23、忘却の幼女
「見て分かるとは思うけど、こんな感じだからよろしくな!」
「現状は見て分かりますが、何をどうよろしくすればいいのか分かりません。最低限の引き継ぎはしてください」
「お、さすが騎士団長殿ご推薦ってやつだな。若いのにしっかりしてる」
お師匠様の適当発言に対して、呆れ顔のオルフェウス君。
見て分かるって部分はアレですかね。私を膝抱っこするお父様が殺気を放っている件でしょうか。
あと、しっかりとしているのは当たり前です。なにせ主人公ですからね!(どやぁ)
「……仕事の内容は、我が娘ユリアーナの護衛だ。それ以上でも以下でもない」
「はぁ……」
「親バカのランベルトは放っておくとして。なぜ護衛が必要なのかっつーのは、嬢ちゃんが魔力暴走……しかも特大なやつの生き残りだからってのがあるな」
「特大……なるほど」
特大? 魔力暴走に大小なんてあったの?
「まぁ、普通は家屋がどうにかなるような損害はないな。せいぜい暴走した本人が大怪我したり、魔力が中で爆発……まぁ、体の外に出ることはあまりないな」
ひぇ、それは怖い。
つまり私は、魔力が体の中も外もバンバン出てたから「特大」ってことになるのね。
「将来、強い魔法使いになり得るユリアーナお嬢様を、よからぬ輩から守るということですか」
「そそ。俺が帰って来るまで頼めるか? 十日くらいになると思う」
「了解です。騎士団長の頼みでもあるので、俺でよければ」
その整った顔をしっかりとお師匠様へ向けたオルフェウス君は、その黒髪を揺らし丁寧に一礼した。
お兄様よりも少し年上くらいなのに、とても大人っぽいなぁとか思っていたら、不意にお師匠様が私に問いかける。
「嬢ちゃんは?」
「ふぇ?」
「おい。『ふぇ?』じゃなくて。護衛はこいつでいいのかって話だ」
「えと、おりゅふぇしゅ……」
「オルでいい」
噛みまくる私に、笑顔を見せてくれるオルフェウス君。はぅぅ、顔が熱くなるぅ……。
「オルしゃま、よろしくおねがいしましゅ!」
やっぱり噛んだ。
ククッと楽しげに笑うオルフェウス君、そして、後ろから感じる冷たい空気。
「こいつでいいよな? ランベルト」
「……うむ」
お父様、全然「うむ」って感じじゃないなぁ。
「……不在の間はセバスもつける。それで何とかなるだろう」
あれ?
「ふざいって、おししょだけじゃない?」
「あれ? 嬢ちゃんは知らなかったっけか? ランベルトも三日くらい不在にするんだ。騎士団の演習に参加することになって……おい、嬢ちゃん?」
お父様がいない?
遠くに行っちゃうの?
「……ユリアーナ?」
上を向けば、無表情ながらも瞳を揺らすお父様。
心配してくれているのが分かる。
「とおく、いっちゃう?」
あの人みたいに?
「かえって、くる?」
お父様も、あの人と同じなの?
私のことを、捨ててしまうの?
お師匠様とオルフェウス君が慌てているのが分かるけど、今の私は「幼女のユリアーナ」に全部支配されている状態だ。
アラサーの由梨が大丈夫って言っても止まらない。周りを漂う魔力が、グルグルと集まってくるのが分かる。
これは、ヤバい。
するとその瞬間、私の体があたたかいものに包まれる。
お腹の奥に響くような低いバリトンの声が、何度も私の名前を呼ぶ。
「ユリアーナ、ユリアーナ」
「……ベル……とう……しゃま?」
「必ず帰ってくる。愛しいユリアーナ、私の命、私の永遠」
額や頬に、柔らかく温かいものが降ってくる。
それがもっと欲しくて、何度もねだってしまう。
「ベルとうしゃま、もっと、もっと……」
「ああ、私のすべてを捧げよう。愛しいユリアーナ」
気づけば、お父様に抱きしめられた私はキスの嵐を受けていて、お師匠様とオルフェウス君が生温かい目でこちらを見ていた。
あれれー? おっかしいぞー?
すんごく恥ずかしい状態になっているぞー?
「ランベルト、今度から遠征に行くなら、前もって準備しておけよ」
「……うむ」
「嬢ちゃんは話せば分かるんだ」
「……うむ」
お師匠様に怒られているのに、なぜか機嫌良さそうなお父様。
私をぎゅっと抱きしめたまま、つむじをチュッチュするのは嬉しいけど恥ずかしいので、もうそろそろやめてほしい。
「侯爵様って、本当に氷の属性なんですか? 甘味属性とかじゃなくて?」
「そんな愉快な属性があってたまるかっての」
こうして、多くの危機?を乗り越えて、オルフェウス君は私の護衛になったのでした。
「冒険者のオルフェウス様……ですか?」
「よろしく頼む。オルと呼んでくれ。あと俺は平民だから呼び捨てでいい」
「はい、オル様。私のことはティアと呼んでください」
「わかった」
そうは言われても、呼び捨てにしないところがティアっぽい。
神官のクリスティア……ティアが遊びに来てくれたので、これ幸いとばかりにオルフェウス君を紹介することにした。
ふふふ、これで物語の流れが整った気がするよ。
ティアはピンクブロンドの髪をふんわりと揺らして、首を傾げる。
「オル様は強い人だとは思いますが、護衛は彼一人ですか?」
「セバシュもいるの」
お茶のお代わりを入れてくれるセバスさんが、笑顔で一礼している。
そうなのよ。セバスさんはちょいちょい気配を消しているもんだから、きっと前世でいう「忍び」みたいなものだと思っている。
さっきも突然現れて、私とティアを驚かしたからね!
オルフェウス君は気づいてたみたいだけどね!
「俺は表向きの護衛だ。あの侯爵様のことだから、他にも護衛はいるだろうな」
お父様とお師匠様の前では丁寧な物言いだったオルフェウス君は、私とティアの前ではくだけた口調になっている。
それにしても、オルフェウス君が強いって、どうしてティアには分かったのかな?
「オル様は、たくさんの加護を受けているのですね」
「加護?」
「神様の加護ですよ」
おお、そうだった。
この世界にはたくさんの神様がいて、ごくまれに神様の加護を受ける人間がいるんだった。
オルフェウス君は主人公だ。神様の加護くらい受けているだろう。
そういう設定だった、と、思う。
「わすれてた……」
「ユリアーナ様?」
「お嬢様、どうした?」
なんか、すごく危険な感じがする。
元々忘れっぽい性質ではある。でも、前世で書いた物語を忘れているにしても、忘れすぎている気がするよ。
お読みいただき、ありがとうございます。
さすがにクリス神官(筋肉)というキャラを忘れているとか、あり得ないですからね。
え? そこじゃない?




