鳴音(なきね)
ぜひ是非少しでも気になったら見てほしいです!
どんな物語になるのかお楽しみに!
第一章 静かな木曜日
ボクは夢を見た。
その日、世界は変わっていた。
あんな夢を見るなんて思ってもいなかった。
⸻
ケイタがベッドから勢いよく飛び起きる。
心臓がうるさいほど鳴っていた。
夢だった。
そう思ったのに、胸の奥に何かが引っかかっている。
思い出そうとすればするほど、その夢は霧の中へ溶けていく。
誰かがいた気がする。
何かを言われた気もする。
けれど、そのどれもが思い出せない。
そんな静かな家の中に、十秒だけ時間が止まった。
ジリリリリリリ——。
突然、目覚まし時計が鳴り響く。
「ケイタ! 起きないと遅刻す……なんだ、起きてたのか。」
父が部屋の扉を開ける。
「ああ。起きてる。」
「珍しいな。今日は自分で起きたのか。」
「父さんの方こそ珍しいじゃん。起こしに来るなんて。」
「……そうだっけ?」
父は首をかしげながら笑った。
その笑顔を見ていると、胸が少しだけ苦しくなる。
理由はわからない。
「そういえば、お前寝言言ってたぞ。」
「え?」
「『待って』とか、『行かないで』とか。」
「……。」
そんなことを言った覚えはない。
「怖い夢でも見たか?」
「別に。」
そう答えたが、本当は怖かった。
夢の内容を思い出せないことが。
⸻
朝食はトーストと目玉焼き。
父は新聞を読みながらコーヒーを飲んでいる。
テレビでは朝のニュース。
「今日は各地で快晴となるでしょう。」
「新しい商業施設が——」
「プロ野球——」
いつもと同じ。
何一つ変わらない。
なのに。
なぜだろう。
何かが足りない。
「……父さん。」
「ん?」
「昨日って何してたっけ。」
「昨日?」
父は少し考える。
「仕事だな。」
「そのあと。」
「そのあと……。」
父は新聞から目を離し、しばらく黙った。
「あれ?」
「どうした?」
「いや……思い出せない。」
「疲れてるだけじゃない?」
「そうかもしれんな。」
父は笑って話を終わらせた。
でも、その笑顔はどこかぎこちなかった。
⸻
「行ってきます。」
父はもう仕事へ向かっていた。
返事はない。
それでもケイタは、小さく笑った。
「……行ってきます。」
誰もいない家に向かって、もう一度だけ言う。
その声は静かな廊下に吸い込まれていった。
玄関の扉を開ける。
いつもの住宅街。
いつもの朝日。
いつもの鳥のさえずり。
いつもの世界。
……だけど。
木曜日の朝は、いつもより静かだった。
静かすぎる。
毎朝聞こえる工事の音も。
踏切の警報も。
犬の鳴き声も。
全部、どこか遠くへ消えてしまったようだった。
風だけが吹いている。
なのに木々は揺れていない。
「……変だな。」
そう呟いた瞬間だった。
カラン。
足元で小さな音がした。
見ると、透明なガラス玉が転がっている。
ビー玉だ。
青く透き通った、不思議な色。
「誰のだろ。」
拾い上げる。
その瞬間。
――♪
かすかに歌が聞こえた。
「……え?」
振り返る。
誰もいない。
車も通らない。
自転車もない。
歌だけが風に乗って聞こえてくる。
言葉はわからない。
でも、どこか懐かしい。
初めて聞くはずなのに。
涙が出そうになるほど、懐かしい。
「……なんなんだ。」
歌はすぐに消えた。
そして、手の中を見る。
ビー玉も消えていた。
「……は?」
何もない。
握っていたはずなのに。
夢でも見ているようだった。
⸻
学校に着く。
教室はいつも通り騒がしい。
「ケイター!」
後ろから肩を叩かれる。
振り向くと、幼なじみの陽斗が立っていた。
「おはよ。」
「元気ないじゃん。昨日ゲームやりすぎ?」
「違う。」
「じゃあ彼女に振られた?」
「いたことない。」
「それもそうか。」
「うるさい。」
二人は笑う。
その時だった。
ガタン。
教室中が静まり返る。
一人の女子生徒が立ち尽くしていた。
「……どうした?」
先生が近づく。
女子生徒は困った顔で答えた。
「先生……。」
「うん?」
「私……。」
「自分の席が……わかりません。」
教室が凍りつく。
「え?」
「冗談?」
「違うの。」
女子生徒は本気で困っていた。
「毎日座ってるはずなのに……。」
その目には涙が浮かんでいた。
先生は優しく席まで案内した。
「疲れてるんだろう。」
そう言って授業が始まる。
だけど。
ケイタだけは気づいていた。
あの子だけじゃない。
クラスのみんなも。
先生も。
どこか、ほんの少しずつ何かを忘れている。
⸻
昼休み。
ケイタは屋上へ向かった。
一人になりたかった。
フェンス越しに町を見下ろす。
静かだ。
風だけが吹いている。
その時。
また聞こえた。
――♪
あの歌だ。
今度ははっきりと。
「誰……?」
空を見上げる。
青空しかない。
雲一つない。
けれど、その一瞬だけ。
白い羽が一枚、空からゆっくりと舞い降りてきた。
鳥の羽ではない。
雪でもない。
光でできているような、不思議な白い羽。
ケイタは思わず手を伸ばく。
羽が指先に触れた瞬間——
頭の中に、知らない景色が流れ込んできた。
果てしなく続く草原。
夕焼け色の空。
そして、その真ん中に立つ、一人の少女。
少女は振り返り、まっすぐケイタを見つめた。
その瞳はどこか悲しげで、それでいて優しかった。
少女の口が静かに動く。
『やっと……見つけた。』
その声が聞こえた瞬間。
世界が真っ白に染まった。
⸻
第一章 完
第一章見てくれてありがとうございます!
まだまだ続きますのでお楽しみください!
イサギマモル




