夢の続き
第2章です!
どうぞお楽しみください!
白い世界だった。
音もない。
風もない。
ただ、どこまでも続く白。
ケイタは一人で立っていた。
足元には透き通る水が広がっている。
水面に映る空も、白かった。
「……ここは。」
見覚えがある。
昨日の夢だ。
そう気づいた瞬間、水面に波紋が広がった。
ポチャン。
一滴。
また一滴。
波紋はゆっくりと大きくなり、やがて一つの人影を映し出した。
長い黒髪。
白いワンピース。
昨日見た少女だった。
「君は……。」
少女はゆっくり振り向く。
「また会えたね。」
優しい声だった。
どこか安心する声。
「ここは夢なの?」
ケイタが尋ねる。
少女は首を横に振った。
「夢でもあるし、夢じゃない。」
「どういう意味?」
「その答えは、まだ言えない。」
少女は寂しそうに笑った。
「でも、一つだけ。」
そう言って右手を差し出す。
その手のひらには、小さな銀色の鍵が乗っていた。
「これを探して。」
「え?」
「本当の鍵は、あなたの世界にある。」
「待って! 君は誰なんだ!」
少女は答えない。
代わりに静かに歌い始めた。
言葉はわからない。
なのに胸が締め付けられる。
悲しくて。
温かくて。
懐かしい歌だった。
その歌が終わる頃、少女は小さく微笑む。
「急いで。」
「もう時間がないから。」
その瞬間。
世界にひびが入った。
パリン。
ガラスが割れるような音。
白い世界が崩れていく。
「待って!!」
ケイタは手を伸ばす。
少女も同じように手を伸ばした。
指先が触れる。
ほんの一瞬だけ。
「ケイタ!」
その声と同時に。
目が覚めた。
⸻
「……夢。」
ベッドの上。
朝日がカーテンの隙間から差し込んでいる。
時計を見る。
六時三十分。
目覚ましより三十分も早かった。
「また、あの夢か。」
夢の内容は昨日より鮮明だった。
少女の顔。
歌。
そして。
“鍵”
ケイタは制服へ着替えながら考える。
「本当の鍵……。」
夢の話なのに。
なぜか現実の出来事のように感じた。
⸻
学校へ向かう途中。
昨日ビー玉を拾った場所で、ケイタは立ち止まった。
何もない。
道路も。
電柱も。
昨日と変わらない。
「やっぱり夢だったのかな。」
そう呟いたとき。
キラッ。
足元で何かが光った。
「……!」
しゃがみ込む。
そこには昨日と同じ青いビー玉が落ちていた。
「なんで……。」
震える手で拾い上げる。
今度は消えない。
冷たい感触。
確かに存在している。
その瞬間だった。
「おーい!」
後ろから陽斗が走ってきた。
「何してんだ?」
「あ、いや……。」
慌ててビー玉をポケットへしまう。
「忘れ物?」
「違う。」
「じゃあサボり?」
「違うって。」
陽斗は笑いながらケイタの肩を叩いた。
「最近変だぞ、お前。」
「そうかな。」
「夢でも見た?」
その一言に、ケイタの心臓が跳ねた。
「……なんで?」
「顔に書いてある。」
陽斗はケラケラ笑う。
「昔からそうだろ。考え事すると眉間にシワ寄る。」
「そんな癖あった?」
「あるある。」
ケイタも思わず笑った。
少しだけ気持ちが軽くなる。
⸻
二時間目。
国語の授業。
先生が黒板に文字を書いていた。
突然。
カラン。
チョークが床へ落ちる。
先生はその場で固まった。
「先生?」
誰かが声をかける。
先生は黒板を見つめたまま、小さく呟いた。
「……読めない。」
教室がざわつく。
「え?」
「黒板の字が……読めない。」
黒板には先生自身が書いた文章。
それなのに。
先生は漢字の読み方を思い出せなくなっていた。
「保健室へ行きましょう。」
他の先生が駆けつける。
教室は騒然となる。
そのとき。
ケイタのポケットから。
チリン。
小さな音がした。
「……?」
ビー玉が淡く青く光っている。
誰にも見えていない。
光は教室の窓の外へ向かって伸びていた。
まるで。
「こっちへ来い。」
そう導いているようだった。
⸻
放課後。
ケイタは誰にも言わず、その光を追いかけた。
住宅街を抜ける。
川沿いを歩く。
知らない道へ入る。
十分ほど歩いた頃。
目の前に、小さな古びた時計店が現れた。
木造の二階建て。
看板には、かすれた文字で書かれている。
『時ノ止時計店』
「こんな店……あったっけ。」
近所のはずなのに、一度も見たことがない。
カラン、と鈴を鳴らして中へ入る。
店内には、壁一面の時計。
振り子時計。
置き時計。
腕時計。
砂時計。
数えきれないほど並んでいる。
だが、不思議なことに。
どの時計も針が動いていなかった。
「いらっしゃい。」
店の奥から、一人の老人が現れる。
白い髪。
丸い眼鏡。
穏やかな笑顔。
「君を待っていたよ。」
ケイタは思わず一歩後ずさる。
「……俺を?」
老人は静かにうなずいた。
「夢を見ただろう。」
その一言で、空気が変わった。
「どうして、それを……。」
老人は答えず、ケイタの胸元を指差した。
「ポケットの中を見てごらん。」
恐る恐るビー玉を取り出す。
青かったはずのビー玉は――
いつの間にか、銀色の小さな鍵へと姿を変えていた。
ケイタは息をのむ。
夢で少女が差し出した鍵と、まったく同じだった。
老人は静かに微笑む。
「ようこそ。」
「“境界”へ足を踏み入れた者よ。」
⸻
第2章 完
第2章見てくれてありがとうございます!
第3章と続きますのでお楽しみください!




