都市からの逃亡
ーアイルたちが防鎖を越える二日前ー
ネーヴェの魔法学校ではこれから進級試験が行われるところであった。
目深に三角帽をかぶった先生は黒板の前に立ちこう言った。
「これから指示する素材を自分の力で集めてこい。そしてその素材を使い錬成陣を組み、合成皮革を生成するのだ。これが進級試験の内容だ。その皮革は、固いなめし革の代わりで盾や鎧の材料となる。出来の良いものは鍛冶屋と取引を行うことができるのでそれなりにいい収入になるだろう。金が絡むので真剣に取り組むようにしろ。特に後ろの落ちこぼれ三人集は必ず結果を出すように」
教室集がクスクスと笑いに包まれた。落ちこぼれ三人集とは、教室でも学校でも成績は常に最下位の女子三人組であった。
三人は中庭で昼食を食べながら、今後の予定について話し合った。
「さてどうしようか。私たちは前衛をどこかで用意しないと」
ドアンナが言った。ドアンナはこの落ちこぼれ三人の中では一応のリーダー格だった。度の強いメガネをかけていて、その頭は常に巨大な三角帽に覆われていた。
「クラスの男子はどうせ頼んでもやってくれないよね」
アンナが言った。アンナはショートボブの黒髪をした少女で、3人の中でも最も成績が悪かった。つまり魔法学校で常に最下位の生徒であった。
「あいつらは無視。冒険者ギルドで逞しいお兄さんたちに前衛を頼もう」
薄い金髪をしたつり目の少女が言った。彼女はレイセンと言った。 彼女は本来東夷の出身であった。しかしながらわけあってこの家に流れてきたのだ。彼女ドアンナと同じく夏場でも常に頭部を隠し、分厚いロングスカートに妙に膨らんだ下半身を隠していた。クラスメイトはその膨らみの中に何があるのか全員が知っていた。
「でも私たちお金持ってないじゃん。お金なしで人なんか雇えるの?」とドアンナ。
「そこは若さを武器にします。私たちピチピチギャルと冒険したい人、挙手~」レイセンが応えた。
「そんなんで引っかかる奴いんのかね」
「じゃあこういうのはどう?お兄さん達、どうか私たちをかわいそうな若人を助けてください。うるうるうる」
「いや無理だろ」
「じゃあお金を後払いするのはどうかな。私たちが将来作るなめし革の代金で後払いでお金を払うっていうのは」アンナが行った。
「それ採用~。ものは試しということで早速冒険者ギルドに入ってみよう」
しかし彼女たちの話は途中で中断された。彼女たちの元へ、同じく3人組の女子がつかつかと行ってきたのだった。
先頭に立つ女子はセーラと言った。彼女達はいわゆる学校のマドンナだった。ヒンキーズとかいうふざけた名前の女子グループを結成していた。要するにバカの集団だ。
「あら最下位ガールズさんごきげんよう。皆さんそんなせせこましい場所でこそこそ食事をして一体どうしたのかしら」
「うぜえ」ドアンナがうめいた。
「あなたたち金もなければ顔も悪い、成績最下位のびんぼっちゃまたちに前衛職を探す当てなどあるのでしょうか」
「あんたには関係なくない」ドアンナが作り笑いをしながら強がって言った。
「もしよければ私の従者達をを貸して行っても良いのですけれども?」
「あんたに借りなんかつもりはないわ。どっか行きなさい」
「あらまあ強がってからに。もう私の助けが欲しければいつでもいらしてください。おほほほほほ」
こうしてセーラ達は高笑いしながら去っていった。
「くそうざいあのバカ女」ドアンナは彼女たちの背中に向かって舌を突き出した
「素直に助け借りたら?同郷なんでしょ?」
「絶対嫌よ 私は自分の力で……とにかく、はやくギルドにいきましょ」
三人は冒険者ギルドへ向かった。この街の冒険者ギルドは酒場と併設されており、昼間から飲んだくれの冒険者たちがくだを巻いていた。
三人は酒場のスイングドアの前に立った。
「私このドアを見るたんびにあーここくぐってみたいなーと思ってたのよね」ドアンナが言った。
「じゃあ大人の階段くぐりますか」レイセンが続けた。
三人は笑い、ドアをくぐった。
途端にツンとくる酒の匂いがよってきた。
風貌よろしくないハゲ頭の男がドアのすぐそばで背中を丸めてしゃがんでいた。その隣には片目を切られた隻眼の男がうんこ座りで胡乱げにドアンナたちを見上げた。
三人はいそいそとその三人の横を通り過ぎ、ギルドの受付の前へ進んだ。
受付嬢は厳つい風貌であった。美しい金髪に女性らしい黒いヘッドバンドを頭につけてはいたが、眉毛を逆八の字にしぼり、眉間に縦じわを寄せてやってくる三人を睨みつけていた。
「ここはガキの来るところじゃねぇ。死にたくねーなら帰んな」受付嬢はまさに吐き捨てるという表現が当てはまる口調で言い放った。
「私たちは、別に冒険者になろうというのではありません。冒険者様方に依頼をお願いしたいのですが……」
受付嬢は舌打ちをして紙を差し出して言った。「10カバー。用件をかけ。書いたらそこの掲示板に貼ってやるよ」
ドアンナは紙に流暢な筆記体で依頼を記入した。しかし受付嬢はそれを一瞥すると、破り捨てた。
「馬鹿野郎。こんな文字読めねえよ。書き直せ」受付嬢は代わりの紙を渡した。
ドアンナはブロック体で大きく文字を書いた。
受付嬢は渋い顔をしてその紙を上から下まで眺めるとドアンナに突き出した。
「絵はないのか?」
「絵がいるんですか?」
「普通は依頼の他に絵と値段をどどーんと書いとくんだよ。冒険者が全員文字を読めるわけじゃねーからな。掲示板見てきてみ?」
ドアンナ達は掲示板を見に行った。たしかに依頼の内容の他に大きく魔物の絵と依頼料金が大きく書いてあるものばかりだった。
彼女たちは受付に舞い戻った。
「わたし、絵なんか描けないんですが」ドアンナが言った。
「なら人に頼め。あそこの小さなテーブルにインク壺出してる男がいるだろ。あいつだ」
「ちなみに料金はいかほど……」
「三十カパーだな」
「わたしたち、まったくお金ないんですが……」
「だったら今ここで依頼してみたらどうだ?いちおう言っとくけどガキの依頼でしかも後払いなんて受けるやつめったにいねえよ? 」
ドアンナは酒場の酔いどれ客の方を振り返り、堂々とした声で話し出した。彼女は学校でも落ちこぼれであったが、態度振る舞いや話し方は堂に入っているとアンナ常々思っていた。
「私たちはメーヴェ第3魔法学校のものです。え~皆さんの中で前衛を担ってくれる方を募集しています。依頼は東のルアンの森でカーバンクルを10匹刈ることです 」ここでドアンナは両手を顔の前に掲げて言った。
「どうか……可哀想な私たちを助けてください!お願いします!うりゅうりゅうりゅ」
ムサ苦しくたむろする冒険者たちはほとんどが苦笑いを浮かべて無視した。しかし部屋の奥にいる一人の男から声がかかった.
「料金は?」
「料金は後払いをお願いします。依頼を完了した後、カーバンクル防具の材料にして、それを火事に売りさばいてからお金が入ります
「それは何日後の話だ」
「おそらく3日後になるかと思いますけど」
「じゃあ俺はいいわ」冒険者は言って手を振った。
しばらく冒険者たち静まっていたが、また各々自分たちの会話に戻り、また酒場は騒がしくなった。
依頼は見事に失敗したのだろうか。
「どなたか~どなたか私達の依頼を受けてください、どなたか~」だんだんとドアンナの声量も小さくなっていった。彼女はレイセンの方を掴んでいった。
「この子が体を貸しますから!」
「おいアホ!滅多なこと言うもんじゃねーぞ!」
真後ろで聞いていた。受付嬢から大声で怒鳴られた。
あまりの大声にドアンナは体をビクリと震わせて驚いた。
「ただの冗談だったのですが……」
「黙れ!」
「すっ、すみません」
その時酒場の奥から若い男が進み出て声をかけた。
「あのさ、よかったら俺たちが組みたいんだけど」
彼らは三人組の若い冒険者だった。一人は長身の槍使いだった。もう一人は金髪の剣士であり、もう一人はドワーフとの混血だろうがたいのいい前衛の盾持ちだった。
その様子そばでを見ていた飲んだくれのひげおやじが声をかけた。
「おーいお嬢ちゃん達。そんなへなちょこと組んで大丈夫かね」
「おっさんはうるせえよ」槍使いが嫌そうに言った。
「嬢ちゃん達やめときな。その若造はこの冒険者ギルドで一番腕っぷしが悪い。任務の半分は失敗して逃げ帰ってくるぜ」
「そうなんですか」レイセンがそう言いとまどっていると、受付嬢がまた声をかけた。
「新米最初は半分ぐらい失敗するもんだ。それにそいつらはいいやつだよ」
ドアンナ達はお互いに顔を見合わせた後、もう一度冒険者たちを見た。
槍持ちは自信に溢れ体を反り、顔はイケメンだった。
剣士も金髪をボブにした中性的な顔立ちで、長いまつげが印象的だった。
盾持ちは若くして髭面で凹凸の激しい男性的すぎる顔立ちだったが、男前といえば男前だった。
彼女たちは男たちの顔に納得した。そして彼らと冒険へ行くことにした。
ネーヴェの東門はまるで魔物の気配を感じないほど平和だった。気持ちの良いそよ風が吹き、草むらが風に波打った。
6人は道中のんびり歩きながらそれぞれ自己紹介をした。
「ではまずわたしから。私はドアンナ 、ネーヴェ第三魔法学校の生徒で成績は学校の下から3番目です。専門は雷魔法です」
「雷だなんて珍しいね」ダグラスが言った。
「私はレイセンです。魔法学校では下から2番目の成績です。専門は火炎魔術です」
「私はアンナです。え~私の魔術については詳細は話せません」
「だめだよ、お互いの力についてはきっちり話さないと」ミランが言った。
「じゃあえっと……影です」
「影?」
「ああごめんなさいい、全然役に立たない力なんですなのでお見せできません。わたしは学校でもいつもイビリっけつで……」
「まああんまり詳しくは話せないのごめんね。あははは」ドアンナが変わりに応えた。
「 なるほど。じゃあまず俺から自己紹介するね。俺はダグラス、ハンザから冒険者目指してここにやって来ました。見ての通り槍の使い手です」
「僕はミランダ。世界一の剣士を目指して修行しているところだ」
「俺はタッカーだ。盾持ちだ。まあ力には自信があるかな」
「皆さんは冒険者になってどのくらい経っているのですか?」アンナが訊いた。
「まあだいたい半年ぐらいかな 」
「今まで倒した魔物で一番強いのは」
「自慢じゃないけどオークだよ」ダグラスが鼻を掻きながら言った。
「オークを倒したんですか?すごい」
「まあね。オークを倒せれば冒険者は一人前って言われてるからね」
「 いやいや怪我したやつを3人でがかりでリンチしただけじゃん」
「でもすごいじゃないですか」ドアンナは髪をかきあげながら言った。「ちなみにダグラスさんは彼女いるんですが?」
「ちょお前一体何を聞いてるんだよ」レイセンがにやつきながら言った。
「いや……いないけど」
「ほらいないってよ」
「あはは。じゃあ僕らも君たちのこと聞いていいかい?」
「なんでもどうぞ?」ドアンナが目をパチクリさせながら言った。
「君達はさ、魔法使いなのになんで杖を持っていないんだい?」
「ぎく」ドアンナがわざとらしく擬音を発した。「それは……企業秘密です。でも私たちにはオークをやっつける健志様達が付いてるんだから、なんとかなるっしょー!」
彼らはルアンの森に入った。しばらく下生えの生えた森の中をまっすぐ進むと、やがてこんもり盛り上がった穴だらけの赤土が鎮座する開けた土地を見つけた。
「ここに沢山いるぞ」ダグラスは言った
「穴の中に隠れてるの?うさぎみたいに?」レイセンは訊いた。
「あーその通り。うさぎの穴みたいに内部でつながっているんだ。だからまず穴をふさがないと」
「なるほど。じゃあ私が残った穴から炎を送り込むから、出てきたところをやっつけてちょうだい」
「了解」ダグラスが応えた。
まず6人は目に見える穴を全て塞いだ。そしてレイセンは残った二つの穴の片方に陣取ると、手元で何か印を作った。
「あれは?」ミランが訊いた。
「あはは。ごめんなさい、企業秘密で」ドアンナが応えた。
「ふ~ん。なんか本で読んだ東洋魔術ににてるなあ」
レイセンは一通り印を結び終わると、肺に思いきり空気を吸い込み、目一杯背中を反らした。そして大道芸人のように口から炎を勢いよく噴き出した。
「うわっすげっ」タッカーはうめいた。
熱戦で眩しいほどの火炎放射は、全てカーバンクルの穴に吸い込まれた。土で蓋をした他の穴が、内部の圧力で吹き飛び煙が勢いよく噴き出した。
「来るぞ」ダグラスは言った。そして次の瞬間、ダグラスの足元の穴から錯乱したカーバンクルが勢いよく飛び出した。ダグラスは瞬足の槍でカーバンクルの横面を挿し貫いた。串刺しにされたカーバンクルは、鼻から血を垂らして次の瞬間には息絶えていた。
次は三体のカーバンクルが一時に出てきた。ダグラスは死んだカーバンクルを槍から振り払いもう突きを入れた。他の2匹のうち一匹はミランが素早く切り飛ばしたが、タッカーはの体験は素早い小動物を屠るには少し重く大きすぎた。タッカーの体験の一撃を素早く避けたカーバンクルは、森の奥へ向かって全速力で駆けた。
「そっちに逃げたぞ」ダグラス叫んだ。
ドアンナは人差し指を天に掲げ小声で何か呪文を唱えていた。その雷針から一瞬電撃の紫電が見えたかとおもうと、彼女は人差し指を勢いよくカーバンクルに向かって振り下ろした。指の先から一瞬眩しい閃光が走った。カーバンクルは雷撃に撃たれ四肢を投げ出して即死した。
「次来るぞ」ダグラスは叫んだ。しかし、残りのカーバンクルたちはほとんど息も絶え絶えの状態であった。煙を吸い込み錯乱し足取りもおぼつかないまま穴の外に無防備に這い出てきた。
残りの個体はすべて男が屠った。こうしてあっという間に十匹のカーバンクルの死体が手に入った。
「楽勝だったな。君達だけでも行けたんじゃないか」ダグラスが入った 。
「いやいやそんなことはないよ~みんなかっこよかったよ」
「そうそう、男子がいなきゃ絶対勝てなかったよ~」
旦那は男たちを干せた 若い冒険者たちは照れくさそうに笑った。
こうしてわずか1時間の冒険の後に彼らは帰路に着いた。獲物は男たちが持つと言ってくれたので 女たちはそれに甘えることにした。そして六人は森から出た。
彼女たちは草地を渡り丘を超えた。やがてネーヴェの城壁の天辺が山なりの丘の上に見えてきた。やがて城壁の全容があらわになると、彼らはその異変に気づいた。
ネーヴェの城壁からは炎が立ち上っていた。煙が快晴の青空の中ただひとすじの白い筋となって天空へ登っていた。
ドアンナたちは歩を緩めた。そしてゆっくりと歩きながら城壁の外に集う人だかりに目を凝らした。
「あれは人間じゃない」ダグラスは言った。
彼らは背を低くして、草むらの中を分け入った。そうしてしばらく進み、また草むらから顔を出した。
ネーヴェの東門はオークの軍勢に襲われていた。門の外には何かの攻城機械だろうか、荷車に乗せられた機会がたくさん並んでいた。しかしこの距離からではそれが何なのか詳しく見ることはできなかった。
ネーヴェの高い城壁に梯子がかけられた。そして何匹かのオークがその梯子を登り始めていた。しかし城壁の上に既に沢山の弓兵が集っていた。城の上から矢が降り注ぎ、オークの梯子は横倒しに倒れた。
地面から城壁に向かって矢の応戦が始まった。
その時、東門の櫓の上から魔法の力が放たれた。巨大な炎の塊が空中に出現し、それは竜巻となって地面のオーク共に襲いかかった。
オーク達は逃げ惑い、一旦その場から退散した。
ダグラスは腰をかがめ慎重に草原を進んだ。そして近距離から攻城機の姿を確認した。一つは巨大な投石機であり、もう一つはかつて見たこともないほど口径の大きな、緑色のサビに覆われた大砲であった。
ダグラスは皆の元に戻った。
「俺たちではあの軍勢に立ち向かう術はない。いったんこの場所を離れてどこかへ逃げよう」
「わかった。どこへ逃げる?」ドアンナが応えた。
「もし軍隊が応援に来るならヴェリザードからだ。だからここから西にある砦にとりあえず逃げよう」
「分かったわ」ドアンナが返事をした。
そして6人は草むらの中を腰をかがめてまた進みだした。やがてネーヴェから南に伸びる太い街道に出た。
レイセンは南の道の先から何かが近づいてくるのを聞き取った。彼女が南の道の先に目を凝らしていると、次いでダグラスたちもその音に気づき、それが最初味方の馬だと思い立ち上がって手を振ろうとした。
「今すぐやめて!」何かに気づいたレイセンが鋭く行った。
彼女は三角帽を脱いだ。その金髪の頭の上には、一対の獣耳がピンと天に向かって立っていた。
ダグラス達は驚いた。その耳が音に反応してピクピクと動いた。
「あれは馬じゃない」レイセンは切迫した調子で言うと、ダグラスの手をつかみ草むらの中に引きずり込んだ。
他の仲間達もそれに習い草むらの中に身を潜めた。段々と足音が近づいてきたが、確かにそれは馬の蹄の音ではなかった。ダグラスはどうしても顔をあげて音の正体を覗き見たかったが、その欲求だと高いなんとかこらえた。やがてその重低音の蹄の音はダグラス達の目の前を通過した。ダグラスは草むらの僅かな隙間からの蹄の正体を垣間見た。
それは竜種だった。下等な竜族は人間が乗るように飼いならされるものがおり、東夷では王族がこの種の龍の乗り手として知られていた。しかしその竜種は馬より一回りほど大きいほどの大きさであるはずだった。目の前の竜種は羽をもがれたドラゴンのような大きさであった。いやひょっとするとドラゴンよりも大きい。翼竜の二倍はあるほどの大きな頭と、ゴツゴツした岩のようなまぶたに小さな緑色の目が埋まっていた。この龍に続いて、四十体ほどの馬がその後に続いた。
彼らが通り過ぎてから一分ほどした後、ダグラスは草むらから顔を出した。
馬を駆けているのは人間であった。彼らは皆灰色のローブですっぽり体を覆っていた。別に灰色のローブというのは魔法使いが好んで着る色でそう珍しいものではなかったが、軍団全員が灰揃えというのは異様な光景であった。
ダグラス達は南の大通りを一旦渡り、翼竜の集団が次にどう動くのか観察した。
それはオークたちに接近した。ダグラス達は戦いが起こるのを期待したが、それは起こらなかった。
彼らは互いに混ざり合い、遠目にはなにか話し合っているように見えた。
「あれは味方じゃない」ダグラスは言った「一旦ここから離れよう。ネーヴェを助けたいのは山々だが俺たちだけじゃ何もできない。ヴェリザードに救援を呼びに向かうのが最も適切なことだと思う。そして可能ならば増援の軍隊に加わるんだ」
五人はダグラスの意見に賛成した。彼らは草原を進みヴェリザードに通じている西街道を目指した。そこには城門から八マイルほど進んだ地点に歩哨の砦があったはずだ。
彼らは段々と日が沈む草原を突っ切り、歩哨の砦たどり着いた。砦は明かりが消されていたが、中にはすでにヴェリザードから進軍してきた兵士たちが装備を整えて戦闘準備に取り掛かっていた。
ダグラスは騎士に事のあらましを報告した。
「南からの魔法使い集団に、竜騎兵……確かにコンキスタでは竜を飼いならす実験をしていると聞いたことがあるが……」
「魔法使いの中に、悪魔の誘惑を受け国を売った者がいると聞いたことがあります」ダグラスは言った。「やつらもそのたぐいのものでしょか」
「俺にはわからん」
「僕たちも軍隊に加わりたく存じます」ダグラスが強い眼差しで騎士を見つめた。
「俺たちも戦うぜ?」部屋の奥で武装した冒険者が言った。彼は昼に冒険者ギルドでの入り口で酒に酔ってのびていた隻眼の冒険者だった。「俺たちはここに土地勘があるからな。夜中にでも遊撃してやつらの首の二つや三つとったらぁ」
「夜襲か……」騎士がひとりごちた。
「嫁があそこにいるんだよ。何もせずにここにただ座ってるわけにはいかねえ」
「よし、ならばその作戦に乗ろう。君たちは我々騎士団を先導してくれ」
「僕たちも戦いますよ」ダグラスが言った。
「やめとけ。お前みたいなひよっこ冒険者にできることは何もねえな」
「ですが……」
「やめろ足手まといだ。むしろお前たちはブリスコーへ向かって救援を呼べ。もう連絡は行ってると思うが、念のためだ」
「そんな、ガキの使いみたいな……」
「君は魔法使いを見たと言ったな。おそらくそいつらは国賊の魔法使いだと。君も国情は知っていると思うが、国家の内部に悪魔に魂を打った売国奴が多数潜んでいる。そしていま、ネーヴェは何の前触れもなく襲撃を受けた。そして君は、恐らくその売国奴達を見た。状況を鑑みるに、悪魔の奸計がいまこの場で起こっている。いま、この場所でだ。したがって状況認識は全てが疑わしく、これに対抗するには連絡線は多重化したほうが良かろう。これは重要な任務だ」騎士は言った。
「どれ地図を出せ」冒険者が言った。
ダグラスたちは言われた通りに地図を出した。彼は地図の一点を指さした。
「ここが浅い湾になっていて釣り舟がいくつか止めてある。ここから川を下れ。ブリスコーまでなら今出発すれば明日までには着くはずだ。さあ行け」
ダグラス達はすぐにそこを出発した。そして闇夜の草原を突っ切った。
ダグラスはネーヴェを振り返った。暗闇の地平線に火に包まれるネーヴェの城壁が見えた。
彼らは歩き、やがて地図に印された場所に辿り着いた。そこには小さな漁船が二艘、葦の上に揚げられていた。
彼らは船を漕ぎ出した。
川辺は暗く静かだった。彼らは川の流れに任せ船を漕いだ。しばらく進むと、下流の水平線に明かりが浮かび上がってきた。彼らはそれをブリスコー兵団の点けた光だと信じ、それを目指し船を漕いだ。やがて彼らは、それが灯火の明かりなどではなく、中洲の森が燃えているのだと気づいた。彼らは船の速度を落とし、慎重に船を進めた。やがて火に包まれる中洲の森の中から剣戟の音が聞こえてきた。
あそこで戦闘が行われているのだ。
「急ごう」ダグラスは言った。
彼は船を漕ぐ手を速くし、中洲の岸辺に船を寄せた。すると岸辺から、オークと人間とが数多の剣戟を交え、激しいく戦っている様が見えた。
「俺達も加勢するぞ」ダグラスは言った。そして岸に船をつけ中洲に上がった。
そして背後からオークたちに襲い掛かった。




