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光を背負う少年は、世界を守れない  作者: ゆうなるな


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35/38

第35話:もう隠せない

本作は毎週水曜・土曜の21時に、2話ずつ更新予定です。

師匠が現場に着いたとき、

すでに空気は落ち着かされていた。


割れたアスファルト。

歪んだ街灯。

人々を遠ざける黒い影。


――手際がいい。


「事故処理班」が動いた後の匂いが、

はっきりと残っている。


師匠は、視線を一巡させてから、

一人の少年に目を留めた。


結城透。


救急車の灯りに照らされて、

立ったまま動けずにいる。


肩は強張り、

拳は、まだ震えていた。


「……」


師匠は、何も言わず近づく。


透は、気配に気づいて顔を上げた。


「……師匠」


声が、掠れている。


「怪我は」


「……ありません」


即答。

でも、それは“体”の話だ。


師匠は、それ以上聞かなかった。



少し離れた場所。


相馬恒一は、担架に乗せられていた。


意識は、ある。

だが、目は虚ろだ。


師匠は、その右手を見る。


包帯は裂け、

抑制具は、意味を失っている。


(完全に、越えたな)


一線を。


戻れない側へ。


「……」


師匠は、静かに視線を戻した。


透の方へ。



「出したな」


師匠の声は、低い。


透は、何も言えず、

ただ頷いた。


「止められたか」


透は、首を振る。


「……出せたけど、止められませんでした」


その言葉に、

師匠は一瞬だけ、目を伏せた。


「そうか」


責めるでもなく、

慰めるでもなく。


ただの確認。


「守ろうとして、出したんだな」


「……はい」


透の声が、かすかに震える。


「でも……」


言葉が続かない。


師匠は、続きを待った。


「……俺が出した力で、

 怖がらせました。

 泣いてる人も……」


透は、歯を食いしばる。


「守りたかっただけなのに」


その言葉を聞いて、

師匠は、ゆっくりと息を吐いた。


「だからだ」


透は、顔を上げる。


「だから、もう隠せない」


はっきりとした声だった。


迷いのない、判断。


「今までのは、偶然で済んだ。

 間に合った、で誤魔化せた」


師匠は、続ける。


「だが今のは違う。

 お前は“出そうとして出した”」


透の胸が、強く鳴る。


「それはもう、

 気づいていないふりができる段階じゃない」



透は、唇を噛んだ。


「……俺、どうすれば」


師匠は、即答しなかった。


少しだけ、

考える時間を置く。


「選ばせる」


「……え?」


「力を使うか、使わないか。

 守るか、逃げるか」


師匠は、透を見る。


「どれも、正解じゃない。

 だが――選ばなかった場合の責任は、

 誰も取ってくれない」


透の脳裏に、

相馬の顔がよぎる。


――選べなくなる前に。


「……俺は」


声が、震える。


「俺は、まだ……」


「分かっている」


師匠は、遮るように言った。


「だから今は、

 “止める”ことを教える」


透は、はっと顔を上げる。


「出すな、じゃない」


師匠は、昨日と同じ言葉を口にする。


「出して、止めろ」


前と同じだった。


でも、意味は違う。


「お前が止められなかったものは、

 いずれ、誰かが止めに来る」


その“誰か”が、

どういう存在か。


透は、聞かなくても分かった。


「それが、嫌なら」


師匠は、透の肩に手を置く。


「自分で止められるようになれ」



救急車の扉が閉まる音がした。


相馬が、運ばれていく。


師匠は、最後にそれを一瞥する。


「……時間は、もう多くない」


それは、相馬のことか。

透のことか。


あるいは――

もっと別の何かか。


透は、拳を握りしめた。


怖い。

でも。


逃げたくはなかった。


守りたい場所が、

はっきりと、そこにあるから。


師匠は、静かに言った。


「覚悟しろ、透」


「次は、

 本当に“選ぶ”ことになる」


夜の空気が、

重く、沈んでいた。

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