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光を背負う少年は、世界を守れない  作者: ゆうなるな


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30/36

第30話:戻れない側

本作は毎週水曜・土曜の21時に、2話ずつ更新予定です。

放課後の校舎は、昼間よりも静かだった。


窓から差し込む光はオレンジ色で、

廊下に伸びる影がやけに長い。


透は下駄箱で靴を履き替えながら、

昨日のことを思い出していた。


相馬恒一。

三年生。

軽い口調と、軽くない言葉。


――できない自分に、慣れる。


考えないようにしていたのに、

ふとした拍子に、頭に浮かぶ。


「……気にしすぎだな」


独り言ちて、校舎を出た。



少し離れた別の場所。


人気のない古い運動施設の裏手で、

相馬は一人、壁にもたれていた。


スマホの画面は割れている。

通知は来ていない。


それでも、相馬は画面を見つめ続けていた。


「……まだ、かよ」


小さく呟く。


右手を、そっと握る。

その瞬間、空気がわずかに歪んだ。


コンクリートの壁に、

細いヒビが走る。


相馬は、すぐに手を離した。


「っ……」


歯を食いしばる。


――出すつもりじゃなかった。

――触っただけだ。


それでも、力は反応する。


「はは……」


乾いた笑いが漏れた。


「止められねぇって、こういうことか」


以前は、違った。


強く思えば出た。

集中すれば、収まった。


でも今は――

出さないつもりでも、滲む。


相馬は、ポケットから古い包帯を取り出し、

手のひらに巻きつける。


隠すためじゃない。

“抑える”ためだ。


効果があるかどうかなんて、

もう分からない。



そのとき。


背後で、靴音がした。


「ここにいたか」


低い声。


相馬は振り返らず、

肩越しに答えた。


「尾行は趣味悪いっすよ」


「確認だ」


黒い服の男が、二人。

距離はあるが、逃げ道はない。


相馬は、ゆっくり立ち上がる。


「今日は、何の用ですか」


「経過観測」


「……まだ“管理対象”って言わないんだ」


男は、感情のない声で答える。


「判断は保留だ」


相馬は笑った。


「優しいですね」


「違う」


一拍置いて、続く。


「まだ、処理するほどではない」


その言葉に、相馬の指がわずかに震えた。


「――はっきり言いますね」


「事実だ」


沈黙。


夕焼けが、三人の影を地面に落とす。


「なあ」


相馬は、空を見上げたまま言った。


「もしさ。

 誰かを守ろうとして出た力で、

 壊れたものがあったら」


男たちは答えない。


「それでも、事故ですか」


返事はない。


それが、答えだった。


「……そっか」


相馬は、軽く手を振る。


「じゃ、また連絡ください。

 生きてたら」


男たちは何も言わず、背を向ける。


足音が遠ざかり、

完全に聞こえなくなった頃。


相馬は、その場にしゃがみ込んだ。


「戻れねぇな……もう」


呟きと同時に、

地面の小石が砕け散る。


今度は、止められなかった。



その夜。


透は、家の灯りを見上げて立ち止まる。


いつもと同じ。

守りたい場所。


でも――


相馬の笑顔が、頭をよぎる。


あの人は、

どこに帰るつもりなんだろう。


透は、知らない。


その問いが、

もう自分にも向けられていることを。

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