ゴブリン狩 初日
アイルは夜中に目が覚めた。そして目が覚めたとたんに頭も冴え切った。寝起きからすでに高揚感がアイルを包んでいた。
いよいよ今日は、彼が訓練で得た力を発揮する初めての日だ。戦士として、一人の男として。知りたい。自分が一体どこまで強くなっているのか。
彼はベッドがから飛び起き中庭に出た。夜明け前のブリスコーは既に肌寒く、家々は物音ひとつせずしんと静まり返っていた。彼はかまどに火をくべると、お茶を煮出してそれを飲んだ。
夜明けまではまだだいぶある。アイルは頭上の星を眺めながら、頭の中に魔物と対峙する己を思い浮かべた。
逆手に持ったナイフが宙を走り、細いゴブリンの喉仏を断つ。一撃必殺のもとに、次から次へと来るゴブリンどもを葬る。もはや勝利のイメージしかできない。それほどまでに彼は強くなった。ゴブリンごときに遅れはとらない、たとえ相手が千匹いようとも。
やがてアベルとジェイも寝床から起き、頭を掻きながら中庭に出てきた。女子はまだ起きてこなかった。彼らは女子のために料理を始めた。
アイルは厨房に吊るしてあった干し肉を手に取ると、ナイフで薄くスライスした。アベルは蔵に行き玉ねぎ、ジャガイモ、白菜を取る
ジェイはかめいっぱいに水を汲んできた。火にかける
煮足す
アイルはいけすに入れておいたナマズを取り出しぶつ切り
なまずのかば焼き
アンナおはよう
「おはようございます」
みな期の取り皿に分けて外のベンチに腰掛けて飯をくうアンナは中州の戦いから見かけていた。三角帽の下に短い白髪のショートヘアが見える、いかにも魔法使い然とした女性だった。
飯を食い終わる
じゃあ今日の予定だけど
俺が先行するから
まだ立った勝ったことないし、どんな感じになるかわかんないけど
多分楽勝だろ
城門の前では漁具を手に持った漁師たちが開門を待ってた。そこには漁網を肩に下げたゲルの後ろ姿もあった
やがて鐘がなり、城の門が開いた。彼らは朝方の湿った爽やかな空気の中、ブリスコーを出発した。
彼らはラインベルクに沿った街道を北に向かった。朝焼けの黄色い光にアイル達は照らされた。川の対岸は山一つ ない平野が広がり、初夏の黄緑色になり始めた麦畑が風になびき穂を揺らした。
彼らは二時間ほど北へ向かって歩き、二手に分かれた街道を左折し森の中に入った。
ここからルケントまではさらに三時間ほどあった。予定では、森の中に冒険者たちが設営した野営地に寄った後、午後から狩りを始める予定だった。
彼らは森の中を進んだ。やがてニーロウとラインベルクとに分かれる道の分岐点が見えてきた。
その道の真ん中に血の斑点があった。血は右手の森の中に通じていた。
アイルは右手を上げて皆を静止させた。彼は皆を振り返って頷いて合図を送り、腰をかがめて森の中に侵入した。彼ははじめは血を見落とさないよう注意深く進んだが、かなり出血量が多かったのだろうか、森下生えに残された血の量はかなり多く、高い位置の葉にべっとりと地の利が残されている場所もあった。あるいは歩を早めた。血糊はまっすぐと森の中を進み、今度はルケントに続く道へ伝っていった。アイルは森の中から出た。すると道の右手にゴブリンがいた。仁王立ちに股を開いたゴブリンの足元には血だまりの中に倒れ伏す女がいた。ゴブリンはアイルを認めるとゆっくりと目線を上げた。そして腰をかがめ、右手を剣の鯉口に当て、わずか数インチほど刃を抜いた状態で構えた。
彼はアイルの動きを誘っていた。
アイルは可能な限り大きな声を上げて叫んだ。
「みんな来い!!!」
この声は皆に届いただろうか。森に遮られてアベルたちの姿は見えなかった。いや、声が聞こえなくなるほど距離は離れていないはずだ。
その時、女がくぐもった声でせき込み、血を吐いた。そして、体を痙攣させ始めた。
もはや猶予はない。
”兵”
アイルは全身にエーテルを纏うと、地面をけり上げ、ゴブリンに漸近した。
しかしゴブリンは腰に剣を構えたまま、動かない。なぜだ。いや、いまは考えるな。
”闘”
アイルは最後の数歩でエーテルを手元だけに集中し、やつの頭部めがけて一直線に突き出した。
(取った)
ゴブリンの目が一瞬見開いた。アイルの放つ予想外の速度の突きに対し、刹那の逡巡があった。
ゴブリンは剣の鯉口をわずかに切ると、一瞬のうちに刃を解き放った。
それはアイルの目にも捉えることができなかった。
やつは”剣を抜く”と”剣をふるう”を同時に行った。
刹那の剣筋が空を切り裂き、アイルの手から短剣を吹き飛ばした。
アイルはそれには動じず、速度を落とさずそのままゴブリンとすれ違い、剣の間合いから抜け出た。
そして腰のピックを抜き取り手に握った。
奴は相変わらずその場から一歩も動いていない。足元の女は今にも死に絶えている。
その時、道の合流点からジェイの巨体が体を出した。
「みな来い!!!」アイルは叫んだ。
次の瞬間、ゴブリンはジェイに向かって走り出した。挟撃されるのを避けたのだろうか。
アイルは倒れ伏す女に一瞬目を向けたが、次の瞬間にはゴブリンを追って走り出した。
今、一瞬のうちにけりをつける。
剣筋はゴブリンの方が速かったが、足は逆だ。
アイルは再び全身にエーテルをまとい道を走った。
もう追いつく。ゴブリンの細首が目の前に迫っていた。
彼はピックを頭上に振り上げた。
しかし次の瞬間、ゴブリンは直角に急旋回し、森の中につっこんだ。
アイルは誘いに乗り森の中に突っ込むか逡巡した。やつの長剣は、森の下映えの前では無力だろう。森の中ならば、アイルの敏捷性が勝つ。
その時、ジェイに続いてアベルが木の陰から顔を出した。さらにイブのだいだい色の長髪が奥の梢の隙間から見えた
森は浅い。楔形をしたこの森の張り出しは、すでに一瞬で抜けられる浅さだ。
アイルは奴の狙いに気づいた。
「後ろだ!」アイルは叫んだ。
アイルはジェイと交差し、ブリスコーから来た道を覗いた。
道の後ろにはミランダをアンナがいた。二人は目を見開いてアイルをみていた。
その後ろの、左手の森の中からゴブリンが飛び出した。
やつの直剣が陽の光を反射し白く輝いた。
ミランダが後ろを振り向いた。
ゴブリンは直剣を引き絞りミランダに突きを放った。
その時、アンナがミランダを押し、ゴブリンとの間に体を割り込ませた。
剣はミランダから逸れた。
代わりにアンナの細い首筋に突き刺さった。
アンナの首の左半分が断ち切られた。
それは頸動脈を切断した。霧のような血しぶきが宙に舞った
彼女は杖を取り落とし、右手で首を押えた。「あっ」という嗚咽が口から洩れた。
反応の後に思考がある。今この瞬間に起こったことが、彼女には信じられなかった。
アンナはひざから崩れ落ちた。
彼女は死ぬ。
ミランダは十字の杖を握り、アンナの前に立ちふさがった。
「ミランダ!前に出るな」アイルは叫び、アンナを飛び越えてゴブリンにとびかかった。
ゴブリンは横なぎに剣をふるった。しかしアイルはそれ以上に早く接近し、刃の根元を肩で受けた。
服ごと肩が裂けた。しかし傷は浅い。
アイルはピックをゴブリンの首の根元に打ち込んだ。そして背中から地面に倒した。
しかし、このゴブリンは痛がるそぶりを見せない。
次の瞬間、ゴブリンはアイルの股の間に足を入れ、巴投げでアイルを放り投げた。
ゴブリンは立ち上がった。
ジェイが突進し斧を振り下ろしたが、やつは半身を捩ってなんなくよけた。
勢い余った斧は地面に突き刺さった。
アベルはジェイの脇から身を乗り出すと、細身の剣から素早い突きの三連撃を放った。
その最初の一撃はゴブリンの手の甲を切り、残りの二発は空を切った。
アイルは立ち上がり、ゴブリンの背後から走り寄った。
ゴブリンは踵を返し森の中に逃げ込んだ。
「ミランダ、アンナの治療を終えたらすぐ来い!!!」アイルはそう叫ぶと、再びルケントに続く道に入った。
彼は女が再び人質に取られることを危惧したのだ。
道を曲がると、血の海に倒れ伏す女がいた。彼は急いで女のもとに駆け寄った。
そして短剣を拾い上げると、森に正対して立った。
そのまましばらく時間が過ぎた。
やがてミランダが駆け寄ってきた。
「助かるか?」アイルは森に体を向けたまま聞いた。
ミランダ伏せる女の背中に手を当てた。そして魔力を込めた。
しかし、しばらく後、彼女はアイルを見上げ首を振った。
女は死んだ。
「アンナ、大丈夫か?」アイルが聞いた。
「ええ、大丈夫」アンナは答えた。ミランダが急いだせいだろうか、首筋にはかなり傷跡が残っていた。
「やつの肩にピックを刺した」アイルは言った。「イブ、血の匂いを追えるか」
イブは頭を下げコールの顔を覗き込み、森の中を指さした。コールはアイルの細剣の先についた血糊を嗅ぐと、イブの顔を覗き込んで、尻尾を振った。
「追えるみたい」
「ミランダはあと何回魔法を使える?」
「致命傷を治せるのはあと一回、軽いけがを一回です」
「わかった。今すぐやつを追ってけりをつける」
彼らはその場からすぐに森の中に入り込んだ。イブを先頭に、コールが血の匂いを追跡する。
奴にはすぐに追いついた。岩に背を預けてぐったりと脱力し、肩で息をしていた。
”前”
アイルはエーテルを断ち森の中に沈みこんだ。
彼の前は完ぺきだった。枝をかき分けてアイルの姿が見えなくなると、イブはもう彼の姿を見失った。
そうしてしばらく後、ゴブリンが休む大岩の後ろで木の枝が不自然に揺れた。
あれが合図だ。
ジェイが大声をあげながら突っ込んだ。
またしてもゴブリンは体をよじり軽く斧をよけた。だがこれでいい。
アイルは岩陰からゴブリンの背後を取ると、やつの頸動脈めがけて水平に倒したナイフを差し込んだ。
その瞬間、ゴブリンは勢いよく顔を振った。そして短剣ごとアイルの腕をがっちりと咥え込んだ。
「なっ!!!」アイルは思わず声を上げた。なぜだ。完ぺきに気配を消したはずなのに。
いや、アイルは既に姿を見られている。だからなにか予期していたのだろう。俺は誘われたのだ。
肩の傷の血の匂いだろうか?それを嗅ぎ取ったのか?
次の瞬間、ゴブリンの汚れた乱杭歯がアイルの腕にさらに強く食い込んだ。
「ぐあぁっ」アイルの口から悲鳴が漏れた。ゴブリンはそのまま腕を伸ばし、尖った爪をアイルの目に差し込んだ。
アイルは眼科から血が噴き出した。アイルは膝からくずれた。
そのとき、アベルが突進し細剣を突き出した。ゴブリンは大きく飛びのき、大岩の上に立った。
イブが肩から弓を抜き矢を放ったが、やつは大岩の上からあっという間に身をひるがえした。
そして今度は森の下生えからガサガガサとやつが素早く移動する音が聞こえた。やつは大きく回り込みミランダを狙う算段だろうか。
アンナが森の中に杖を向け呪文の詠唱を始めた
「Oum el jackt……」しかし彼女が呪文の詠唱を終えることはなかった。
アンナの声が響くとすぐに森の中の音は消え、やつの気配は消えてしまった。アンナの手元に集まったエーテルは、そのまま雲散霧消した。
6人はそのまま立ち尽くした。彼らは臨戦態勢を解くタイミングを見失った。
その時、背後の森の中からガサゴソと足音が聞こえた。それは複数人が森の中を進む気配だった。
まずい。こっちは満身創痍だ。アイルは痛む腕で短剣を握り直した。
やがてがさごそと森の枝を分け進む者の正体が見えると、それは果たして人間だった。
「お前たち、大丈夫か?」男が聞いた。彼の後ろからさらに仲間の男が顔を出した。
「森の血をたどって後を追ってきたんだ。きみの血か?」
「ええ」アイルは答えた。
「君たちは、もしかして今日ルケントにやってくる予定の義勇兵かな」
「そうです」アイルは答えた。
「そうか。血の匂いが立ってるから一旦服を洗った方がいい。代わりの服はもってるか」
「いいえ、持っていません」アイルは答えた。
「きみたちは満身創痍みたいだな」男が言った。「君たちは一度ブリスコーへ戻った方がいい。こんなところで半殺しになっているようじゃ、先が思いやられるぞ」
6人はブリスコーへと戻った。ミランダの魔術が必要になる可能性もあるため、アイルは片目がつぶれたまま歩いた。途中ですれ違った冒険者たちはぎょっとして何人も声をかけてきた。彼らはそのたびにゴブリンの特徴を伝えた。
彼はブリスコーへ戻ると、そのままアンナと教会へ向かった。義勇兵の治療費は兵団が負担してくれるし、ミランダにも体力は使わせたくないということもあり、教会での治療となった。年かさの女性に右手をかざされると、彼の右目はあっという間に名元通りに戻ってしまった。
6人は広場の噴水に腰かけた。アイルは話し始めた。
「まず今回の失態は隊長の俺の責任だ。アンナ、ケガさせて悪かったな」アイルがそういうと、アンナはうなうずいた。
「まず起こったことを整理しよう。事前の話し合いでは、俺が先行して敵に対して先制攻撃を加えるはずだった。しかし、出会い頭から囮につられてしまった。そのことで先手を取れなかった。そして、俺は、その後はうまくは敵の背後をとることは出来なかった」
ジェイが言った。「おれも斧じゃだめだったわ。接近戦仕掛けられるとなにもできない。森の中でもうまく振り回せなかった。やっぱ剣と盾買わないとな」
「俺も盾もつよ」アベルが言った。
「アンナは魔法を撃てなかった。それは、そもそも俺たちが敵を抑え込めていなかったことが原因だ」アイルが言った。
だアンナが呪文を唱えた瞬間にやっこさんが逃げたのは朗報だな。たぶん攻撃魔法のたぐいだと思われたんだろうけど、結果としてまだ素性がばれてないことがいい」
「あたしは矢を一本も撃てなかった」イブが言った。「うまく射線にいれることができなかったわ。根本的に矢を放つタイミングがなかったの」
「多分威嚇射撃でもいいから撃つべきなんじゃないか?全然外れても構わないから」アイルが言った。
「うん」
「敵の注意が一瞬でも逸れれば、価値があると思う」
「わかった」
「最後にミランダ、君は仲間がやられても絶対に前線にでちゃだめだ。混戦になったら仲間を置いてでもすぐに距離を取ること」
「わかりましたわ」
「正直、全体的に反省点が多すぎてまとめきれないな。ただ問題の根幹は、そもそも隠密行動ができなかったことと、班の防御力の低さとだと思う。後者はそもそも混戦状態にならないと露呈しなかったわけだから、今回は誰も死なずに済んでよかったと考えよう」
みな得心してうなずいた。
みながそのまま噴水の際でそれぞれが自分の思考に沈んでいると、城門からトグマ達の班が帰ってきた。
「トグマ、お前どうだった」
トグマは指三本を掲げた。
「まじか」
「まあな。ゴブリンなんて雑魚雑魚。お前たちは?」
「……」
「ん?まさか?」
「ゼロだよ」
「はああ?お前ら成果ゼロか?っくぁああ?雑っ魚ぉおお?」
「うぜえな。能力者と会ったんだよ」
「……マジ?」
「ああ。あれは能力者だった。俺らあっという間に死にかけたよ」
「っは~。死んじまえばよかったのにな~」
「うぜえよ、お前はなんで帰ってきたんだよ」
「俺か?俺は剣が折れちまったからなあ」
そういうとトグマは鞘から真ん中で折れた剣を抜きだした。
「うぜえな技使ってきたんだよ」
「技?」
「わからん。鞘に納めた剣を、瞬間的に抜き放つ、みたいな技だ」
「なあ君たち、今の話ちょっと話聞かせてもらえないか?」話をそばで聞いていた冒険者が割り込んできた。見ると、森で出会った赤髪の冒険者であった。
「能力者と会ったといったね。そいつの技をやって見せてくれないか?」
アイルは立ち上がり、腰の短剣に手を当てて、そのまま鞘から抜き放つと同時に振って見せた。
赤髪は仲間の冒険者を振り返り、うなずいた。
「多分居合術だな。恐らく能力者だと思うけど、もしそうなら手配書を出さないといけない。今ミラーさんっていうベテランが冒険者事務所にいるから、その人に話を聞いてもらいな」
彼らは冒険者事務所に行き、ゴールに事のあらましを報告した。
「なるほど居合術か……おいミラー、こっちに来い」
ミラーと呼ばれた男が立ち上がりアイル達のテーブルのそばに立った。
彼は隻腕の剣士であった。左手には義手をつけ、顔の左半分には傷が入り眼帯をつけていた。
「アイル、やってみせろ」ゴールは言った。アイルは先ほどと同じように、ゴブリンの真似をして構えた。
「確かに居合術だろうな。居合とは、九字と同じく東洋の武術の一派だ。居合については俺は触りのことしか知らないが……」ミラーはそう言い、腰に下げた剣に手をかけた。
「西洋直剣の場合、居合を行うのは非常に難しい。というのは、鞘から剣を引き抜く場合に刀身と同じ距離だけまっすぐ剣を引き抜かなければならない。俺も片手で剣を抜くから、この難しさはわかるんだが……」ミラーはそう言い右手だけで鞘から剣を抜いた。確かに長い直剣の場合は右手を目いっぱい伸ばしてようやく剣先が鯉口から出る程度であった。
「ゴブリンの場合には手足が短いのだから、目いっぱい手を伸ばしても剣を鞘から抜けないだろう。ではどうするか」ミラーそう言うと腰を落として”ため”を作り、鞘ごと剣を深く腰の奥へ押し込んだのち、鯉口を切ると勢いよく剣をはじき出した。
鞘から飛び出した剣はほんの一瞬だけ宙を舞った。その柄をミラーは指の先で握り、静止した。
「ここ。剣を最大限引き抜いた瞬間は、指の握りが甘く無防備になる。そして腕を目いっぱい伸ばした状態では剣は振れない。剣を引くことができないからな。だからこの状態からゴブリンは、一旦剣を体に引き寄せるはずだ」
ミラーはそう言い、腕を縮めると同時に柄を強く握りなおした。
「つまりゴブリンの居合はジグザグの動作になってるんだな。これを目にもとまらないスピードで行うから、剣筋を目で追うことはできない……」ミラーはそう言い剣を鞘に納めた「しかし所詮はめくらましだ。人間が刀で行う居合術とは刃が通るまでの時間に雲泥の差がある。種さえわかれば、倒すことができるだろう」ミラーは言葉をそこで切り、アイルをみつめた。
「剣を抜き切った直後が弱点、ということですね」アイルが言った。ミラーはうなずいた。
「左様。敵と対峙した時、相手の剣の長さと腕の長さを見比べてみろ。その差から剣が実際に振られるまでの時間が逆算できるはずだ」
アイルはミラーに礼を言いギルドを出た。そしてその足で武具店へ向かった。
ジェイは斧を売り、両刃の大剣と盾を買った。
アベルは小ぶりのラウンドシールドを買った。その表面には北部連帯の黄色と青の縞模様のはげた塗装が残っていた。
その後、皆は義勇兵宿舎で夕飯を食い、早めに寝床についた。




