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「がはっ、ようやくか……」
言いながら視線を降ろす俺。
見えるのは骨の体。
中心部には赤く輝く球状の核が存在する。
これは魔物の心臓部とも呼べる代物で、魔核と呼ばれている。
その核を一本の剣が貫いていた。
「なぜだ! 実力はお前の方が上だった。それがどうして……。手を抜いたりしたんだ!」
俺に剣を突き刺している鎧を着た青年が驚いたように口を開く。
なるほど、気が付いていたのか。
腕の立つ剣士なだけあって、観察眼は優れているようだ。
終わらせてくれたお礼といったら変かもしれないが……。
質問に答えてやるとしよう。
「早い話が疲れてしまったのだ。魔物として生まれてから戦いの連続。最初の頃は強くなる楽しみもあったが、今はそれも無い。我は魔物だから、他に出来ることもないしな……」
俺は【不死王】と呼ばれるアンデット系最強の魔物。
この世界で魔物とはどういった存在なのか……。
端的に言えば戦って強くなることを目的とした生物。
邪悪で、人型種族からすれば敵対すべき相手である。
そんな魔物が手を抜いて戦ってきたことを、青年は不思議に思ったというわけだ。
「ふざけるな! 俺は守るための力が欲しくて、死に物狂いで剣を振るってきた! なのに、これほどの力を持っていながら……。お前はそれを捨てるというのか!」
「そう声を荒げるな。安心しろ、お前は十分に強い。少なくとも、我が戦ってきた人間の中では一番だ」
「…………」
俺の言葉に青年は表情を歪めて押し黙る。
改めて見ると、ファンタジー漫画に出てくる貴族の貴公子のようだ。
金髪碧眼。
精悍で整った顔立ちをしており、スラっとした体型で背も高い。
しかし、その鋭い瞳は濁っていた。
仲間はいなく、たった一人……。
人間はおろか魔物すら寄り付かないこの森へとやって来たのだ。
恵まれた容姿とは裏腹に、凄絶な過去を背負っていることが窺えた。
それにしても奇妙な状況だ。
剣をぶっ刺された状態で、その刺した相手と会話をしている。
「もしかして、お前は元人間なのか?」
「ほう、よく分かったな。我は元人間だ。その頃の記憶もしっかりと残っている」
最も、この世界で生まれた人間ではない。
地球という惑星の日本という国で生まれた。
この世界からすれば異世界人だ。
俺は青年に返事をすると同時、過去を思い返す。
日本で暮らしていた頃の俺は持病のせいで大半を病院で過ごしていた。
病気が治らない中、俺の心の拠り所はゲームと漫画だ。
転生の影響か、魔物という生物の特徴か……。
昔のことははっきり覚えているんだよな。
俺はアンデットモンスターになってから五百年以上もたっている。
過去を覚えてるのって何気にすごいことかもしれない。
そんな流れで、俺は前世でよく読んでいたファンタジー漫画の内容を思い出した。
魔物が知性を持っていて魔物同士で交流したり。
あるいは人とも手を取り合って過ごすような作品もあった。
しかし、現実は非情である。
この世界に知性のある魔物なんて俺以外に存在しない。
おまけに俺は強くなりすぎたせいで、体から瘴気が出ている。
魔力を持たない人間では近づいただけで気を失って倒れる猛毒だ。
そんなわけで、この深い森の中でぼっちの引きこもり生活を強いられていた。
「ところで、お前はどうして我が元人間だと気が付いたのだ?」
「俺の力じゃない。……この聖剣が教えてくれたんだ。お前の中に、人間と同じ魂があるとな」
青年の視線が手に持った光輝く剣へと移る。
口ぶりから察するに、意志があるのだろうか?
やはり、普通の剣では無いな。
青年が剣を引き抜くと、ボロボロと体が崩れ始める。
神話の時代に神を討ち倒した聖武器があった。
それさえあれば、不死性を持つ俺であっても消滅させることが出来る。
以前戦った騎士がいまわの際に口にした言葉だ。
まさか現実になるとはな。
「最初から分かっていれば、戦うこともなかった」
振り返った青年は、ぼそりと呟いた。
「……気にするな。死は我の望みである。魔物になって長く過ごしたが、やはり我は人間なのだ。戦いだけで生きていくことはできない……」
かすんでゆく視界には、前の世界にも存在した月が見えていた。
樹々に囲まれたこの場所で、消えゆく俺の体を静かに照らしている。
僅かに浮かび上がる心残り。
自分の好きな剣と魔法のあるこの世界で――ただの人間として、ありふれた日常を送ってみたかった。
「…………」
青年は俺の最後の言葉に反応してか、体を反転させて口を開くが。
そんな声も聞こえなくなっていく。
………………。
♦
水中から浮かび上がる瞬間のように。
混濁した意識が晴れていく。
どこからか声が聞こえた。
「お前の名前はノエルだ。ふふ、元気そうだな」
ひょいっと抱きかかえられるような感覚。
視線を泳がすと小さな自分の手が動いている。
なんとなく状況を把握できた。
今の俺は赤ん坊になっている。
なんていうか、あれだな。
また転生したのかよ……!
心の中で突っ込みを入れる。
「ええ、ひとまずは無事に生まれてきてくれて良かったです」
相槌を打つのは母親だろうか。
ぼんやりとしか見えないが、その姿は間違いなく人間だ。
とりあえず、人間として生まれたのは喜んでいいのだろうか?
だが、まだどんな家に生まれたかも分からないぞ。
色々と知りたいところだが、考えているうちに、眠気がおそってきた。
まだ、赤ん坊だからだろう。
瞳を閉じると、そのまま意識は途切れていった。




