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感じた世界は正に夢のように

「さて。ワシがお主に頼みたい事、それはお主らがプレイヤーと呼んでいる者達が住んでいる世界とは別にある世界……つまりは異世界に行ってもらってその世界の秩序を乱す者を倒して欲しいのじゃ」


『……はい?』



 プレイヤー達が住む世界とは別の世界?



「プレイヤー達……奴らは【人間】という種なのじゃが、人間の言葉で言うと異世界転移、とか異世界転生とか言うようじゃの」



 いやいや、異世界転移とか異世界転生とか言われてもよく分からないですって。



「その異世界は人間達プレイヤーの住む世界には無いような概念や魔物モンスターが居ての。それが近年徐々に力を増してきて世界のバランスが崩れてきてしまっているのじゃ」


『いや、あの?』


「そこでお主らの存在するこの世界から優秀な人材を異世界に送り込んで世界のバランスを保ってもらおうと思ったのじゃが、思いの他生きた生物を別の世界に移動させるのは困難を極めての。ならばと考えて、生きてはおらぬのに、自我と感情を持ち、尚且つ異世界に送り込んでも申し分無い力を発揮できるお主らゲームの世界の住人に目をつけたのじゃ」


『えーっと…?つまりはあれですか?私達が回線インターネットを通じて別のゲームの住人の所へ遊びに行く感じです?』


「多少意味は異なるがまぁそんなとこじゃの」


『その異世界とやらでは私は自由に動いて戦う事が出来る?』


「勿論じゃ。戦う事以外にも基本的に人間がやっている事なら何でも出来るぞい」



 これは正に私が望んでいた事。

 このチャンスを逃せばもう二度と私の願いを叶える事は出来ない…?



『それなら私は……』


『まてまてティルファちゃん!こんな胡散臭い奴の言う事を鵜呑みにするのか?こいつは如何にも自分はあなたの願いを叶える事が出来ますーみたいな感じで話しているが、こいつが別のゲームから来たキャラでは無いと決まった訳じゃないだろう?』


『あ……確かに』


『それに仮にその話が本当だとして、ティルファちゃんが別の世界にいっちまったら今目の前に居るティルファちゃんは……Frontierのキャラとしてのティルファちゃんはどうなるんだ?』


「ふむ。まぁお主のその疑問も最もじゃな。まず最初の質問じゃが、逆に問おう。何をして見せればワシの話が本当だと信じれるのじゃ?」


『む……そうだな。もしお前が本当にゲームのキャラでは無いと言うのなら、ゲームのキャラでは出来ないような事をして欲しい』


「例えばどんな事かの?」


『俺達の頭上にある画面。知っての通り俺達はあそこを通じでプレイヤー達の姿を垣間見る事が出来る。が、俺達はあの画面の外に出る事は出来ない。だからあの外に出てみてもらおうじゃないか』


「なるほどの。そう来たか」


『仮にも別の世界に移動とか訳の分からない事を抜かしてるんだ。その程度の事、容易いものだろう?』



 確かにこの人が何者かはまだ分からないけど、もし本当にあの画面の外に出る事が出来るのであれば、少なくとも目の前に居る老人は私達とは常軌を逸した存在なのだろう。



「勿論じゃ。ほれ」


『なっ!?』


『あっ!』


『『おぉっ!?』』



 目の前の老人がパッと消えたかと思うと、次の瞬間には老人は画面の外に居た。

 普段プレイヤー達の姿が見えるあの場所に。



「ほっほっほ。これくらいは造作も無いわい。ほっと」



 そしてまた画面の外から姿が消えたかと思うと、今度はまた私達の前に姿を現した。



『お前……一体何者なんだ?』


「何者かと聞かれると答えに迷うのじゃが……まぁ分かりやすい概念で言えば【神】かの」


『神!?ってことは俺達の生みの親!?』


「あぁ。お主らの解釈だとそうなるのか」



 神……?本当に……?

 でも、嘘を吐いているようには見えないし、現に私達の常識の枠には当てはまらない事は既に証明されている。

 ならこの人は本当に神様……?



「確かにお主らからしたら、この世界を、そしてお主ら自身を作り上げた者こそがお主らにとっての神になるの。だが、ワシは更にその上。お主らの生みの親を生み出した【創造神】と呼ばれる存在じゃ」



 私達の生みの親が私達の神様で、でも目の前の老人はその生みの親を生み出した生みの親で私達の生みの親にとっての神様は目の前のこの老人……?

 あ、駄目だ。なんかよく分からなくなってきた。



『???』


『んー……?』


「まぁそこら辺はどうでもええわい。深ぅ考える必要も無い。今の話は忘れてくれ」



 えー……



「要はワシはお主らが想像出来る範囲内の事であればなんでも出来る、という事さえ頭に入れて置いてくれれば良い」


『そう、か。そうなのか。おー……』



 珍しくレギュさんが動揺してる。

 まぁしょうがないよね。私だって意味分かんなくなってきてるし。



「それで次の質問じゃが、ティルファ殿が異世界に移動した場合、存在そのものはここに残る。が、感情や自我はそのまま異世界に移すわけじゃから当然失われる。それ故ここに残ったティルファ殿はプレイヤーに操られるだけの人形と化すの」



『おいおい!それじゃあ俺達の大切な仲間が1人減っちまうって事じゃねぇか!』


『ティルファは私達の中でも数少ない逸材。これからも共に戦う事が出来るものだと思っていたのだが……』


王者チャンピオンと呼ばれる我であっても、ティルファ殿から学ぶ事はまだまだある。それ故に思う所はあるの』


 実質こちらの私は死んだようなものになる。

 向こうの世界に行ってしまえば私はもう皆んなと手合わせをする事さえ出来なくなる。

 それは凄い寂しいし悲しいこと。

 でも……それでも私は!



『ごめんなさい皆さん!私はやっぱり自分力を存分に発揮できる場所に行きたいです!雑魚だ最弱だと蔑まれるのはもう嫌なんです!』



 これが私の本心。

 皆んなが私の事を凄い大切に思ってくれているのは普段の接し方からよく伝わってくる。

 そんな皆んなの元から自分から進んで去るのは申し訳ない気持ちはあるけど……



『……ティルファちゃんと別れるのは正直嫌だし行って欲しくない。でも、ティルファちゃんにはもっと活躍して欲しいし誰かに認められるべき才能を持っているってのも本当のところだ。だから頑張ってこい!ティルファちゃんなら他の世界でも余裕でいける!』


『……うむ。そうだな!今は友との別れを悲しむよりも、友の願いが叶う事を喜ぼうじゃないか!安心しろティルファよ!住む世界が変わっても我らの絆は断ち切れはせん!ハッハッハ!』


『我を唸らせたその実力があれば、どのような場所でも上手くやっていけるに違いない。ティルファ殿。そなたの強く気高く、そして優しい心をもって己が信念を貫くといい。大丈夫。何も心配せずともティルファ殿ならやれる』


『皆さん……!』


「ほっほっほ。美しき絆でそなたらは結ばれておるのじゃの。人間が作ったとは思えぬ程に眩い心じゃ。別れの挨拶はもう大丈夫かの?」



 こんなにも愛されて、私は本当に幸せ者だ。

 まだまだ皆んなと沢山触れ合いたかったけど、私は私が思うような道を選ぶ!



『はい!皆さん今まで本当にありがとうございました!私はこの世界から居なくなってしまいますけど、たまにでいいんで私の事を思い出して下さい!』


『あぁ!』


『勿論だ!』


『うむ!』


「それじゃあ準備はいいかの?」


『はい!』


「詳しい話はまた向こうに着いてから説明させてもらうわい。よし。それでは行くぞ。むむむむむ……はーーー!!!」



 あぅっ……!

 酷い……目眩がする……!

 視界が、グラグラ……

 駄目……

 意識が保てな…………




 ☆★☆★☆



「ん……ここは……」



 目の前に広がるのは綺麗な若草色をした草原。

 そして頭上にあるのは青い空、白い雲。そして眩いばかりの太陽。



「ここが……異世界?」



 Frontierに居た頃では考えられないくらいの刺激が全身を貫く。

 そよそよと素肌に触れるのはきっと風。

 ポカポカと全身を暖めるのはきっと温もり。

 サラサラと草が触れて足を撫でるのはきっと触覚。

 フワッと鼻腔をくすぐるのはきっと香り。


 あぁ……ここはなんて素晴らしいんだろう。

 こんなにも多くの刺激が全身を包む事が未だかつてあっただろうか。

 これが生身の体。

 私達がずっと眺めていたプレイヤーが感じていた世界。

 これが異世界。これがゲームの外。



「私、ここに来て良かっ……」


「おーい姉ぇちゃんー早く逃げろ!何ぼーっとしてやがる!急げ!」


「え?ん?」


「後ろだ後ろ!」


「ん?あーっ!?」



 急迫した感じで私に喋りかける男性の方を向くと、4本足で走ってくるズングリとした体型の生物の姿がある。

 あれ、何!?



「ほら!早く逃げるぞ!」



 ぱっと私の手を取る男性。

 つられて私もそのまま走り出す。



「あれ、何ですか!?」


「あぁ!?知らねぇのか!?ありゃベヒモスベビーだ!」


「ベヒモスベビー?」


「最高ランクの魔物のベヒーモスの幼体だ!だがその力はそんじょそこらの魔物の力を遥かに凌駕してやがる!……って!んな事いいから早くいくぞ!」



 ベヒモスベビー……

 前に回線ネットワークを通じてRPGのゲームに遊びに行った時、あれと似たような感じの魔物と戦った覚えがある。

 その時は確か強い事には強かったけど私の敵では無かった……

 うん。あれと同じ感じならいける!



「いや、あれは私が倒します!」


「はぁ!?姉ちゃんベヒモスベビーすら知らないズブの素人だろう!?それに女が1人で相手に出来るよう魔物じゃない!大規模な軍団を編成してやっと討伐出来る魔物なんだぞ!」


「大丈夫です!だって私は、幻闘士げんとうしだから!」


「グォォォォォォォ!!!」


「行くよ!あぁぁぁぁぁぁ!……あぁ?」


「姉ちゃん!?」



 あれ……?

 なんで私の体が見えるの……?

 体が動かせない?

 もしかして私、頭、飛ばされちゃった……?



「グォォォォォォォ!」


「だから止めろって言ったってのによ!クソっ!早くここから逃げて街にこの状況を伝えねぇと!」

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