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ネーヴェ陥落

 オークたちがネーヴェを支配してから丸1日が経過してた。

 門が破られ、多くの兵士たちが殺された。降伏した者も広場で斬首された。子供達は人質に取られ、親から引き離されて議会講堂に集められた 。

 ここに来たときは最初は泣きはらしていた子供達も、今はほとんどが泣き止みうつむいて床に座っていた。


 セーラたち学生も子供達と一緒に隔離されていた。彼らは丸一日食事をとっておらず、さすがに空腹を感じた。しかし、用と足す場合以外は講堂を出ることは許されなかった。


「このままここにいても埒があきませんわね」セーラが言った。

「どうするつもりだ」同じく学生服を着た男が聞いた。彼の名はデインといった。彼は毎年入ってくる騎士団からの出向者で、魔剣術の習得のためにこの地に赴いていた。

「私たちだけで脱出します。子供たちが人質から解放されれば、先生達は奴らと心置きなく闘うことができるはずです」

「脱出する方法に心当たりでもあるのか」

「あります 。王族のための秘密の脱出路があると聞いたことがあります」

「秘密の脱出路か。確かにそういったものはどこの国にもありそうな感じはするが……だがどこにあるんだ」

「私が聞いた話では、玉座を横にずらすと、その真下に地下への階段があり、そこから城壁の外へ脱出できるはずです」

「よく知っているな、そんなこと」

「これでも王族の端くれですから」

「だがまずどうする。扉の外の見張りはどう処理する」

「もちろん私達で倒すんですよ。オークの一匹ぐらい屠れませんか」

「簡単にいうがどうだろうな……奴らは軍属で小さな集落で暮らしてるような野良オークじゃない」

「あなたならできます。あなたの剣の腕は誰よりも私が保証します」

「そうか。完全に不意を衝ければ、倒せないこともないとは思うが……」

「このままここにいてもいずれ皆殺しにされるだけですわ。行動しましょう!」

 二人は他の学生を手招きして呼び寄せた。本当は魔術学校には200人を超える生徒がいるのだが、反抗を恐れてか細かい人数に分けられて収容されていた。殺してしまわない理由というのは、おそらくローデシアへ連れていくためだろう。

 そこにいた生徒はルドルフという名のデインの同僚と、セーラの友人のリリィとシータだった。

 彼女は計画を皆に話した。

 セーラは人差し指を立て、口に当てながら立ち上がった。子供たちが彼女を大きな瞳で見つめていた。音を立てる者はいなかった。

 シータはポケットから白墨を取り出し、床に六芒の大きな魔方陣を描いた。そしてその中央に仁王立ちになりしばらくすると、魔方陣の線が光りだした。

 セーラは空に両手を掲げると空中に大きな水の塊を生み出した。

 リリィは青い意志がはめ込まれた杖を構えた。その口からは白い吐息が漏れていた。

 デインとルドルフは扉の両脇に立ち、合図を送った。

 セーラは水塊に力をこめ扉の右奥に向かって打ち込んだ。量の扉が吹っ飛び宙に舞い飛んだ。

 間髪を置かずリリが杖を口元に当てて息を吹きかけ魔法を放った。それはセーラの放った水の塊とぶつかり、一瞬のうちに廊下を凍り付かせた。

 すかさずデインとルドルフが廊下に躍り出た。デインは空手に構えた両手の中から光の剣を生み出し、扉の右奥に向かって切り込んだ。

 凍てついた廊下に血潮の鮮血が舞った。

 一瞬のうちにオークは凍り付いた。

 ルドルフは扉の見える位置に立っていたが、すぐに力を抜いた。どうやら、すでに片が付いたらしい。

 シータも脱力し、それとともに足元の魔方陣は輝きを失っていった。

 計算上は交代要員はあと3時間は来ないはずだった

 彼女は2階の廊下の窓から外の通りを覗いた。通りはがらんどうとして誰もいなかった。この議会講堂は王宮の隣に建てられているため、そこへ向かうには壁を乗り越えるだけでよかった。

「小間使い用の出入り口があります。そこから侵入しましょう」

「わかった」

 彼らは子供を連れて議事堂の一階まで降りた。一階には死体が散乱しており、すでにそれらはつんとする異臭を放っていた。デインとルドルフはそれぞれ剣を拾い上げ、大きな子供に剣を持つよう指示した。

彼らは庭に出ると、そのまま芝生を突っ切って塀まで向かった。デインは塀の上に登り、上から子供を引っ張りあげた。そして飛び降りる子供を舌でルドルフが受け止めた。こうして皆が王宮の庭に侵入した。

 彼らは小遣い用の扉から宮殿の中に侵入した。宮殿の中は外と同じようにがらんとして人の気配はなかった。

「敵はどこにいるんだろうか」デインは言った。

「敵の大半はおそらく図書館にいるのでしょう」セーラは答えた。

「図書館?なぜだ」

「おそらくやつらの狙いはソロモンの禁書庫です。太古の禁じられた魔術を手中に収めたいたいのでしょう。禁書庫には防御結界が張られていますし、おそらく中に入るのに時間を要しているのでは」

「なるほど」デインは言った。


 彼らは廊下を走った。宮殿には誰一人として警護の人間はいなかった。しかし玉座の間の手前までたどり着いたとき、ゲイルが右手を上げて皆を静止させた。

 「「中に誰かがいる」」デインが小声で言った。

皆息を飲んだ。デインは扉の鍵穴から部屋の中を覗いた。そこには、白い髭を蓄えた魔法使いが玉座の間に腰を掛け、肘掛を指でトントンと叩きながらくつろぎ物思いにふけっていた。

あるいは妄想にふけっているのだろうか。自分がこの部屋の王になった妄想をしているのか。

デインはルドルフにも鍵穴を見せた。

「「倒すしかない」」デインは言った。セーラはシータに目で合図を送った。

シータは再び床に魔法陣を描きいた。彼女が魔方陣の上に立つと、やがて魔法陣が光り出し、膨大なエーテルの流れが形成された。これほど大きなエーテルならすぐに敵は気づいてしまう、そう思いデインは再び鍵穴を覗き込んだが、しかし魔法使いは自分の妄想にふけっており、口元ににやにや笑いを張り付けながら肩を動かしていた。シータは両手を肩の高さに掲げ、口元で何かを唱えた。。

 瞬間魔法陣から光が放たれた。光は扉をぶちぬき、部屋の中を灼熱のエネルギーで焼き尽くした。やがて彼女の手から光の線が途切れた瞬間、デインとルドルフは部屋に突撃した。魔法使いはまだ生きていたが、死にかけていた。焼けた服がケロイドがむき出しになった肌に張り付いていた。彼は荒い息をして、真っ赤に充血した目でデイン達を見つめ返した。しかし、やがて呼吸をやめ死んだ。


彼の座っていた椅子は吹き飛び壁に激突していた。その椅子が本来あった場所には地下へと続く階段があった。

殿を務めるルドルフは慎重に椅子を動かし穴をふさいだ。


彼らは急いで階段降りた。最下層は地下水に水没しており水浸しになっていた。おそらく川の水位よりも高さが低いのだろう。この水がはけることはないようだった。壁の両側は黒い色をした石畳に覆われていた。おそらく遥か古代の建築技術によって作られたトンネルだろうか。


その道をしばらく奥に進むと、今度は上りの螺旋階段があった。彼女たちはその螺旋階段を上った。そしてしばらく進むと天井が行き止まりになって天板が何かに塞がれていた。セーラはその天井を杖でガツガツ叩くと、天板がわずかに動くような感触があった。

「俺が変わる」デインがそう言い、セーラと入れ替わると両手を当てて天井を持ち上げた。頭上から光が差し、天板が回転しバタンと倒れた。

出口から出ると、そこはどこかの草むらの中だった。振り返ると、100ヤードほど先にネーヴェの外壁が見えた。地下道の出口は草むらに覆われていたのだ。

「みんな姿勢を低くして歩いて外に出て」セーラーは階段の下の子供達に言った。

 ルドルフは再びしんがりとして扉をなるべく元通りに元に戻しておいた。はだけた土くれをはたき、草を寄せて天板の境目がなるべく見えないように加工した。

「このままラインベルクに向かう」デインは言った。「少し下流に行くと漁船が置いてあるから、それに乗って下流へ下ろう」

 こうして彼らは子供たちを乗せて、その途中で中州にたどりつきアイル達と合流した。


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