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見えない刺青  作者: ゆずさくら


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 晶紀達が通っている真光学園では、部活動などで使用するように体育館の近くにシャワーの施設がある。

 今は、ほとんど生徒が登校していない時間帯であり、かつ朝練がある部活の生徒も、練習前の時間に朝からシャワーを浴びるものは少なかった。したがって、晶紀達三人だけでシャワールームを独占している状況にあった。

 佐倉はさっさと裸になって、洗濯機に自らの下着をいれた。

「ほら、さっさと下着を脱げ。洗濯して、乾燥しなければならないぞ」

「……」

 佐倉の言葉に、晶紀と知世は顔を見合わせた。

 お互いが視線を交わしていて、先に脱げない状況を作り出していた。

 しかし、佐倉が晶紀の背中に手を伸ばして来てブラのホックを外してしまう。

「わっ!」

 慌てて腕でブラを押さえると、

「脱ぐよ。自分で脱ぐから、そういうことしないで」

 そう言って、知世の方をチラリとみた。

 二人はなんとなく、同時にうなずく。

 知世も後ろに手を回して、止めを外し、ブラを外した。晶紀が目を見開くと、知世は腕で胸を隠しながら、視線を逸らす。

 佐倉が知世の背後に回り、

「おお、知世の胸は初めて見るな」

「きゃっ」

 と言って、佐倉が触れる前に知世はしゃがみ込む。

「佐倉。何するんだよ、おとなしくしてよ」

「昨日はまともに歩けないほど霊力がぬけていたのじゃから、知世も触診して確かめないといかん」

「前から疑問なんだが、佐倉。本当は触らなくても様子はわかってるんじゃないのか」

 知世からは見えないように顔を晶紀の方に向けると、ニヤリと笑った。

「おぬしのように体のけがを見るにはやはり触診するのが一番じゃな」

「……」

 晶紀も自身の体を抱きしめるように腕を体にぴったりと付けた。

「冗談はよしてくれ」

「じゃから、早く下着を渡せ。洗うにも、乾燥させるにも時間がかかるといっとるじゃろ」

「う、うん。着替えるから、佐倉は少し離れててくれないか」

 佐倉が言われた通りに二人と距離をおく。

 知世が立ち上がって、二人は顔を見合わせる。

 下着を脱ぐには、腕で隠している胸をさらさなければならない。

 晶紀は知世の腕の下にある二つのふくらみと、谷間を見つめていた。

「晶紀さん、あの…… あまり見つめないでください」

「あ、いや、そういうわけじゃ」

 いや、そういう訳なんだが、と思いつつも、晶紀は視線を天井の方にずらす。そして、自ら腕を伸ばし、胸をさらす。

「こ、これでいいかな?」

「……」

 晶紀は自分の下着に手をかけるが、何か知世の視線を感じる。

「あっ、ずるいよ知世」

「ご、ごめんなさい。私としたことが」

 知世も慌てて顔を上に向け、両手を下着に掛けた。

 晶紀は視線を天井へ向けつつも、最大限視野周辺に意識を集中させる。知世の…… 知世の体。一糸まとわぬ、生まれたままの姿。

 白い肌、背中はうっすら背骨のふくらみがわかり、くびれのラインから、形の整った桃のようなお尻が見える。

 お互いが視線を交わしながら、下着をたたむと、両手両腕を使ってさまざまな恰好をとって体を隠しながら進み、佐倉に手渡す。

「……まったく、いつまでかかっとるんだ。さっさと洗濯を始めるぞ」

 佐倉は無造作に下着をまとめて放り込むと、洗剤をセットして、洗濯機を動かし始めた。

「さ、シャワーを」

 佐倉が戻ってきて二人の肩に手を置いて、シャワールームへと移動した。

 シャワー室は、互いの体が見えない程度の仕切りで区切られていて、それぞれの場所にシャワーが突き出ていた。

 全部で五か所あったが、佐倉が右端のシャワーを使い、知世がその左隣に、晶紀が知世の隣に入った。

「冷たっ!」

 いきなり全開してしまった晶紀は冷たい水が出てきて驚いて声を出す。

 知世はまず長い髪を濡らし、シャンプーで髪を洗い始める。

 晶紀は一通りシャワーを浴びた後、ボディソープで体を洗った。

 髪を洗い終わった知世が、晶紀に言う。

「お背中流しましょうか」

「えっ……」

 これは知っているシチュエーションだ、と晶紀は思った。お背中を流す、つまり背中を洗ってくれるのだが、その時に『おっと手が滑った』ということで前を触ってくるのだ。知世がそんなに大胆だとは思わなかった。

「よ、よろこんで」

「?」

 知世には聞こえなかったのか、意味が通らなかったか、反応がなかった。晶紀はもう一度言う。

「お願いしますっ!」

 両手を上げて目をつぶった晶紀の背中に知世が回り込むと、タオルを受け取り、知世が晶紀の背中を洗い始めた。

 ドキドキしながら、知世が前に手を回してくるのを待っている。

 その時、

「あの、洗い終わったら、私の背中も流していただけますか」

「!」

 晶紀は目を開き、後ろをチラリと見ると言った。

「お願いしますっ!」

「えっ?」

「あ、いや、よろこんで」

「……」

 背中を洗いながら知世は、晶紀の横顔を不思議そうに見ていたが、意味は伝わったようだった。

「じゃあ、この後、お願いしますね」

 晶紀は正面に向き直って薄目を開け、知世の手が前にまわってくるのを待ち続ける。

 そして、スッとボディソープで泡だったタオルが前にくる。

 来たっ! 間違いない、ここで『おっと手が滑った』だ。晶紀は思った。

「はい。タオルをお返ししますね。じゃあ、今度は私の背中を洗っていただけますか」

 あれっ、なにか話が…… 違うような…… 晶紀は首をひねった。いや、やるのはいやだけど、ヤラレたいのかも知れない。

 晶紀はタオルを受け取ると、仕切りの板に掛けた。

 今度は知世のタオルを持って、晶紀が知世の背中に回った。

 しっかりと泡立てると、知世の背中にタオルを……

 美しい。晶紀は思った。晶紀のように鍛えて肩に筋肉がない分、腰の幅へ結ぶ線は、女性特有のAラインを体現しているかのようだ。

 血管が見えるほどではないが、日焼けしないタイプの人によくある白い肌はつややかで張りがあった。

「あ、あの……」

 知世が肩越しに晶紀を振り返る。

「あまり見つめられると恥ずかしいですわ」

「ご、ごめん」

 慌ててタオルをあて、背中の上をゆっくり動かし始める。

 ああ、タオル越しにではあるが、知世の肌に触れている。晶紀は感動していた。

 夢中になってタオルを動かしていると、背中を洗い終えてしまっていた。晶紀は焦った。この状況から知世に対して『あっ手が滑った』としていいのだろうか。完全に肘を曲げて胸は隠しているし、一方の手は真っすぐ下ろされていて、感じんな部分はブロックされている。そこを無理やり手が滑って触ってしまうのは、強引すぎないだろうか。

 そんなことを考えながら、じっと知世の背中を見つめていた。泡が下へ流れ落ちていく。綺麗な肌……

 と、晶紀は頭を叩かれる。

「こら、背中を洗いながら欲情しとる場合か」

 隣から佐倉が睨んでいた。

「痛っ」

 知世が空気を読んで半身振り返ると、晶紀からタオルを受け取った。

「晶紀さん、ありがとうございます」

「知世。ちょっとこっちを見ろ」

 佐倉が言うと、知世は少し佐倉の方に近づいた。

 仕切り板越しに佐倉が知世の瞳の奥を覗き込むかのように顔を近づけていく。

 キスするのか? 晶紀は焦る。

「何やってんだよ、佐倉!」

「霊力が戻っているかを確かめておるんじゃ。霊力の状況を見るには澄んでいる瞳で確認するのが一番手っ取り早い」

 知世も知世だ、と晶紀は思った。まるで『キスを待っています』とばかりに胸の前で手を合わせ、顔を上に向けるから、こっちが誤解する。

「どうでしょうか」

「うん。戻っておるな。もとの霊力の量を正確にはしらないのじゃが、すでに平均的な人よりも倍ぐらい多いぐらいになっている。なにか、反動があったのかもしれんな」

「反動って?」

「反動と呼ぶべきか、超回復と呼ぶべきか。つまりは霊力を奪われて空白になった部分を埋めるため、より強く霊力が流れ込むようになったり、自身の霊力の回復が強く働き、最初よりも霊力が多くなったりすることがあるのじゃ」

 いや、それだけだろうか。これはもしかして…… 佐倉は思ったが、それを口に出すことはなかった。

「晶紀も覚えておけ。訓練でも実践でも、限界を超えて霊力を使った後、逆に霊力の総量が増え、以前より強くなるということを」

「……はい」

 晶紀が返事をすると佐倉は晶紀の所に回り、手首を取った。

「痛いか?」

「いいえ」

「じゃあ、足もみせるのじゃ」

 佐倉が晶紀の前でしゃがみ込むと足首に触れた。

「あっ……」

 晶紀の声を聞いて、知世がシャワーの仕切りから、パッと顔を出す。

 それをチラッとみて佐倉は慌てて弁明する。

「痛めた足をみておるだけなのに、妙な雰囲気の声を上げるな、誤解されるじゃろ。それとも、まだ痛むのか?」

「いえ。くすぐったいだけです」

「足首が?」

「……」

 佐倉の髪が、お腹にあたってくすぐったいのだが、言うに言えなかった。

「よし。こっちも問題なしじゃな」

 佐倉はタオルをギュッと絞ると、体を拭いてシャワー室を出て行ってしまった。

 晶紀は佐倉が出て行くのを見届けた後、振り返った瞬間、知世と目があってしまった。お互い、視線をどこに向けていいのか分からなくなり、顔を赤くした。

「私たちも、早く洗って上がろう」

「はい」

 その後は一切お互いの方を向かずに、二人は残りの部分を洗い終え、シャワー室を出た。




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