらも大半の学生をダウンさせている。


 出席印を見ると、全体で『X』を象っていて、中央の交点から二本の触手のようなものが伸びている。質問してみると「蝶々です」と返ってきた。講義中含め、嬉しそうに微笑んだ唯一の瞬間だった。


 その日の昼、集めた三つの出席印を何となく眺めながら夏美と昼食を共にする。ハスター崇拝者なら出席印に忠誠を誓う印を使用していてもおかしくはないが――。


 場所は学ホで、昼時とあって中は込み合っている。あと数十秒入るのが遅かったら席を取れなかっただろう。ちなみにひかるはスマホの録音機能を使い講義を録音していたのだが、三人とも脱線することはあれ、不審なところは見受けられなかった。

「この星形の印、怪しくない?」


 夏美はおにぎりを一口頬張り、筑井助教の出席印を指差す。自分で握ったらしく拳骨並に大きい。そのくせ、紺色のレギンスで強調された脚はびっくりするくらい細い。

 しばし夏美に見惚れた後、ひかるは卵のサンドイッチを一口食べる。玉子の風味が呼び水になったかのように、筑井助教の出席印をどこで見たのか思い出した。


「これ、エルダーサインだ」

「なにそれ?」

 ひかるは前内講義で培った知識を夏美に伝える。こちらでの最初の犠牲者である斉田が所持していたキーホルダーも似たような形をしていた。


「つまり筑井助教はクトゥルフ崇拝者ってこと?」

 呑み込みの早い夏美の質問を受け、矛盾点に気づく。

「そっか……仮にそうだとすると、イタクァの条件とは真逆になっちゃうな」

 クトゥルフとハスターは敵対関係にあるのだ。ハスター陣営のイタクァがクトゥルフ陣営のマークを所持するとは考えづらい。


「他の講義は普通だったの?」

 これには自信を持って頷くひかるだった。録音を聞く限り、怪しい点はない。

「それでも、寝ている子もいたんだよね?」

「うぅ……確かに」


 さすがに寝ている学生の意識まではわからない。いつの間にか【夢の国(ドリームランド)】へ誘われていたとしても――。

 ごちゃごちゃした頭を振り、残りのサンドイッチを平らげる。


「とにかく! 前内くんに聞いてみよう。なつみん、今日は何コマある?」

「四まで! ひかるんは?」

「同じくっ!」


 四コマ目終了後、春子の研究室を訪ねることでまとまった。

 ひかるは気合を入れようとブラックコーヒーを勢いよく流し込み、思い切りむせた。

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