第55話:選ぶ側
夜は、静かだった。
必要以上に。
結城透は、ベッドに座ったまま、何もしていない。
時間が止まったような感覚がある。
だが、実際には進んでいる。
確実に。
明日で終わる。
その事実だけが、はっきりしていた。
残り一日。
猶予ではない。
確認だ。
できるかどうか。
それだけ。
透は、ゆっくりと目を閉じる。
何かをしようとしているわけではない。
ただ、考えるために。
ここまでのことを、順番に思い返す。
最初は、何もわからなかった。
出るだけで、止まらない。
理由も、きっかけもない。
ただの現象だった。
次に、原因を探した。
外側にはなかった。
内側にあった。
“何か”という形で。
触れられないもの。
だが、確実に存在しているもの。
そこまでは、来た。
その後。
合わせようとした。
近づけようとした。
結果は、崩壊。
壊すことだけが、できるようになった。
それは違うと、否定された。
そして。
“触れていない”と言われた。
そこから。
やり方が変わった。
触れるのではなく。
触れられる。
その発想に変えた。
何もしない。
ただ、同じ状態になる。
それで、初めて崩れない状態に入った。
そして、今日。
何もしないまま、変化が起きた。
わずかに、薄くなった。
自然に。
干渉なしに。
そこまで来た。
だが。
まだ、終わっていない。
最後の一手が、足りない。
透は、ゆっくりと息を吐く。
焦りは、ない。
不安も、ほとんどない。
あるのは、確認だけだ。
何をすればいいのか。
何をしてはいけないのか。
それは、もうはっきりしている。
操作するな。
壊すな。
無理に合わせるな。
考えるな。
ただ、在れ。
その状態を、保つ。
そこまではいい。
問題は、その先だ。
止める。
それを、どう成立させるか。
透の意識が、静かに深くなる。
答えは、まだない。
だが。
ヒントはある。
“何もしないことで、変化が起きた”。
なら。
終わる時も、同じはずだ。
自分が何かをするのではなく。
“終わる側”が、変化する。
その条件を満たせばいい。
透の呼吸が、わずかに整う。
思考が、一本にまとまる。
ここで初めて、言葉になる。
——選ぶ。
それは、何をするかではない。
何をしないか。
どこまで削るか。
その選択だ。
力を使うかどうかじゃない。
どう扱うかでもない。
“関わり方”を決めること。
それが、選択。
透は、ゆっくりと目を開ける。
部屋は暗い。
何も変わらない。
だが。
中身は、もう固まっている。
迷いはない。
やることは、決まっている。
明日。
同じことをやる。
ただし。
最後まで、“何もしない”。
終わる瞬間まで。
そのままでいる。
それで終わらなければ。
その時は——
その時に考える。
透は、横になる。
天井を見る。
何も考えない。
思考を止める。
明日に備える。
それだけだ。
時間は、ゆっくりと過ぎていく。
止まらない。
戻らない。
だから。
選ぶしかない。
どちら側に立つか。
それを。
明日、決める。
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