五回目
ヴェリザードからやってきた冒険者たちの数は、合計15組80人もの数に上った。
冒険者ギルドは、この機会にルケントのゴブリンどもを一掃することと決定した
冒険者たちは旧市街の端に散開した。そして片っ端からゴブリンを皆殺しにしていった。
誰かが先行しすぎないように、新市街と旧市街を分ける小川で一旦進行を止める手はずになっていた。
アイル達新人は冒険者たちの討ち漏らした弱いゴブリンどもを狩った。
結局、初日に出くわした”居合”がもっとも強いゴブリンだったのだろうか。
アイル達の前に二匹のはぐれゴブリンが現れた。やつらは人の腰ほどの大きさしかない、顎も未発達もまだ子供であった。肌が艶やかなぐらい外にも出たことがないやつだろうか
ゴブリンどももよほど切羽詰ま弟るのだろうか。
「油断はなしだ」アイルは言った。いつも通り、俺は裏に回る。イブは高所を取ったら合図をして
アイルは薄暗い裏道に姿を隠した。そしてしめった影の通路を音もなく通った。とt彼は崩れた建物の窓枠に脚をかけ、二階に上がると、目標のゴブリンの真上に出た。
通りの反対側ではイブがすがたを見せた。彼女は矢を引き絞った
高所から放たれ矢は、最短距離の直線を描いてゴブリンのつるんとした胸元にトスンと刺さった
「あああああ
とゴブリンは喉を鳴らしながら嗚咽を上げた。
それが合図となり、ジェイが無傷の方のゴブリンにもう突進した。
もう片方は素早く反応した。そいつは窓から廃墟の中に逃げ込むと、刀を抜いて構えた。ジェイの大剣と戦闘すことは避けたのだ。
いい判断だ、とアイルはおもった。
アイルは来た道を戻り、登るときに足をかけた窓枠から、今度は屋内に侵入した。
部屋の中は多少薄暗かった。しかし窓から強い日が差し、見えない場所などはなかった。
アドアの奥から日が差し、そこに隠れたゴブリンの影が地面に落ちているのをアイルは認めた
アイルはピックを引き抜いた。
”烈”
アイルは全身のエーテルを解いた。そしてピックの先端のみにエーテルのすべてを注ぎ込んだ。
むろんこんな子ゴブリンに対しては過剰な攻撃力だが、あいっるはこれをはやく実戦で試してみたかった
窓部屋の奥から音がした。アベルたちが部屋の中に突入を計手散るのだろう。
ドアのふちから見えるゴブリンの影が、動いた。
アイルは隠れるというよりは、むしろ悠然と歩を進めた。自分の行為がさも当然のことだといわんばかりの大股の動きだった。ドアをくぐると、そこには背中を向けて窓から入るアベルに相対し、震えながら剣を構えるゴブリンがいた。
ゴブリンが目の端にアイルをとらえ、振り向こうとした。
そのときアイルのてに握られていたふといピックがその頭頂部に打ち下ろされた。
ピックの先端が兜のスタッドをかすめたとき、強い火花の閃光が舞った。
鉄棒ごと撃ち抜かれたゴブリンの頭部は、鉄棒の中でトマトのようにつぶれた。
仲間たちが皆部屋に入ってきた。みなゴブリンの頭のつぶれた死体に驚いていた。
「これ、アイルがやったのか?」ジェイは驚いてきた。
「まあね」
「これがお前の必殺技か。実物はすげえ威力だな」
アイルは死体の衣服をはいだ。しかしこのゴブリンはないも持っていなかった。彼は耳だけを切り取り、袋に入た。
「それにしても、能力者どもとは全然合わないな」
ギルで言ってたっでしょ。あんまり強い人たちがいると、赤錆だとか青月だとかの強いゴブリンは出てこないって」
「確かにそんな話してたな」
アイル達は小屋から出ると、周囲に冒険者の気配はなかった。どうやら皆かなり先行しているらしい。
アイル達が小走りで先を急ぎ、旧市街の広場に出ると、すでに何人かの冒険者が橋を渡り先行していた。
「え、もう渡ってるの?いったん広場で待機じゃ」
「ありゃよっぽどおいしいもん拾えたんだな」ジェイが言った。
彼らも皆について橋を渡ろうとした。ジェイも盾を背負いなおした。
そのとき、どこかから銃声が響いた。
がらんとした広場に銃の残響音が響いた。
ジェイの胸甲に穴がいた。そしてその穴から血が噴き出した。
ジェイはあ橋の真ん中で崩れ落ちた。
「な……!」アイルは固まった。まるで無防備な状態で橋を渡っていた。6人は、いやここに集う冒険者がみな完全に油断していた。
アイルは発火点を探した。それははるか後方の三階建ての建物の屋根だった。
マスケット銃を持ったゴブリンが銃床から頬を離した。
「ジェイ君!ジェイ君!」
ミランダが倒れ伏すジェイをゆすっていた。地面の石畳のみぞにそって赤い血が広がっていった。
アイルは気配を感じた。、そして来た道を見た。みながいる反対側、すでに掃討したはずの旧市街の方からゴブリンが三体歩いてきた。
そのうちの一人は”居合”だった。
そしてその右隣に立つ、青い肌のゴブリンがいた。奴は肩に抜き身の曲刀をかけていた。
奴は青月に違いない。必ず逃げろと言われた、あの手配書のゴブリンだ。
”在”アイルは目にエーテルを集中し、奴らを見た
「……三匹とも能力者だ!」アイルはいった。
三匹目のゴブリンは、赤黒い肌をし、おそらく染めたものであろう薄緑色の鬣を背中まではやしたゴブリンだった。
細身の槍を握り、逆三角形の大きな肩を揺らしもせずに女性のように優美に歩いてきた。
(こいつは雰囲気がある)アイルはそう思った。だが能力の兆候らしきものは見えない
アイルは”在”を解いた。
どうする?ここから逃げるか?手負いのジェイをひきずって逃げ切れるか?
いやこの橋はどうなる?アイル達が逃げたら冒険者は挟み撃ちにされるだろう。
そもそもアイル達はこの冒険者の最後尾だったのか?ほかに旧市街に残っている冒険者はいないのか?
そもそも奴らはどこから湧いた?旧市街の入り口は防御を固めてあるはず。なぜなんの合図もないのか?
奴らは近づいてきた。この橋を放棄することはあり得ない。冒険者も今の銃声は聞いたはずだ。
「この橋を死守する!」アイルは叫んだ。「ミランダ、いますぐジェイの治療を始めろ!」アイルはそう言うと、隣に立つイブに小声でささやいた。イブはそれを聞くと、コールとともに橋を渡り、川の向こうから矢をつがえた。
ゴブリンどもはさらに距離を縮めてきた。アイルは小声でアンナに指示を伝えた。
アンナは両手を前に出し、呪文を唱え始めた
「オームエルヤクト。。。。。」その両手に大きな煙の塊が現れた。
煙を見た瞬間、ゴブリンどもは走った。
「エルダーシュ」彼女が 呪文を唱え終えると、手を突き出し、それをアイルの背中に向かってゼロ距離で直撃させた。
黒い霧の爆発が起こった。橋はまるごと黒い煙に覆われた。
この毒々しい色の期待の中につっこむことを、ゴブリンはためらった。彼らは周囲を囲い様子を見た。。
やがて煙が晴れたとき、その橋にはもうアイルしか残っていなかった。煙に紛れて皆はその場から逃げたのだ。
アイルは橋の真ん中で仁王立ちになった。抜き身の短剣がぶらりと宙に揺蕩った。
”居合”が手を下げ、前に進み出た。
やつは腰に下げた剣の鯉口を切り、白い刀身を1インチだけ出して、アイルに向かって悠々と進み出た。
奴の弱点は分かっている。刃を抜き切る最後の瞬間その一点を狙う。
”兵”
アイル全身にみなぎるエーテルを纏い、やつの瞬速の剣技の後の先を狙う。
足運びが、互いの間合いを踏み越えた。
アイルは地面を蹴り一気に距離を詰める
やつの剣は既に半身を抜けきっている。その白刃は異形のエーテルを放っていた。通常の居合術なら、ここからアイルの体は一刀両断されるであろう。
しかしゴブリンの四肢は短い。やつの短い腕では直剣を抜き切った後に一瞬の隙ができる……確かにそれはミラーの言うとおりだろう。
アイルは勝利を確信した。振りかぶった短剣に全力のエーテルを込めた。
そのとき、”居合い”の目が一瞬ゆがんだ。
そして、その腰に深く回した鞘の鯉口から、直剣の切っ先が現れた。
それは、折れた直剣。
鞘の半分。鞘の半分までしか、折れた直剣の刀身は入っていないのだ。
次の瞬間、その直剣は最短時間で抜き放たれた。
その刃はアイルの左顔面を通り過ぎた。アイルの左目が破裂し、上眼窩の骨を砕いて血しぶきが舞った。
アイルは両手を地面につけ倒れた。ふきだす血が石畳を赤く染めた。
居合がアイルのそばまで寄り、立っていた。アイルはその靴をただ見つめていた。
おれはここで死ぬ。殺される。
アイルは地面を見据え早い呼吸をしていた。
しかし、居合はアイルの横を通り過ぎた。
そして青月も、赤い槍も、アイルの横を通り過ぎていった。
アベルはジェイを抱えて、小川の底に降り、排水渠の一つに入り込んだ。彼は湿った壁にジェイをゆっくりと降ろした。アベルが手を離すと、その右手は血にまみれていた。
彼はジェイの甲冑を脱がした。銃弾は肺を打ち抜いており、砕けた胸甲の鉄の破片が傷口の周りの皮膚に食い込んでいた。ミランダは両手を傷口に当てて、呪文を唱えた。彼女の両手は淡い光に包まれた。すると、ものの30秒も経たないうちに、傷は全て塞がり、ジェイは目を開いた。
彼は起き上がるとまだ残る痛みにうめき声をあげた。傷口を治したといっても、鉄の破片は体の中に残っている。彼はふらふらと立ち上がった。
「奥へ進もう」アベルはそういった。彼らは足を引きずりながら、暗渠の奥へと進んで行った。薄暗い地下道はくるぶしまで水に浸かっていた。彼らの靴は濡れ、歩くたびにがぼがぼと大きな音を立てた。やがて暗渠の最も狭くて暗い場所を通り過ぎると、道の先に天井から光が差していた。
「出口だ」アベル言った。
その時、彼らの背後から、水をかき分けひたひたと歩いてくる足音がした。
「先へ行け」ジェイは女二人に言った。彼女たちは急いで暗渠の終点まで走った。
やがて近づいてくる音の正体が、わずかな明かりに照らされて露になった。
それは青月であった。冒険者ギルドにて、絶対に回避でよと厳命された魔物だ。
「アベル、お前も下がってろ」ジェイは言った。「まずやつの能力を見極める」
「俺も戦うよ」アベルは言った。
「いやダメだ。この狭さだと一人で闘う広さしかない。ここは俺に任せろ」ジェイはそう言うと、青月に向かって突進した。ジェイは壁際いっぱいから逆側の際まで、おおきな横なぎを払った。青月はバックステップを踏み、曲刀の峰でその剣を払った。火花が散り、石畳の壁が一瞬だけ照らされた。青月は防御に集中し、ジェイの大ぶりの剣を軽々と受け流した。体に鉄片がめり込んだままのジェイは、いつものようなその巨体からは信じられないような俊敏な動きを出すことができなかった。
青月は、大振りに振られたジェイのここに流れた剣を見ると、深く踏み込み曲刀を素早く突き出した。ジェイはその剣を盾で凌いだ。狭い暗渠の中ではジェイの側面に回り込むことはできず、甲冑と盾そしてリーチのある大剣に身を固めたジェイの間合いには青月といえどもなかなか入ることができなかった。
ジェイは腰を落とし、じりじりと距離を詰めシールドバッシュで青月の顔面を撃ちつけた。
青月は一瞬ひるみ膝を曲げた。
ジェイはすかさず畳みかけた。一振り二振りと凄まじい膂力で重量のある大剣を打ち付けた。水に濡れた足元は踏ん張りがきかず、単純な重量の押し付け合いになると青月は剣をうまくいなすことができなかった。
(倒せる)ジェイは心の中で確信し、さらに攻めた。
ジェイの横薙ぎを青月は剣で捌くことを諦め、飛び上がり空中に避けた。
(取った!)ジェイはさらに踏み込んで背後に剣を振りかぶり、落下する青月を剣の防御ごと断ち切るつもりで横薙ぎの大ぶりに剣を払った。
しかしそれは、罠だった。青月は空宙で足を踏み込んだ。すると、彼の私の足元に青い光を放つ魔法陣が浮かんだ。
青月はその魔法陣を踏み抜きさらに飛び上がった。2段ジャンプを行ったのだ。青月は身をひるがえし、空中でくるりと回転すると、ジェイの真後ろに着地した。彼はジェイ背中の銃創に向かって曲刀を突き入れた。
ジェイの背中から再び血が吹き出した。
「ジェイ!!!」アベルは叫んだ。
ジェイは水につかった石畳の床にバシャリと倒れ込んだ。
イブは橋を渡り、旧市街の町を走った。コールの先導に全速力でついていき、彼女はようやく冒険者たちの背中に追いついた。
「みんな今すぐ戻って!!!」彼女は叫んだ。「敵に背後から襲われたわ!橋を取られた!」冒険者たちはそれを聞き、顔を見合わせた。彼女はそのまま走り さらに前線へ進んだ。最前線ではイアンたちが巨体のゴブリンと戦っていた。あれは確か、イードとかいう手配書のゴブリンだ。
「背後から急襲されたわ!誰か、応援をよこして!!!」彼女はそう叫んでから橋へ再び向かった。そこから戻る途中で、トグマが赤錆と戦闘しているのを見た。
トグマは赤錆に炎を吹かれ、肩に火がつき地面を転がった。赤錆がさらに距離を詰めたとき、リリィが間に割って入った。
赤錆が頬を膨らませ、火炎を吐いた。
リリィは呪文を唱え、杖から氷の息吹を吹き出した。
その白と赤の風は、しばらくは拮抗した。しかし、やがて赤錆の炎がリリィの氷結呪文を上回った。
すべては一瞬の出来事だった。赤錆の炎がリリィの手に触れた瞬間、氷の風は急速にしぼみ、そしてあっという間に炎がリリィを包んだ
赤黒い火炎に包まれた、リリィは叫び声をあげた。
カイが炎を突っ切って、赤錆に突進して長剣の突きを放った。その剣先は彼の肩先をうがった。
炎が消えて、赤錆のd¥姿が露になったとき、奴はすでに踵を返して逃げ去っていた。
強襲班はみなリリィのもとに集まって彼女をはたいていた……何か油でも燃えているかのように、彼女にまとわりついた炎を消えなかった。
肉の焼ける甘い匂いがした。
トグマはまだ穂のをがくすぶる彼女を抱えると、橋に向かって走り出した。
そして彼女ごと小川に飛び込んだ。
「ヘレン、来い!」トグマは叫んだ。
ヘレンは小川に飛び込んだ。そしてリリィを見て、息をのんだ。
彼女の前身は炭化して黒焦げになっていた。そしてところどころがひび割れて、赤い血のにじむ真皮が覗いていた。
口も鼻も溶けて彼女の面影はなかった ただ彼女の大きな白目だけが、彼女がリリィであると伝えていた。
「ヘレン、早く直せ!」トグマは叫んだ。
「彼女はもう、助からない」ヘレンは震える声で言った。
「いいから早く直せ!!!」トグマはより一層大きな声を張り上げて、彼女に叫んだ。
ヘレンは両手をヘレンの心臓に当てて彼女を光で包んだ。彼女の白い両手に頬から伝う涙が落ちた。
全身のひび割れから赤い血が滲み、小川の下流を赤く染めた。
やがてリリィのか細い呼吸も停止した。
イアンが皆の殿を務め、冒険者たちはルケントから撤退した。この日、8人の冒険者がルケントで死んだ。




