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33話 シャルメリアの苦難 

皇城はありとあらゆる警備がなされている。

どこの国でも主権者の身辺はどこも同じではあるのだが、大国ともなるとそのレベルは行き過ぎているレベルだ。

そんな警備をお膳立てと下準備ありきとは言え、ジャスパーは鮮やかに標的であるシャルメリアを連れ去り出してみせた。

褒められた所業では無いが、シャルメリアはその手際の良さに思わず度肝を抜かれる。

気配を消せるギフトや姿を消せるギフトはまま存在するが、この両方を兼ね備えているとなると途端に希少性が上がる。

流石は国王の懐刀である黒豹騎士団のエリートと言ったところか。

何はともあれ、最難関のシャルメリア誘拐が済んでしまえば、後は決められたルートを進むだけであっという間に外に出られる。


(はぁ…殿下の無茶振りには慣れているから、どんなものが来ても構わないけれど、こればっかりはどうしても気が進まないわね)


シャルメリアは鬱々とした思いを抱きながらも、課せられた使命を全うする為に溜め息を吐きたい衝動を堪える。

今でこそ血生臭い戦場を主であるヴァルドニスと共に駆け回る事を是とする彼女でも、騎士として育ったからにはそれにりに理想像がある。

民を守る立派な守護者。

よくある童話の主人公に憧れるのは珍しい話じゃないだろう。

とは言え、シャルメリアは現実が思い通りに行くなどと考える程、楽観的な考えはしていないし、ヴァルドニスに仕えるとなってからは汚れ仕事も進んで行う覚悟を整えている。

理由さえあれば奇襲もすれば人殺しをした数など数え切れない。

そんなシャルメリアであっても誘拐は初めてなせいかどうにも気持ち悪さが拭えなかった。

それでも命令とあらば与えられた役割をきっちりとこなしている彼女はやはり優秀な軍人なのだろう。

転移先の森にて残していた多くの部下達と合流すると、一行は淀なく陣形を整えて目標の地点へと走り出す。


(予定調和なのにも関わらず、嫌な予感が拭えないのは悪事を働いている自覚があるからなのかしら…違うわね。人を殺めておいて何を今更)


あまりにも拍子抜けするほど順調な任務のせいで、シャルメリアは思わず己の過去の所業を思い浮かべで自嘲する。

数多くの命を奪ったことに比べればたかだか誘拐など、悪事のうちにはいらないであろうことは明らかだが、慣れない任務は残りカスのような善性を刺激した。

チクリとしたむずかゆい感覚。

例えにくい違和感とも言える感覚を覚えるシャルメリアが、それが決して善性による呵責では無いと気がつくのに少し時間を要した。


(音が1つ…いえ、2つ消えた…?まずい!?)


「キャスター!!」


「残念、遅過ぎだぜ?」


シャルメリアが異変を感じ取ると同時に、ジャスパーが耳を突く警鐘を鳴らす。

しかし、その甲斐も虚しく、硝子に爪を突き立てたような不快な音の主は目にも留まらぬ速さで、嘲笑いような声と共に黒豹騎士団の魔術士の背に張り付いていた。

見覚えのあるショートソードを突き立てて。


(もう追っ手が差し向けられたのっ…いくら何でも速すぎる!?)


戦場仕込みの思考速度で戦闘体制にうつりつつも、シャルメリアはありえざる事態に内心で驚愕する。


「敵し…」


そんな精神状態でも隊を任された者としての役割を全うすることが出来たのは、間違いなく潜ってきた修羅場の賜物だろう。

しかし、無情にもそこからはあっという間であった。

魔術士を無力化した襲撃者は、シャルメリア達の妨害をものともせずにアシュペリアを奪うと、一目散に逃走する。


「逃すなッ!」


シャルメリアが言うまでも無く、全員が己と同じサイズの荷物を背負う影を追う。

月の光すら遮る森はまさに暗闇の中と言った様相。

本来、標的を捕まえるのは愚か補足する事も難しい環境なのだが、追跡を得意とする黒豹騎士団の団員は当たり前として、常人離れした能力を持つシャルメリアの部下達も暗闇程度では遅れを取る要因にはなり得ない。

人1人を担いで逃げているだけあって、痕跡は僅かながらも確実に存在している。

それを辿っている訳だが、真の問題は視界の悪さなどでは無く…


(私の部下や黒豹騎士団の人間が引きちぎられそうになるなんて、一体どんな速度で逃げてるのよ)


単純に足の速さだ。

隊列を多少崩しつつも手練れ相手に無闇やたらと仕掛けるのは愚の骨頂。

それを全員が理解しているからこそ陣形を維持したまま移動している訳だが、どういうことか手ぶらの騎士達の方が離されている。


「おい、このままじゃ逃げ切られる。俺は先行してヤツを襲撃する」


「私も一緒に向かうわ。ベルガー、もしもの自体が起こったら出来るだけ時間を稼ぎなさい」


「ハッ」


作戦会議は一瞬で済まされる。

最も避けるべきは任務に失敗することな以上、リスクを多少背負ってでも追いつく事を優先しなくてはならない。

実力も脚力も集団の中で抜けているジャスパーとシャルメリアが先行して何が何でも襲撃者を抑える。

これしか無い。

そうと決まれば足並みを揃える必要は無いと2人して脚を早める。


(やっぱり、あいつは私の索敵魔術じゃ捉える事ができない…)


人員がジャスパーとの2人となったシャルメリアは、自分も標的を補足しようと試みるが、やはり失敗と言う結果に終わる。

襲わられる前の移動中も精度こそ落ちるが、持続時間に秀でた索敵魔術を掻い潜られた時点で予測はしていた。

あまり使いたくは無いが、シノゴの言ってられないと精霊の力を借りようとするシャルメリア。


「待て」


「どうしたの?」


隠密もかなぐり捨てて進む2名はジワリジワリと襲撃者との距離を縮めて行くが、途中でジャスパーが停止の合図を送る。


「ヤツの痕跡が消えた」


「隠れられたのね」


「間違い無い」


端的に要件を述べるジャスパーに、確認の意味で尋ねれば同意が返ってくる。

まず、逃げられたという線はまず無い。

諜報に優れた黒豹騎士団の隊長が見失うなど、逃げ切られたでも無ければ隠れられた以外ありえない。

どうにか追い詰めたと言える状況になった訳だが、2人の表情は優れない。

追い詰めた事に違いは無いが、この雑多な森の中から人探しをしなければならないのだ。

厄介な事に違いは無かった。


「どこに居るのか検討は付くかしら?」


「おおよそ、この辺りに潜伏しているとしか言え無い。何か有用な方法が無ければ、貴殿の魔術で辺り一帯を吹き飛ばしてほしい」


「流石にそれは避けたいわね、仕方が無い…索敵魔術を使うからそれが失敗したらそうする事にするわ」


そう言って自身の半身とも呼べるパートナー、風の精霊『フィ』に索敵魔術の補助を頼む。

フィの力を借りて索敵魔術の詠唱を済ませると、予想外の場所から反応を拾う。


「急いで戻るわよ!後続部隊の方に奴がいるわ!」


「なんだと!?」


シャルメリアの発言にジャスパーも目を剥く。

まさか、追いかけていた標的がいつの間にか後ろに現れてているなんて想像も出来ない。

理由など言わなくとも分かる。

言葉を交わし終えると同時に後続部隊と合流するために来た時以上の速さで戻る2人。

悪い予感と言うのは良く当たる。

シャルメリアが後続に居た部下達を視界にとらえた時には、その半数近くが既にやられた後だった。


「先に行く」


ジャスパーは短く告げると、ギフトを起動して姿が掻き消える。

管轄以前に勤める先が違うジャスパーのギフトの詳細は知らないが、自分と同程度の戦闘力を保有する隠密の脚力は、自身よりも上の事は明らかだった。

今もまた、目の前の部下の死角から小さな人影がヌッと飛び出す。

凶牙が部下を犯すことを許さないと、手に握る剣に力を込めながら遠距離攻撃用の魔術を使おうとする。

しかし、幸いにして小さな人影は何かを避ける様に飛び退いたことにより、その必要は無くなった。

間違いなくジャスパーの仕業だろう。

警戒して動きが止まった襲撃者をジャスパーに任せて、シャルメリアは部下達へ駆けつける。


「被害は!?」


「死者は無し。ただ、意識不明の者が追加で5名、残りは私含め全員が負傷を負っております」


「そんなに…貴方達がたったこれだけ短い時間で…」


「如何いたしますか?」


「貴方に臨時の指揮権を渡すわ。負傷者を連れて目標地点まで撤退を。任務は私とアサシンで遂行する」


「はっ!検討を祈ります」


最低限の指示だけを下して、残りは撤退させる。

無理をさせて残したとしても、アレの相手が務まるのはこの場でジャスパーとシャルメリアのみ。

だったら、余計な損失をさせる必要は無い。

その事をベルガーも理解しているからこそ、悔しげではあるが迷い無く退却を選択する。

部下達の退却を見送るよりも早く、シャルメリアは襲撃者に目を向ける。

暗さに加えて優れた視線誘導の技術もあり、襲撃者の姿をしっかり視認できていなかった。

そのせいで、小さい事くらいしか把握していなかったが、遠目で見る機会を得てようやくその全貌を確認する。


(背丈からして小人族…違う!?)


小柄だとは思っていた襲撃者だが、その背丈はジャスパーの腹元くらいしかない。

シャルメリアは即座に特徴が該当する種族を思い浮かべるが、襲撃者の格好を見て考えを改める。

頭には何処かで引きちぎった布を巻き付け、その相貌を隠している。

問題はそれ以外。

質の良いシャツとズボンはとても戦いを考慮して作られている様には見えない。

それらが導き出す1番高い可能性は…


(まさか子供なの…!?)


パーティー会場から抜け出してきたヴァレス帝国の王侯貴族の子息。

馬鹿なと信じられない気持ちがあるが、デタラメな力が子供に与えられてる世界では、全くあり得ないと言う話でも無い。

仮に真だとしたら末恐ろしいなどでは済まされない。

表に出なくとも、間違いなく王国が誇る精鋭であるジャスパーがギフトを使った全力と渡り合っているのだ。

そうで無くとも、一瞬でもあの小さな襲撃者と剣を合わせたシャルメリアは、常識外の実力を目の当たりにしている。

子供に剣を向けるなど騎士のやることでは無い。

常々そう思う彼女であってもあの小さな怪物を目の前にして、手を抜く気は微塵もなかった。

最速最短。

地を蹴り、風に体を押させ飛び出す。

ジャスパーに気を取られている隙を付いて、短期決着をするために『フィ』に風の刃を準備させる。

剣で仕留められれば良し、後ろに避けられても剣先から放たれる風の刃で真っ二つの二段構え。

ジャスパーの攻撃を回避したのに合わせて、ロングソードを胴体めがけて振るう。


「お前も速ぇな!」


攻撃を当てるために極力気配を消して死角を突いたのにも関わらず、小さな襲撃者はシャルメリアを捉えていた。

回避の後隙で後ろに流れていたハズの体が、真横へ大きく飛ぶ。

想定の範囲内。

剣の軌道上にある体を風の刃が真っ二つにする…ハズだった。


(切れ無い!?)


「こっちは風の精霊使いか」


上等な鎧を着けた騎士だろうと真っ二つにする刃が、布1枚だけの体を多少切り裂くだけに終わった。

少し驚いた風の襲撃者だが、それはこっちの気持ちだと覆面の下でシャルメリアは顔を顰める。

脇腹から噴き出す血はそれなりに深傷なのは良い事だが、思っていた成果では無いのが悔やまれた。


(フィの風で切れなかったのは予想外だけど、この状態じゃ、もう戦闘は厳しい。最悪逃す可能性も入れて、『玉』を探さないと)


傷の深さを見るにそう長くはかからない。

直に戦いが終わる事を考え、アシュペリアを本国に連れていく算段を付け始めるシャルメリア。

それが、あまりにも悠長で気の抜けた考えだったと思い知らされる。

横っ飛びした襲撃者が地に足をつけたのだが、力を入れた腹から血が噴き出ない。


(塞がってる!?再生系のギフト持ちか!)


一瞬にして塞がった傷を見て、即座に該当するギフトが思い浮かぶ。

あの技量にあの速さ、あの硬さで再生系のギフトとはなんと厄介な組み合わせだろうか。

姿こそ見えないが、ジャスパーも自分と同じく盛大に顔を顰めているのが見なくとも分かる。

情報が次々と晒されているにも関わらず、不気味さが増すばかりの相手にジャスパーとシャルメリアは思わず足を止める。


「久々の全力で気が緩んでたか。人ン家なんだ、気を引き締めないとな」


襲撃者はポツリと呟いた。

気が緩んでいたとは何の冗談だろうか。

あれだけの大立ち回りをしておいて余裕を持っていたなど、やられた側としてはたまったものじゃない。


「『ウィンド・カノン』」


動揺を押し殺し、シャルメリアは風の砲弾を見舞う。

こうして見合っていても有利なことは何一つとして無いのだ。

様子を見るにしても遠距離攻撃をしてスタミナを削る手間は惜しまない。

真正面から放たれた攻撃を受ける相手でも無く、さも当然の様に砲弾は回避される。

承知の上で放った攻撃に、ジャスパーも合わせて仕掛けた。

姿の見えない彼の攻撃を回避するのは、たとえ予期出来たとしても至難の業なのは誰の目にも明らか。

先ほどから対応してる襲撃者なら潜り抜けられるかもしれないが、そこはフィの作る風の刃で追撃すれば姿勢くらいは崩せる。


「嘘…」


ジャスパーにカウンターを食らわせた襲撃者を見て、蓋をしていた言葉がついに漏れ出てしまう。

それでも狂なく剣を振れたのは訓練と場数の賜物だが、気を切らした攻撃が当たる訳もなくヒョイっと避けられた。

気が切れたところを見逃すほど甘い敵でもなく、目敏くシャルメリアを標的にする。


「『エア・プレッシャー』」


「しゃらくせぇ!」


即座に意識を切り替え、最適解を弾き出す。

相手の強みのうちの1つである速度を文字通り押潰しにかかるが、そんなのは関係ないとばかりに突き進む。


(フィ、全力で吹き飛ばして!)


相棒に指示を出せば、周囲の木ごと襲撃者を吹き飛ばす。

無防備な空中に投げ出されたとこへ、先にいるジャスパーが待ち構える。

襲撃者は器用にも体勢を整えると、奪ったロングソードで迎撃した。


「っく…」


踏ん張りの効かない空中でありながら、とてつもない重さの一振りにジャスパーの苦悶が漏れた。

下がりそうになる身体を叱咤し、せっかく崩れた勢いを殺してなるものかと攻め立てる。

しかし、多少状況が悪くなった程度では襲撃者の余裕を削ぐことが出来ずに、勢いを直ぐに押し返された。


「『ウィンド・カノン』」


部が悪いと悟り、引くことを選んだジャスパーを援護する。

周囲を抉る風を避けると、襲撃者はシャルメリアに目を向けた。


「良いとこなんだ、邪魔すんじゃねぇ」


平坦な声の割に不快を表す言葉。

お返しとばかりに目にも止まらぬ速さの石が投げつけられる。

言わずともフィが風で軌道を変えるが、周囲の木を穿つ威力に冷や汗が出る。


(ただの石で何てことするのよ!?1発でも貰えば致命傷になりかねない…!)


あれに暇を与えてはならない。

思わぬ遠距離攻撃手段に、シャルメリアは顔色を変えて『ウィンド・カノン』を撃ち返す。

石と『ウィンド・カノン』の砲撃合戦は盛大に環境を破壊する。

夜の闇に土煙が立ち上り始めると、不意に襲撃者が気配を消す。


「『エア・サーチ』………っ!?」


失策を悟り慌てて襲撃者を探すが、既に襲撃者は直ぐそこまで迫っている。

フィが再び風で吹き飛ばそうと風を叩きつけるが、今度は襲撃者も織り込み済みだと一瞬の怯みを見せるだけだった。

失敗にこそ終わったが時間は稼げた。

シャルメリアは一息入れてから自慢の突きを放つ。

風の如き一突きは難なく中程で折れたロングソードでさばかれ、避けたかった近接戦闘へ引き攣り込まれてしまう。

細身のロングソードと折れたロングソードの剣舞。

超至近距離による高速の斬撃は、互いに剣の高みに至ったからこそできる芸当だ。

一見膠着している状況であっても、実情としては大きくかけ離れている。


(軽く振ってるように見えて、何なの、この重さ!?なにより、小さくてやりにくいっ…!)


乱雑に振るわれる一撃一撃は体躯と相まって軽く見えるが、実際は一撃一撃が大剣も顔負けな威力を秘めている。

下手に剣で受ければ折られかねない破壊力。

それだけでも脅威なのだが、今までに経験のない小さな体躯も厄介だ。

相手が必要以上に踏みこむので、どうしても腕の動きが窮屈を強いられる。

フィによる援護があってようやく場を持たせているというのが正しい実情だった。

剛剣が着実にスタミナを削り、ついに受け流すのも回避するのも難しい攻撃が来てしまう。

シャルメリアの膝が少し沈んだのを見計らい、襲撃者が剣を振りかぶる。


(対処は不可能。受けたら良くて武器破壊ってところかしら。最悪、そのまま真っ二つ)


目の前に迫る死を前にしてもシャルメリアは至極冷静に状況分析をする。

いずれにせよ、戦力の大幅ダウンは避けられない。

しかし、助かる道は1つだけある。

フィが放つ風を止めさせる。

ピタリと止んだ風。

すると、凶牙を振り下ろそうとした襲撃者は、軌道を変えて何かを弾く。

ジャスパーの暗器であった。


(今!!)


押されて沈んだ膝を、今度は意識的に深く沈めた。

大きくタメを作ると共に、フィに背中を押すよう指示を出す。


「ふッ!」


肉体が弾丸の如き速度で弾き出される。

自らを一陣の風として、襲撃者を貫くために。

仕掛け時を弁えていたジャスパーも挟撃するように続く。

巨岩をも貫く突きを襲撃者は軽く剣を振るって弾き、その勢いのまま後ろのジャスパーを切りつける。

これ以上無い連携を呆気なく防がれてしまう。


(次も綺麗に挟撃が仕掛けられる保証は無い。ここで仕留めるまでは行かなくても、動きに支障が出る負傷を負わせる!)


しかし、絶好の位置取りをしているからには引くわけにはいかない。


「『エンチャント・ウィンド』!」


「付与魔術まで使えるのか。多彩だな?」


シャルメリアは剣に風を纏わせる。

単純な剣の威力アップは勿論のこと、フィの風の刃には及ばずとも、刃の間合いを拡張までする万能魔術だ。

さらにフィも守りでは無く、攻めに出るようお願いする。

攻め時は今を除いてあり得ない。

ジャスパーも同じ考えであり、2人は襲撃者を挟み込みながら攻撃を仕掛け続ける。

突けば風の槍が飛び出し、薙げは風の刃が切り払う。

そこに風の精霊の猛攻と姿の見えないジャスパーの凶撃が加われば、まさに斬撃が嵐の姿をとっていると言っても過言では無い。

まさに地獄と呼べる戦場を作り出した2人だったが、その猛威に晒されている小さな襲撃者は何食わぬ顔で全てを凌ぎ切っていた。


(化け物め!何でこれで擦り傷程度なのよ!?)


全身に汗を滴らせるシャルメリアは盛大に毒吐く。

王国の実力者2人を相手に、推定子供が優勢など悪夢も良いところだ。

そんな状態は長くは続かない。

先に綻びが出たのはジャスパーだ。

膠着状態に焦れたと言うにはあまりにも些細なミスだが、首を取れる誘惑に抗えなかった彼はまんまと敵の罠にかかってしまう。

カキンッ…


「!?」


首元から鳴ったとは思えない硬質な音。

手元のナイフが砕けたことにジャスパーは驚愕する。

即座に防御姿勢を取るのは流石だったが、そんなものは関係無いと目にも留まらぬ速さで拳が叩き込まれた。


「アサシン!!」


人を殴ったとは思えない音を出しながら、ジャスパーは暗闇の中へと吹き飛ぶ。

仲間意識など殆ど無いが、シャルメリアはこの場に於いては戦友とすら呼べるもう1人の相方を見送ることしか出来ない。

次にシャルメリアと襲撃者の視線が絡み合う。


“1人きりなら俺の敵では無いと”


近接戦は分が悪いと離脱を図ろうと後退するシャルメリアへ、小さな襲撃者が追い縋る。

フィも退却を手助けするために風の刃を差し向けるも、傷をものともせずに距離を詰めてきた。

ダメージのお陰か幾分マシになった攻撃。


(早く終わらせたいのは相手も同じ。なら、その焦りを利用するしかない!)


そこに勝機を見出す。

この判断が余りにも迂闊な判断だとも知らずに。

雑になった攻撃を逸らすシャルメリアは、カウンターを見舞おうとし…


「ぐぅ…!?」


次の瞬間にはロングソードを握っていた腕を捩じ切られた。

襲撃者が剣を捨てて腕に組み付く瞬間を見る事も出来ず、痛みだけが今の自分の状態を知らせる。

焦りを出したのは自分だったのだと。


(終わった…)


痛みなど忘れてその一言だけがストンと身に染み渡る。

剣どころか腕まで持っていかれた自分ではこの化け物を相手にする事は出来ないのだから。

シャルメリアが死を悟り、その時を受け入れたのだが、何故か襲撃者は腕を捨るとそれ以上仕掛けてこなかった。


「こんなもんか。お嬢さん、誰の為か知らねーが身体を傷モンにしたくなきゃ、今度からは否定の言葉を勉強しとくんだな」


何故の疑問には腹の立つ忠告と共に、本人からヒントがもたらされる。

追っ手さえどうにか出来ればそれ以上は望まないと。

目的は果たしたとばかりに小さな襲撃者は姿を消すと、激しい戦闘が嘘かの様に静寂が周囲を満たしたのだった。


裏話を作ったは良いものの3話を1話にまとめるのは割と苦労しました。

最初の裏工作やシャルメリアの心理描写をガッツリ削ったのにも関わらず、それでも半分くらいの分量が限界でしたね。

2話に分けても良かったですが、そうすると裏工作やシャルメリアの愚痴も描きたくなり、話がダレるので断念しました。


追加裏話


今回蛮族さんに蹴散らされた誘拐犯御一行ですが、全員が実践経験のある歴とした精鋭だったりします。

実力としては一概に言えませんが、シャルメリアの部下さんが帝国の騎士の小隊長と同じくらいの強さ、黒豹騎士団の面々が騎士くらいです。

肝心のシャルメリアが近衛の小隊長くらい。

ジャスパーは純粋な強さはシャルメリアに2段くらい劣りますが、厄介さは少し上くらいの評価です。


そんな彼らでも、戦乱の時代にマンハントに勤しんでいた蛮族さん相手は割ときついです。

肉体の制約があまり無いので、全盛期の技術が最も生かされてるのが気配操作だったりします。

そんな蛮族さんの隠れん坊スキルは異次元なので、彼らが無能な訳じゃありません。

普通にギフト超えなので、ただの詐欺です。

この時の蛮族さんを例えるなら破壊の○球を持ったベ○マ持ちのメ○スラLv99です。

メ○スラなのが救いでしたね。


今回の戦闘に関しては、実は蛮族さん側にも余裕があった訳じゃなかったりします。

動くたびに身体にダメージが入る強化をしていたので、体力と魔素をゴリッゴリに消費してました。

持久戦をしても五分五分か少し低いくらいの確率で負けます。

ただ、そこはユリウスチートと蛮族チートの理不尽で持久戦をしなければ負けは無かったので、たらればの話にはなります。


最後まで読んでいただきありがとうございます。

面白いとおもったらブクマと評価のほどをよろしくお願いします。

モチベーションの維持になりますので何卒。

一作品目の『社会不適合者の英雄譚』の方もよろしければ読んで頂ければ幸いです。

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