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光を背負う少年は、世界を守れない  作者: ゆうなるな


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28/38

第28話:出せたけど、止められない

本作は毎週水曜・土曜の21時に、2話ずつ更新予定です。

夕食の時間。


透がいない食卓は、思った以上に静かだった。

母は鍋を火にかけながら、何度か時計を見る。

妹と弟は先に箸をつけている。


「兄ちゃん、今日も遅いの?」


「……そうみたいね」


それ以上、母は何も言わなかった。

透が“作れない日が増える”と言った意味を、もう理解している。


それでも、少しだけ――

いつもの席が空いているのが、気になった。



コンクリートの床に、足音が響く。


「今日は、出せ」


師匠の声は短かった。

前置きも、説明もない。


透は、中央に立つ。

胸の奥にある感覚は、はっきりと存在していた。


(出すだけなら……)


前回、できなかった。

今回は、できる気がする。


そう思った瞬間だった。


息を吸い、意識を集中させる。

胸の奥に溜まっていた“何か”が、反応した。


――出た。


空気が震える。

音もなく、圧だけが広がった。


「……っ」


成功だ。

透は、そう思った。


だが、次の瞬間。


止まらない。


広がった感覚が、引っ込まない。

むしろ、さらに外へ押し出されていく。


「……あれ?」


制御しようとする。

意識を戻そうとする。


でも、反応しない。


(やめろ……!)


床に、細かな亀裂が走る。

照明が、わずかに揺れた。


「師匠……!」


叫びかけて、透は気づく。

師匠が、動いていない。


止めない。

助けない。


ただ、見ている。


「……止まらない……!」


力は、透の焦りに正直だった。

制御しようとするほど、強く脈打つ。


「……っ、やめろ……!」


ようやく、意識が追いつく。

透は必死に、引き戻す。


出す、ではなく。

終わらせることを考える。


数秒。

それとも、もっと短かったのか。


空気の震えが、ようやく収まった。


透は、その場に膝をつく。

息が荒い。


「……出せたな」


師匠が、そう言った。


責める声でも、褒める声でもない。


「でも、止められなかった」


透は、答えられなかった。


「それが、今日の結果だ」


師匠は近づき、床の亀裂に目を落とす。


「力はな、出せるかどうかより――

 終われるかどうかの方が、ずっと重要だ」


透は、拳を握る。


「……俺、ちゃんとやったはずなのに……」


「やったな。だからこそ、だ」


師匠は、透を見る。


「お前は“できた”と思った瞬間、止まる理由を失った」


その言葉が、胸に刺さる。


「守りたい、とかじゃない」

「間に合わせたい、とかでもない」


師匠は、淡々と続ける。


「もっとできると思った」

「それだけで、力は暴れる」


透は、視線を落とした。


怖かったのは、壊れた床じゃない。

自分が止めたいと思えなかった、その一瞬だ。


「……どうすれば」


「覚えるしかない」


師匠は言い切る。


「出して、止める」

「それができるまで、次には進めない」


少し間を置いてから、付け加える。


「今日みたいな失敗は、これから増える」


「……」


「でもな」


師匠は、背を向ける。


「止められなかったのに、

 自分が怖くなったなら――

 まだ引き返せる」


透は、ゆっくり立ち上がった。


胸の奥の“何か”は、まだ静かにそこにある。

消えもしないし、無くなりもしない。


でも。


(次は……止める)


そう思えたことだけが、今の救いだった。


出口へ向かう師匠の背中を見つめながら、

透は、初めてはっきりと理解していた。


――力は、もう戻らない。

――でも、自分は、まだ選べる。


そう信じたかった。

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