22、幼女は会ってみたい
お膝抱っこ継続中です。
魔法理論について語られる、お父様の心地よいバリトンボイス。
そこに少し掠れた声のお師匠様が、難しい部分に都度注釈を入れてくれる。
「まだユリアーナに魔法理論は早いか?」
「いや、これくらいの時からやってた方が、後々楽になる。意味は分からなくていいんだ」
お父様の言葉に、珍しくお師匠様は師匠っぽいことを言っている。
「むむむー」
魔法というよりも、前世で習った数学の公式のようなものの解釈というか。答えがこうなる理由を細かく理解させていく感じがする。
つまり、前世の私が苦手オブ苦手だったやつだけど……。
「ちょっとずつ、わかるきがします」
「無理はするな。ゆっくりでいい」
「あい、ベルとうしゃま」
幼女という柔らかい脳のせいか、ユリアーナの体がハイスペックだからかは不明だけど、不思議と難しい言葉や理論が自然と頭に入ってくる。
もしかしたら、中身がアラサーというのもプラスになっているのかも。
「ところで、ユリアーナの護衛の件だが」
「ああ、俺が遠出する間のやつか?」
「おししょ、とおで?」
「おう、ちょっくら奥さんの故郷に行って報告しないとだからな。この前の希少種密売事件のこともあるし」
申し訳なさそうな顔をしたお師匠は、私の頭をわしわし撫でてくれる。ふぉぉ揺れると思ったら、お師匠様の手を無言でお父様がペシッと払った。
「ユリアーナに触るな」
「いいじゃねぇか、これくらい」
ぶーぶー膨れるお師匠様を冷たい視線で一瞥したお父様は、その目をゆるりと柔らかくさせると私の髪を優しく撫でる。
「ペンドラゴンが不在の間、護衛をつける予定だ。面談をしてユリアーナが気に入れば採用しようと思う」
「めんだん、ですか?」
「私とペンドラゴンも一緒に、だ。騎士団長をつけようと思ったのだが、無理だと言われた」
「お前、そんな希望出したのか。どんだけ過保護だよ」
私もそう思う。
てゆか騎士団長って、護衛とか、そういう仕事しないよね普通。
「騎士団長は乗り気だったのだが、陛下が他国との演習が重なるから無理だと」
「え、ちょっと待って。演習が無かったら騎士団長は護衛やる気だったの? アーサーも許可する流れで?」
「うむ」
「うむ、じゃないだろ!」
お師匠様に激しく同意するよ! なに考えてるのお父様!
ところでお師匠の代わりの護衛なのに、魔法使いじゃないのはなぜだろう?
「ペンドラゴンは物理攻撃にも対応できる便利な存在だが、普通の魔法使いには無理だ」
なるほど、心を読んでの回答ありがとうございますお父様。
便利グッズ扱いされたお師匠様は、苦笑しながらお父様に問いかける。
「んで? 代わりはどうやって選んだんだ?」
「騎士団長が推薦する冒険者だ」
「冒険者?」
冒険者というのは冒険しているわけではなく、要は「何でも屋」だ。
ゴミ拾いや失せ物探しから、魔獣退治や要人の護衛まで何でもやる人たちのことを言う。
そう、この世界には魔獣という、前世でいうヒグマのような人を襲う害獣が存在する。それらを国の騎士団や傭兵が駆除することもあるけれど、大体は冒険者が依頼を受けて討伐しているのだ。
どんな身分でも『ギルド』で登録すれば活動できるため、ならず者や荒くれ者が多いとされているんだけど……。
貴族、それも侯爵家のご令嬢であるユリアーナの護衛に、身元がよく分からない冒険者を騎士団長は推薦するものなのだろうか?
「身元は分かっている。王都にある商会の息子で、商人に向いていないからと早くから家を出ていたそうだ。実力は折り紙付きと言われた」
「それにしてもなぁ……」
「まだ若いが実力もあり、騎士団長曰く『彼の理想は大きい』とのことだ」
「……なるほどな。そういうことか」
いや、どういうことかさっぱり分からないんですけど。
「彼の名はオルフェウス。冒険者ギルド期待の新星だ」
おお、期待の新星とは……。
……。
…………。
え、ちょ、おま……!? オルフェウス!?
さて翌日。
名前を聞いた私は一瞬意識が遠くなったりもしたけど、お父様が「やっぱやめた」とか言い出す前に何とか復活することができた。
さすがに前世で書いていた小説の主人公と同じ名前の冒険者と、会わないわけにはいかないだろう。
いや、騎士団長が推薦してるんだから、彼に違いないよね。確定だよね。
だから正直に言おう。
ぶっちゃけ、会いたい。
だってさ! 商業化した時にイラストレーターさんが絵にしてはくれているけどさ! 自分の作品の主人公をリアルで見ることができるとか、普通は出来ないしさ!
それにそれに、彼はスピンオフでどちゃくそ格好いいオジサマになるんですよ!
まだ若い彼が、いずれ世の女性垂涎もののオジサマになるんですよ!
「……ユリアーナ、楽しみか?」
「あい! たのしみでしゅ!」
「そんな顔をするなランベルト。見合いじゃねぇんだから」
「……当たり前だ。見合いなぞさせてたまるか」
「それもどうかと思うけどな」
お父様の問題発言が気になるけれど、今の私はそれどころじゃない。
主人公! 自作の主人公と会えるのですから!
護衛の話を聞いた翌日が面談になるとは驚きだ。
冒険者は常に仕事を入れているから、遠征依頼を受ける前に彼を確保したかったらしい。
「そもそも、騎士団に取り込みたいからといってユリアーナを利用するのが許せん」
「団長さんにも色々と事情があるんだろ」
なんと。オルフェウス君は騎士団長に(意味深ではないほうで)狙われていたのか。
さすが主人公、引く手数多だね!
わちゃわちゃしていたお父様とお師匠様は、案内役のセバスさんが姿を見せたところで静かになった。
部屋に入ってきたのは、少年から青年に成り立てといった風貌の若者。
張りのある黒髪は短く整えられ、切れ長の目は澄んだ青空のようだ。まだ幼さが残る整った顔をキリリとさせ、まったく隙の見えない所作には驚かされた。
商会の息子だとしても、貴族相手に礼儀良くできる人間はほとんどいない。
うーん、彼はもしかして……。
「どーも。俺はペンドラゴンの名を持つ魔法使いで、このユリアーナ嬢ちゃんの護衛兼魔法の教師をしている」
「私は雇い主となるランベルト・フェルザーだ」
「オルフェウスです」
よく響く声に思わずうっとりとする私だったけど、ちょっと冷たい視線を感じたから、慌てて背すじを伸ばし自己紹介をする。
「ユリアーナ・フェルザーでしゅ!」
そしてやっぱり噛んだ。
ククッと笑い声がしたほうを見れば、オルフェウス君が私を見てニヤニヤしている。
ぐぬぬとなっていたら、お父様が慰めるように頭を撫でてくれた。
「オルフェウス君、話をしたいから座ってよ。ほら、ランベルトも殺気を抑えて」
「……うむ」
どこか楽しげなオルフェウスにホッとしながら、私も座る。
「ランベルト」
「構わん、進めろ」
構うよ!!
なんで私だけ、お父様のお膝抱っこなのさー!!
お読みいただき、ありがとうございます。
ちなみに私の理想は「ちょうどいい感じ」です。




